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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
高校2年 姫の苦労と僕の気苦労
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待ってるからね、みたきちゃん

「退院おめでとう、赤石さん」

「ありがとう。……はあ、本音を言うと、ずっと病院で過ごしていたいって気持ちも、あるにはあるね。でも、高下君が前に進めたんだから、私も進まないとね」


 百瀬さんが幸せを掴むことができてからしばらくして、赤石さんが退院することになった。

 お土産に本を持って病室にやってきた僕に微笑む赤石さん。その顔の半分は見るも無残だったけど、もう僕は目を逸らしたりなんかしない。


「これからどうするの?」

「まあ、しばらくは家事手伝いしながら賞に応募……かなぁ。整形も考えてはいるんだけど、顔半分だけ整形したら不自然すぎるから、やるなら全部だろうね。ま、仕方ないか。なるようにしかならないよ」

「そっか。……お互い、頑張ろうね」

「そうだね、私の人生も困難が待ち構えているだろうけど、君も今の恋人とずっと一緒にいようとするなら、色んな壁にぶつかるだろうね。でも、多分私達は大丈夫だよ、嘘でもまずはそう思わないと」

「うん……それじゃ、縁があったらまた」


 本を赤石さんに渡して病室を出る。

 そうさ、赤石さんの言うとおりだ。戦う前から、気持ちで負けてちゃいけない。

 僕達は、大丈夫。きっと幸せを掴める。



 それから煉獄君と郡山さんがクリスマスに初体験しちゃったとか、乾さんが彼氏を作ったとか、白金さんが補導されたとか、そんな事がありながらも高校一年生は無事に終わって春休み。



 みたきちゃんと部屋でレースゲームをする。初めは壁にガンガンとぶつかっていたり、逆走ばかりしているみたきちゃんだったけど、飲み込みが早いのか今ではちゃんとコースを周れるようになった。


「あのねあたるくん、だいじなおはなしがあるの」


 接待プレイでみたきちゃんを1位にした後、次は格闘ゲームでもやらせてみようかなとソフトを変えようとすると、突然みたきちゃんが僕を見つめてそんな事を言う。


「何かな? みたきちゃん」


 みたきちゃんに真剣に見つめられるとドキドキしてしまう。

 ひょっとしてプロポーズだろうか。残念ながら僕はもう結婚できる年齢だけど、みたきちゃんはまだ無理なんだよ……とニヤつきながら微笑ましい妄想に浸っている僕だったが、みたきちゃんが少し寂しそうな顔をしている事に気づいて僕も真顔になる。ひょっとして、悪いニュースなのだろうか。


「あのね……わたしね……ちけんしようとおもうの」

「……痴漢!? ちょっと待ってみたきちゃん、痴漢されたの? 犯人は? 顔覚えてる?」

「ちがうの、ちかんされたんじゃなくてちけんするの」


『ちけん』なんて聞きなれない単語に、痴漢だと思って慌てる僕だったが、みたきちゃんは本当に『ちけん』と言っているようだ。『ちけん』って何だろうかと自分の頭の辞書を引く。知見、地検、治験……治験!?


「治験? ひょっとして、みたきちゃん病気なの?」


 そうだ、治験だ。でもなんでみたきちゃんが。大体治験って、アルバイトだろう? どうしてみたきちゃんがそんな事をするんだ。


「うんとね、わたしのあたまがよくなるかもしれないって」

「頭がよくなる……って、ちょっと待って」


 最近ニュースで、そんな話を聞いたような気がしてインターネットで検索をかける。

 アメリカの研究によれば、脳の手術と適切な教育プログラムを組むことで、知的な障害をある程度緩和できるらしく、成功例もあるらしい。そして現在、モニターが募集されているそうだ。それを見た瞬間、怒りがこみ上げる。


「……ふざけんな! 脳を手術だって!? そんな危険な事、みたきちゃんがする必要なんてあるはずがない! 治験だ? みたきちゃんの親が、やれって言ったのか!? いい両親だと思っていたのに、子供を金で売るなんて……みたきちゃん、今から一緒に抗議しに行くよ」

「ちがうの! わたしが、しゅじゅつしたいの」


 激情に任せてみたきちゃんの家に乗り込む覚悟だった僕を、そう言って引き留めるみたきちゃん。


「……みたきちゃんの、意思なの?」

「わたし、あたるくんのことすきだよ。でもわたし、ふつうのおんなのこじゃないってわかってるの。あたるくんといっしょにいるとうれしいけど、わたしがへんなおんなのこだからめいわくかけてるんじゃないかって、くるしいの。だからあたるくんのために、ちゃんとしたおんなのこになりたいの」

「……」

「こないだね、しさつにきたひとが、わたしをみておどろいたんだよ。かなりせいちょうしているって。これならしゅじゅつがうまくいくはずだって、わたしをあめりかのびょういんにすいせんしてくれたの。きっと、あたるくんのおかげなんだよね?」



 みたきちゃんの想いを聞いて、何も言えなくなる。

 みたきちゃんは僕が思っているよりも、ずっと自分について悩んでいた。

 僕が思っているよりも、ずっと大人だった。



「……決意は、固いんだね」

「うん。でも、あたるくんがだめっていうなら、わたしやめる。わたしはもっとおとなになりたいけど、あたるくんがいまのままでいいっていうなら、がまんする」

「手術は、どのくらいかかるの?」

「いちねんくらいかかるって」

「……そっか」


 みたきちゃんが、変わりたいって言っているのだ。

 大切な人だから、みたきちゃんの事を誰よりわかっているから、そんな理由をつけて彼女を縛り付ける権利が、僕にあるはずもない。僕はみたきちゃんを思いきり抱きしめると、


「うん、行ってきなよ、みたきちゃん。一年くらい、待てるからさ。大人になったみたきちゃんを、楽しみにして、待ってるからさ」

「うん、うん、ありがとう……わたし、がんばるね」


 泣きながら、みたきちゃんとのしばしの別れを受け入れた。

 みたきちゃんも泣きながら僕を抱きしめる。その後僕達は愛し合って、しばらくしてみたきちゃんは本当にアメリカに行ってしまった。



 大丈夫、一年なんてあっという間、その後は、みたきちゃんとの幸せな人生が待っているんだ。

 だから、待ってるからね、みたきちゃん。

治験についての突っ込みはスルーします

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