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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
高校1年(下) 僕とメシアな彼女(メサコン)
83/107

騎士でも少しは救える

 この日の朝僕が学校に向かうと、


「そういえば来月から始まるケータイ小説系ドラマ、白金さんは見ますか?」

「もちのろんよ。あれは見ないと人生七厘くらい損するね」

「出てくる俳優さんも私の好みですし、見逃せませんね!」


 教室で白金さんと乾さんが仲良さげに会話していた。すっかり打ち解けたようだ。

 これで乾さんの問題も解決に向かい、乾さんを心配していた百瀬さんも気が楽になることだろうと思って百瀬さんの方を見ると、


「……」


 すごく死にそうな顔をして二人を眺めていた。そうか、乾さんを取られたと思ったのか。

 乾さんを救おうとしているようで、百瀬さんも乾さんに救われていたのだろう。クラスで浮いている乾さんとお喋りすることで、自分の寂しさも紛らわせていたんだ。人気者なようで、親しい友人を作る事が出来ず、誰かを救うための行動しかできない彼女。救うとか救われるとか誰かの役に立つとか関係なしに、あの二人の輪に入ってドラマの話でもすればいいのに……と思うが、彼女にとっては酷な話なのだろう。それ以外のやり方がわからないんだ。



「おはよう百瀬さん」

「……おはよう、高下君。あの二人、いつのまに仲良くなったのかしら」

「両方趣味が少女漫画で、気が合ったみたいだよ。意外だよねえ」

「そう……もうこれで、私の役目も終わりね」


 百瀬さんに話しかけると、大きなため息をついてうつむく。自らのアイデンティティを失い、虚無に支配されているようだ。やはり新しい何かを見つける手伝いをするべきなのだろう。

 しかし白金さんと乾さんと話し合った結果は、恋愛だ。確かに恋人を作ることは、手っ取り早く充実した人生を得るための方法の1つだろう。けど、他人の恋愛に干渉するという行為は、諸刃の刃でもある。そもそも百瀬さんは好きな人がいるのだろうか? 恋をしたいと思っているのだろうか?



 とりあえずは陰鬱になっている百瀬さんを何とかして気分転換させるべきだろう。


「百瀬さん、今週の土曜日、僕とデートしない?」


 そして僕は女の子に気分転換させる方法と言えば、デートくらいしかできないのだ。不器用な男である。

 うつむいている百瀬さんを誘うと、想定外の言葉だったのか顔をあげてきょとんとする。


「……高下君、彼女いるよね?」


 そう、問題は彼女がいるとばれていることだ。二股を堂々とかけようとする人間の言葉など、正義感の強い百瀬さんに響くはずがない。


「うん。正直に言うと、百瀬さんが心配でね。気分転換してスッキリしてもらいたいんだよ」

「……優しいんだね、高下君は」


 百瀬さんに胸のうちを曝け出してもらったのだ、こちらも本心をきっちり伝えるべきだろう。

 百瀬さんの目を見てしっかりとそう伝えると、少し笑って、


「……けど、今週は土曜も日曜も、集会に行かないといけないから」


 しかしすぐに残念そうな、悲しそうな顔になる。百瀬さんはあそこから逃れることは未だできていないようだ。親の後を継ぐように一生あそこに囚われ続けるのかもしれない。けど、それじゃあ駄目だよ。


「だったら尚更だよ! 百瀬さん、本当はあそこに行きたくないんでしょ? もう百瀬さんも高校生なんだ、親が何さ。恋人ができたからデートするとか、予定でっちあげてでも逃げ出さないと。百瀬さんは信じてないって言うけど、僕にも周りの人間にも、熱心な信者にしか見えないし、今はよくても、数年後は本当に信者になってるかもしれないんだよ? それでいいの?」


 机をガンと叩いて百瀬さんを説得する。多分百瀬さんは、今まで一度も宗教絡みの用事を休んだことは無かったのだろう。そんな彼女を説得するには、ありったけの僕の想いを伝えるしかないんだ。


「高下君、教室でそんな話しないでよ……聞こえちゃうじゃない」

「ご、ごめん……え、えーと、何でもない、何でもないよ。ペットの金魚がね、死んじゃいそうって話をね、ははは……」


 思ったよりも声が出てしまったようで、教室中の注目を浴びてしまう。そうだった、そもそも秘密にしておかないといけない事なんだった。白金さんも乾さんも口は堅いからバラすことはないだろうと安心していたのに、僕がバラそうとしてどうするんだ。白金さんと乾さんに助けを求めつつ必死で弁解していると、


