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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
小学校 みたきちゃん係(知的障害)
9/107

みたきちゃんが石をぶつけられた

 もうすぐ冬休み。


「ゆーき、ゆーき、ゆーき」


 この日の登校中、みたきちゃんは勇気の大切さを説いているのではなく、雪に興奮している。

 そう、今日は朝から雪がこんなに積もっている。この量なら雪だるまだって作れるだろう。

 はしゃいでいるのはみたきちゃんだけではなく、小学校低学年くらいの子もきゃっきゃと雪に足跡をつけている。

 僕達もあれくらい小さい頃はみたきちゃんにも自然に接することができただろうか?


「ぎゃはは、おまえなにやってんの、きったねー」


 声のする方を見ると、男子が3人くらい集まっていた。

 地面から湯気が見える。恐らくは雪の上に小便でもしたのだろう。

 みたきちゃんよりも彼らの方が汚いと思ってしまうのは、おかしいことかなあ?





「~♪」

「ってちょっとみたきちゃん! 真似しちゃ駄目だから!」


 あろうことかみたきちゃんはスカートとパンツを脱ごうとした。僕の顔が真っ赤に染まる。

 駄目だよもうみたきちゃんも11歳なんだからこんな所でおしっこなんて。

 いや年齢関係なく女の子がしちゃいけないんです!

 僕は寒空の中下半身を露出させようとするみたきちゃんを羽交い締めにする。


「ぎぇえええええええん!」


 みたきちゃんは泣き出してしまう。まずい、この状況を誰かに見られたら…

 仕方がない、僕はみたきちゃんの手を取って、人気のない場所へ走り出す。


「ここなら、誰も見てないよね……はい、みたきちゃん、いいよ」

「えへへ……じょーじょー」


 人気のない路地裏までみたきちゃんを連れていき、そこでみたきちゃんに小便をさせる。

 こんな事、本当に他人に見られるわけには行かない。


「おわった!」

「……うん、それじゃあ学校に行こうか。少し急がないと遅刻しちゃうよ」


 強引にみたきちゃんの手を取って、我先にと学校に向かって駆け出す。




「今日の1、2時間目はグラウンドで雪合戦をしよう」


 朝のホームルームで担任がそんな事を言いだす。

 僕はもうこの担任に対して失望しかしていなかったが、たまにはまともな提案をするものだ。

 みたきちゃんだけでなくクラスの男子勢もはしゃぎ、我先にへとグラウンドへ。





 グラウンドにもかなり雪が積もっていた。


「よう、高下。久々だな」

「山本」


 どうやら別のクラスも雪合戦をする予定だったらしい。クラスが違ってしばらく交流の無かった山本が雪玉を僕の顔にぶつけるついでに声をかけてきた。手袋もせずによく雪玉を掴めるものだ。


「最近、調子はどうよ。あんまいい噂聞かないけどさ」


 山本が心配そうに聞いてくる。山本はきっと僕の友人という立場と小学校という村八分な共同体の一員という立場で悩んでいるのだろう、それだけで僕は嬉しく思ってしまう。


「ま、ぼちぼちかな」


 自分でも今の状況が良いのか悪いのかわからない。まあ今は楽しい雪合戦の時間だ、子供は元気に遊ぶできなんだろう。


「だーるまさん、だーるまさん♪」


 みたきちゃんの姿を探すと、雪だるまを作っていた。元気でいいことだ。

 雪合戦の方は元々厚い服装の人が多いからか、誰が誰だかわからない大混戦。

 僕も自然とその輪の中に入る事ができた。

 雪の積もるグラウンドで、僕もみたきちゃんも関係なく、今日は仲良く遊べていると思った。





「びえええええええええん!」


 みたきちゃんの泣き声が聞こえる。雪だるまでも崩れたのかと僕がみたきちゃんの方を向くと、


「……! みたきちゃん、大丈夫!?」


 みたきちゃんは顔から血を流していた。くそ、監督不責任だ。

 僕はみたきちゃんの元に駆け寄り傷口を確認する。おでこの辺りに石をぶつけてしまったようだ。

 こけてしまったのだろうかと思ったが、


「この雪じゃこけたら跡が残るだろ。……誰かが、雪玉に石詰めて投げやがったな」


 一緒に駆けつけていた山本がそんな事を言う。

 雪玉に石だって? 誰かがみたきちゃんの顔めがけてそれを投げたというのか。

 おでこにそれが当たったのが不幸中の幸いだったのかもしれない。もし目とかに当たっていたら。


「おい! 誰だ! みたきちゃんの顔に石入れた雪玉を投げたやつは!」


 僕は珍しく口調を荒げさせて叫ぶ。女子がやったとは考えにくい、近くにいた男子共をにらみつけるが、皆目を逸らして、何事もなかったかのように雪合戦を再開した。


「おい! 誰が投げたって聞いてんだよ!」


 僕はまるでみたきちゃんのように、怒りに任せてそんな事を連呼する。


「高下、静かにしないか。女子が怖がっているだろう」


 担任の先生が僕を嗜めようとする。ああ、こいつはどうしようもないクズだ。

 こういう時こそ担任が怒るべきではないのか。犯人がわかるまで皆を帰しません、とか帰りの会みたいにやるべきじゃないのかよ!

 はっ、と大事な事に気づく。こんな所で怒りに身を任せている場合ではない。

 みたきちゃんを保健室に連れて行かないと。





 ずっと泣きじゃくるみたきちゃんを連れて、僕は保健室へ。

 保健の先生は不在だった。保健の先生にも見放されてしまったというのか、僕達は。


「みたきちゃん、ちょっと染みると思うけど我慢してね」


 僕はみたきちゃんの傷口に消毒液を塗る。


「……! にゃああああああ!」


 余程染みたのかみたきちゃんは更に泣き出してしまう。ごめんよみたきちゃんと思いながらも、あまり暴れるのは傷口に良くないだろうと考えて僕はみたきちゃんを押さえつける。

 最近みたきちゃんは僕に抵抗しなくなった。僕の言うとおりにするべきだと考えているのだろうか。

 その後ガーゼを貼る頃には大分落ち着いたらしく、


「あり、がと!」


 弱弱しく僕に笑って見せた。この傷がきっぽにならないといいのだけど。

 時計を見るともう3時間目が始まる頃だ。僕はみたきちゃんと共に教室へ。

 誰も僕とみたきちゃんに目を合わせようとしない。僕の顔が般若のようだったからか、みたきちゃんのおでこのガーゼが痛々しかったからか。




「ねえみたきちゃん、石を投げてきた人、誰だかわかる?」


 その日の放課後、僕はいつものようにみたきちゃんと帰る。


「わかんない」

「そっか」


 もしわかっていたら僕はどうしていただろうか、否、どうするべきだったのだろうか。




「そうだ、家の庭で雪だるま作らない?」

「……! うん! つくる! だるまさん! かまくらも!」


 その日の放課後、僕とみたきちゃんは課外授業を楽しんだ。

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