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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
高校1年(下) 僕とメシアな彼女(メサコン)
85/107

騎士は王子様を説得する

「乾さん、今週末映画見に行かない?」

「ごめんなさい百瀬さん、今週は家族の用事があって……」

「そう……」


 あの場所から逃げるために、親に言い訳ができるように、必死になって用事を作ろうとする百瀬さん。

 これでいいのだろうか。これで百瀬さんは、あの場所から抜け出すことができて幸せになれるのだろうか。



「逃げた先に幸せなんてないんだろうね。みたきちゃんと関わって、見たくないものを色々見てきたよ。でも、今の僕があるのは、それに立ち向かうことができたから。決して僕は、逃げて逃げて、みたきちゃんに依存しているわけじゃないんだ」

「あたるくんは、がんばってるよ! わたしをまもってくれるよ!」

「そうだね……けど、男と女ってのは、単純な問題じゃないんだよ」


 みたきちゃんとベッドの中で抱き合いながら物思いにふける。

 百瀬さんをこのままにしてはいけない。けど、彼女があの場所に行きたくない、山本に会いたくないという気持ちも痛いほどわかる。あれだけ目の前で怒鳴られて、軽蔑されて、呆れられたのだ。好感度なんて、負に傾ききっているだろう。そんな相手に恋したところで切ないだけだ。山本の事は諦めてもらって、本当に新しい恋を見つけさせる、という妥協案もあるにはあるが、できることなら百瀬さんにはきちんと気持ちを伝えて欲しいし、結ばれないとしても山本と和解して欲しいものだ。



「というわけで、再び意見を求めたいんだ」


 困った時はクラスメイトに頼ろう。翌日の放課後、百瀬さんが帰ったのを確認した僕は白金さんと乾さんを呼んで事情を説明し、対策会議を行うことにする。


「……っふざけすぎですよその男! そんな男に恋するなんて百瀬さんどうかしてます! 目を覚まさせましょう!」


 話を聞くや否や激昂して机をガンガンと叩き出す乾さん。乾さんからすれば僕はそれなりにタイプらしいが、山本は相当嫌いなタイプのようだ。


「えー、ウチはアリだと思うけどなあ、漢らしいっていうか」

「はぁ? 白金さん正気ですか?」

「ま、今までの経験上、漢らしい奴の方が一緒にいて楽しめたな」

「? 白金さん彼氏できたことないんじゃ」

「あ、あー、それはだな、……そう、ガールズゲーだ! こう見えてウチは少女漫画以外にも、ガールズゲーの達人なんだよ」


 バツが悪そうに乾さんから目を逸らす白金さん。そりゃあ割と純粋そうな乾さんに、『彼氏はできたことないけど、援助交際やってます★』なんて言えるはずがない。白金さんも自分のしていることがいかに後ろめたいことかを自覚して、そのうち真っ当な人間になっていくのかもしれない。大人になるということは、きっとそういうことなのだろう。


「とにかく、もう百瀬さんその人に嫌われてるんでしょう? 私もあの場所で見ましたもん、目の前であの男が思いきり百瀬さんを怒鳴っているとこ。百瀬さんの見る目はともかく、向こうにその気がないんですから諦めさせるべきですよ」

「いや、ウチはそうは思わねえな。好きの反対は無関心で、好きと嫌いは表裏一体っていうだろ? 相手の事を想っているからこその行動だって。つうか高下、お前そいつの知り合いなんだから直接聞きにいけばいいだろ、本当のところはどう思ってるのかって。両想いならハッピーエンド、めでたしめでたし」

「そんなの全然ハッピーじゃないです! あんな男と結ばれたって、百瀬さんそのうち不幸になるだけです!」


 その後恋愛に対する価値観の食い違いで論争を始める二人。この場に残っていたらロクなことにならなさそうだとコッソリ抜け出しながら、白金さんの言うとおり直接コンタクトを取ることにする。

 とはいえ、実を言うと僕は山本のアドレスすら知らない。小学校の頃の連絡網も捨ててしまっただろうし、百瀬さんなら連絡先を知っているかもしれないけれど今の彼女の前で彼の名前を出すことすらナイフになってしまう。確実に会いたいならば、またあの場所に行くべきなのだろう。




 そんなわけで週末、できることなら行きたくないと思いつつも何度もこの場所に足を運んでしまう。

 百瀬さんはクラスの子と遊びに行ったようだ。動機は悲しいけれど、結果的に百瀬さんがサボる言い訳のために友達を作るようになったことは喜ばしいことなのかもしれない。イベントの開始時間より早めに来て、入り口の辺りで待ち構えていると、


