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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
高校2年 姫の苦労と僕の気苦労
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男高下、再び騎士となる

「というわけで、わしがお主をここに呼んだ理由がわかるな?」

「いや、全然わかりませんが」


 障害者用トイレに入るのは初めてだが、なかなか広い。姫宮さんは携帯ゲーム機をパタンと閉じると、ひょいと便座から降りて僕の方へやってくる。


「女が可愛らしい手紙で男を呼びつけてする話と言えば相場が決まっておろう?」

「僕が何か粗相を働いたのでしょうか?」

「告白に決まっておろうが。高下中よ、わしと付き合ってくれんか」

「……はあ?」


 告白? 姫宮さんが僕に?


「姫宮さん、人を騙すの下手だね。姫宮さんが僕に告白するなんて現実味がないし、大体告白するのに全然恥ずかしがってないし。首謀者は? 煉獄君にでも頼まれたの?」

「……ふむ、だったらわしがお主に告白する理由を言えば納得してくれるのか?」

「才色兼備のお嬢様が僕みたいな普通の高校生に告白する理由がきちんと言えるものならね」


 ライトノベルじゃあるまいし、美少女が普通の高校生、しかも幼馴染でもなければ日頃から会話をしているわけでもない人に告白なんてあるものか。一目ぼれ? 馬鹿馬鹿しい。


「お主意外と強気じゃな……簡単に言うとな、わしは寂しいのじゃ」

「……寂しい? 姫宮さん、普通にクラスメイトとやっていけてるじゃないか」


 姫宮さんが寂しいなんて言葉を使うことに激しい嫌悪を感じて、苛立ちながら語気を強める。姫宮さんは教室に入れば色んな人から挨拶されるし、休憩時間だってクラスの女子とお喋りをしている。寂しいなんて言っていいのは赤石さんみたいな人であって、彼女の様な恵まれすぎている人間ではない。


「そうじゃな。じゃが、寂しいというのは単に友達がいない時に使う言葉ではなかろう。何というか、周りと距離感を感じるのじゃよ。お喋りをしているようで話が合わない……お主もわしがいかに浮いている存在かわかるじゃろう? ならばわしが寂しいという感情を抱くことも認めてくれんか?」

「……まあ、確かに。で、それと告白に何の関係があるのさ。告白するなら、寂しさを埋めるなら、姫宮さんと同じようなイケメンでお金持ちな人が妥当じゃないの?」


 言われてみれば百瀬さんもクラスの人気者ではあったけど、実際には孤独を感じていたし心に闇を抱えていた。周囲の羨望を集めながらも、どうしても浮いてしまう姫宮さんが寂しいと感じてしまうこと自体は確かに自然なのかもしれない。けれど、だったら告白するべきは僕のような人間ではなくて、姫宮さんと同じような立場の人間ではないだろうか。


「わしもな、色々悩んだんじゃ。確かにわしと似た境遇の人と馴れ合うのも一つの方法じゃろう。しかしなあ、それは一種の逃げにも思えるんじゃよ。実を言うとな、わしがこの高校に入学した理由は、見聞を広めるためなんじゃよ。ずっとお嬢様学校じゃと視野が狭くなるって親に言われてのう」

「いい親御さんだね」

「どうじゃろうか、結局わしはこうして寂しさを感じて苦労しとるんじゃけど。まあ親の言う事も一理ある、わしもできることなら近場でわしの孤独を真に理解してくれるような理解者を作りたいと思っておったんじゃよ。そしたらある噂を聞いたのじゃ。なんでも孤独を抱えている女の子と付き合っては、食い物にして捨てる男がおると」

「最悪な男だね……」


 聞いただけでムカムカするような話だ。孤独を抱えている女の子は優しく接しないといけないのに、食い物にしようと近づくなんて、同じ男として許せない。


「不思議なことに、その男に捨てられた女は孤独とおさらばができるそうじゃ」

「信じがたいなあ、そんな人本当にいるの?」

「お主の事なんじゃけど」

「……は?」


 僕を指差す姫宮さん。僕が? 孤独を抱えている女の子を食い物にして捨てる? ははは、まさか。


「そんな人がいるなら是非わしも救ってもらいたいのうと思って調べてみたら、お前のことじゃったぞ、高下中よ。じゃから告白したのじゃ。ドゥーユーアンダスタン?」

「……姫宮さん、君は大きな誤解をしているよ」


 確かに僕はみたきちゃん以外にも、色んな孤独を抱えている女の子と関わってきた。けど、付き合ったのなんて赤石さんの時くらいなものだし、僕は食い物にしようと思って近づいたわけじゃない。