「ぷっ、ふふふっ、変な高下君。……うん、高下君の言うとおりだね、そろそろ反抗期にならないと。エスコートしてね、騎士様」


 ツボにはまったのか、くすくすと笑いだしてデートを了承する百瀬さん。作り物ではない、自然な笑みだ。







「おまたせ」

「おはよう百瀬さん。親には何て誤魔化したの?」

「高校の課外活動があるって言って、お小言聞く前に逃げてきちゃったよ。今すっごいドキドキしてる。背徳感ってやつかな、それともときめきかな」

「あはは、面白いね百瀬さん。素でそれなら、乾さん達とも普通に友達として付き合えるよ」

「そうかなぁ……ううん、例え趣味が合わなくても、友達にはなれるよね」


 土曜日の朝。駅前で待っていると、目いっぱいおしゃれしたのか、集会の時に見た時よりも煌びやかな洋服に身を包んだ百瀬さんがやってくる。けれど頑張りすぎて少し浮いているような気もする。あまり休日にプライベートでお出かけしたことがないからなのだろう。そして僕は逆に慣れすぎている。しかも彼女以外とのデートに。浮気性な僕を許してねみたきちゃん、と懺悔しながらまずは映画館へ足を運ぶ。



「ちゃんとした映画を映画館で見るのっていつぶりだろ」

「ちゃんとした映画?」

「うん、すごい胡散臭い、自己啓発用のアニメとかドラマとか、そういうのを見させられて来たからね。でも、逆に笑えるよ、あれは。傍から見るとギャグにしか思えないけど、当人たちは本気なんだからね」

「ははは、あんまり宗教自体を否定するのはよくないよ。百瀬さんのいるあそこは、僕もおかしいと思うけどね」

「だよねえ、おかしいよねえ」


 映画館でどの映画を見るか選びながら、とりとめもない話をする。僕が信じているのはみたきちゃんという唯一絶対の女神。百瀬さんも、恋をして好きな人のために頑張れるようになればきっと変われるさ。というわけでうまいこと誘導して、恋愛系、それも高校生モノの映画を見ることに。


「え、ええ~、最近の高校生ってこんなこと普通にするんだ……高下君も、してるの?」

「え? あ、あはは……百瀬さんは、こういう恋愛してみたいって思う?」

「……まあ、人並みにはね」


 予想外に濡れ場が多くて、恋人でもない女の子と一緒に見るのには相応しくない映画だった。百瀬さんも途中で顔を赤くしながら、恋人のいる僕にそんな事を聞いてくる。恋人が知的障害者だと知られている手前、うかつに毎晩のようにエッチなこともしているなんて言えずに誤魔化して、百瀬さんに恋愛願望があるのかどうか聞いてみたが、顔を曇らせてしまった。




「んー、ケーキ美味しい。高校生の女の子の休日は、こうでなくっちゃね。私結構甘い物好きなんだよ」

「僕も昔は好きだったけど、段々味覚が変わってきたのかなあ。コーヒーも昔は飲めなかったけど」

「よくコーヒーなんて飲めるね、私には無理だよ」


 映画を見た後は、近くの喫茶店に入って軽食をとる。本当に甘い物が好きなのか、ほっこりとした笑顔を見せる百瀬さん。いい感じに気分転換が出来ているようだ。


「今は……1時かあ。本当だったら朝から夕方まであの場所に拘束されてたけど、今の私は自由なお姫様だね。ま、高下君は本当の王子様じゃない。私を心配して行動くれる騎士様だけど」


 休日の昼間に自由でいられるのが余程お姫様にとっては嬉しいらしい。確かに僕は百瀬さんの王子様にはなれないけれど、騎士として王子様をどうにかして紹介したいものだ。


「王子様ねえ……ところで百瀬さん、好きな人とかいるの?」

「……うん。正確には、いた、かな。もう、諦めたから」

「……そっか。大丈夫だよ、百瀬さん可愛いから、すぐに次の恋が始まるよ」

「うん、うん……」

「ケーキ食べ終えたら、雑貨屋行こうよ。実は彼女に誕生日プレゼント考えてるんだけどさ、女の子の意見欲しくって」

「うん……」


 百瀬さんに好きな人がいるのなら、恋のキューピッドとして頑張ろうと思ったのだが、百瀬さんは弱弱しくそう呟くと、ケーキに口をつけずにプルプルと、今にも泣きだしそうな顔で震えだした。一体何があったのかはわからないけど、失恋したのだろう。しまったなあと思いつつ、深入りはせずに百瀬さんを宥めてデートプランを練るのだった。

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