「……! 何でお前がここにいるんだ、高下」

「やあ山本。家族は?」


 不機嫌そうな山本がやってきて僕の顔を見て驚き、更に顔を不機嫌にさせる。

 山本は嫌々来ているらしいから、てっきり家族に連れられてくると思っていたのだが、予想を裏切り彼は一人でやってきた。


「どうでもいいだろそんなこと。お前もうここには来るなって言っただろ……そうだ、お前に聞きたいことがある」

「うん、僕も山本に用があったからここに来たんだしね」

「そうか。……百瀬は今どうしてるんだ? 最近ここに来てないんだが、学校に来てるのか? 引きこもってるのか?」


 百瀬さんの安否を確認しようとする山本。あれだけキツく怒鳴っておいて、まるで『二度と俺の前に姿を見せるな』くらいのオーラを出していたのに、いざ本当に百瀬さんが姿を消すと気にしだすなんて、どうやら白金さんの言っていたことは当たっているようだ。



「百瀬さんなら、僕と付き合ってるよ。僕とのデートが楽しいからもうこの場所には来たくないってさ」

「……は、はぁ!?」


 よし、カマをかけよう。百瀬さんと付き合っていると言った瞬間、山本の顔が強張る。何となく彼を挑発してみたかったという僕の悪戯心も合わさり、自分の中では自然な演技をかましてみせる。


「百瀬さんは山本の顔なんてもう見たくないから、代わりにそれを伝えておいてくれって頼まれたんだよ」

「ま、待て。高下、俺をからかってるよな? 知ってんだよ、お前がみたきちゃんと付き合ってるの」


 露骨に動揺する山本。どこからか情報が漏れていたようだが、だとしても僕はとぼけるのをやめない。


「あらら、ばれてたか。みたきちゃんはセフレだよセフレ。みたきちゃん馬鹿だからね、部屋に招いてお菓子あげるだけで股を開いてくれるんだよ。でもやっぱりみたきちゃんと一緒にいるところを見られると、僕まで同類扱いされちゃうからね。その点百瀬さんは可愛いし性格もいいし、周りに自慢できる彼女だよ」

「て、てめぇ……!」


 白金さんに汚染されてしまったせいで下品な言葉を自然と使うようになってしまった自分が悲しいが、白金さんの言うとおり山本が百瀬さんの事を想っているのなら、こんな事を言われてキレないわけがないだろう。


「……ったく、そんな嘘にひっかかるわけないだろ。俺を試したんだろ? お前がそんな奴じゃねえってことくらい、短い付き合いだけどわかってんだよ」


 てっきり殴りかかってくると思っていたが、山本は僕がそんな卑劣な人間であるはずがないと確信していたのか冷静になり、肩を竦める。


「わかったわかった、俺の負けだ。白状するよ。あんときはカッとして滅茶苦茶怒鳴っちまったけど、別に百瀬の事をそんなに嫌悪してるわけじゃないんだよ。冷静になって、謝らないとなと思ったけど本人来ないからさ。で、何で来なくなったんだ? まあ、来ない方があいつのためだと思うけどよ」

「……山本の顔が見たくないから行きたくないってのは本当だよ」

「そうか。嫌われたもんだな。……代わりに謝っといてくれ、じゃあな」


 自嘲気味に笑うと、山本はこの場所にもう用はないと言わんばかりに、僕に背を向けて帰ろうとする。


「待てよ山本。話は終わってないって。お前、百瀬さんの事好きなんだろ?」

「……何を証拠に」

「お前本当は、百瀬さんに会いたいためだけにここ来てるんだろ?」

「!? そ、そんなわけないだろ」


 最初から山本の話を聞いて不思議に思っていた。気が強そうな山本なら、親に反抗してここに来ないなんていう選択肢もあるはずなのに、それをせずに毎回サボりながらもここに来るなんて。しかも今日に至っては一人で来ているし、百瀬さんが来ていないと知るや否や帰ろうとする。それについて追及されるとは思っていなかったようで顔を少し赤らめて狼狽える山本に、


「ほとんどストーカーだよね」

「……」


 思ったことをそのまま口に出すと、観念したらしく気まずそうに僕から目を逸らす。

 最初から予定調和のハッピーエンドじゃないか。山本が気が強いと思わせておいて意気地無しなばかりに、百瀬さんの事を心配しておきながら彼女の暴走を止めることができないばかりに、どうして僕があんな危険な体験までしないといけないんだ。反省して欲しいよ、まったく。


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