「じゃが、お主が孤独な女の子を救ってきたヒーローなのは間違いあるまい? お主には悪いが少し調べさせてもらったぞ。随分なプレイボーイじゃのう、しかも煉獄と郡山をくっつけて、百瀬にも恋人を作ったそうではないか、恋愛の達人じゃな」

「僕はヒーローでもなんでもないよ。大体僕には」

「本命がおるんじゃろう? 知っておるよ、そしてその本命としばらく逢えんことも」

「……」

「お主も恋人に逢えんで寂しいのじゃろう? その寂しさを、わしを救うために奮闘することでまぎらわしてみんか?」


 姫宮さんの言い分は大体わかった。確かにそこらの男よりは、僕の方が彼女の問題を解決できる確率は高いのかもしれない。僕としても、何もせずにみたきちゃんみたきちゃんと嘆くよりは、彼女に親身になることで気分転換をするべきなのだろう。


「わかったよ。不肖高下中、お姫様の悩みを解決するために精一杯努めさせて頂きます」


 その場で謁見する時にやるあのポーズをとってみようとしたが、ここがトイレだという事に気づいて軽く頭を下げるだけに留める。


「……意外じゃな、まさかこんなにすんなりといくとは思わんかった。正直変な人だと思われて悪評を振り撒かれるのではないかと思ってその仕返しも考慮していたが、やはりお主は場数を踏んでいるだけ寛容なのじゃな、流石じゃ」

「いや、正直変な人だと思ってるけど。そもそも何でこんな場所に呼びつけたのさ」

「ふ、堂々とわしにそんな事が言えるとは、少し気に入ったぞ。この場所にした理由か? 当ててみよ」

「僕が拒否したら大声で叫ぶぞって脅迫するつもりだったとか?」

「わしはそこまで鬼畜ではないわ。ここはわしのお気に入りの場所なのじゃよ」


 障害者用トイレがお気に入りの場所な女の子ってどうなのだろうか。

 少し姫宮さんの提案に乗った自分を後悔していると、姫宮さんは何故か得意げになってトイレの解説をし始める。


「まず、ここは個室じゃから、誰にも邪魔されん。疲れた時とか食事の時とかは、ここで誰にも邪魔されずに自分の時間を楽しんでおるのじゃ。そしてわしは狭い所よりは広い所が好きじゃからな、広いここはうってつけなのじゃ」

「いや、本来使うべき人に迷惑でしょ」

「大丈夫じゃよ、今のところここを使う人なんざおらんみたいじゃし、そもそもこの場所自体知られてないからの。お主も、今まで知らんかったじゃろ?」

「まあね」

「それに便座は座るとあったかくて寒がりなわしも満足じゃ。……ゲームで忙しい時に催しても、すぐに用が足せるしの」


 思考回路がボトラーのそれだ。


「……トイレの話はもういいよ。で、具体的に僕は何をすればいいの?」

「まあ基本的にはあれじゃな、わしの愚痴を聞いたり、わしの相談に乗ったり、さしずめここはわしの部屋で、お前はその部屋へ通う執事じゃな。わしと付き合ってます、だなんてアピールする必要もないぞ、お互い面倒じゃろう」

「だろうね」


 いつだったかの赤石さんみたいな関係か。赤石さんに比べれば、姫宮さんはそんなに病んではいなさそうだから少し気が楽だ。赤石さんとはまた別の意味で、疲れそうな子だけど。


「呼び名も今まで通り『姫宮さん』でええぞ。わしも今まで通り『高下中』と呼ぶからの」

「できればフルネームはやめて欲しいんだけど……」

「何となく一度に言いたい名前なのじゃ。まあそんなわけでよろしく頼む。……とりあえず」

「とりあえず?」


 花を摘まないといけないから今日はもう帰っていいぞと、少し恥ずかしそうに言う姫宮さん。

 トイレも正しい使われ方をして本望だろうと僕はその場を後にするのだった。







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