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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
高校1年(下) 僕とメシアな彼女(メサコン)
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救えど救えど救われない

「……俺も百瀬も、物心ついた時から親が入信してて、こういう場所に毎回のように連れてこられたんだ。同じ学校になったことはないけど、同い年だし、境遇も似てるってことで、まあ小さい頃は仲が良かったんだけどな」


 散らかしてしまったゴミ箱を片づけた後、テーブルに座って山本と情報交換をする。


「僕は百瀬さんと同じクラスになってね。百瀬さんいつも皆のために働いてるから、その手伝いをしようと思って自然と仲が良くなったんだけど、段々不審に思っちゃって」

「……で、こんなとこにきちまったってわけかい。……お前の他にも、被害者がいるんだったか」

「被害者って……クラスで浮いてる子がいて、百瀬さんその子に積極的に話しかけてたりしてたんだけどさ。途中から、友達紹介するとか言ってその子をサークルに勧誘して、どんなサークルなんだろうと思ったらここだったからさ、途端に不安になって」

「囮調査に来たってか。お節介だな、お前も。……ま、あの馬鹿に比べればマシか」


 貧乏ゆすりをしながら苛立った態度で話す山本。そんな山本に、根本的な疑問をぶつけてみる。


「……百瀬さんは、この宗教にハマってるの?」


 行動だけ見ていれば、百瀬さんはこの宗教の熱心な信者に見える。

 けど、実際に百瀬さんと会話したりしてみると、どうしてもそうは思えないのだ。

 お金儲けのために信者を増やしているようにも思えない。

 百瀬さんに嫌悪を抱きながらも、何か仕方のない理由があるのではないか? と思った僕は、そもそも百瀬さんはどういう立場なのかを知っておこうと思ったのだ。


「いや、全然。あいつは賢いからな、これっぽっちもハマってないだろうよ。金儲けをしようなんて考えもない」

「じゃあ何で他人を勧誘するの。何がしたいの百瀬さんは」


 宗教にハマってもない、金儲けも考えてない。増々意味がわからない。

 困惑するように問いかけると、山本は一際大きなため息をつく。


「……他人を救いたいんだとよ。救えない女だよなあ」

「はぁ?」


 他人を救いたい? 自分がハマってない宗教に他人を勧誘して?

 滅茶苦茶すぎて、キレ気味になってしまう。


「本当に意味不明な女だよ。どうして自分が信じられないものを、他人に信じさせようとするかね……そろそろ講演が終わるはずだ。あの女に文句言いに行こうぜ」


 立ち上がって会場の入り口に向かう山本に続く。講演が終わったらしく帰りはじめたり、また別の会合があるのか違う場所に向かったりする人達の中に、百瀬さんと乾さんを見つけた。


「あ、山ちゃん……と……え……え?」


 百瀬さんの方が山本に気づいたらしく声をかけてくる。そしてその横に立っている僕の姿を見て、怯えたような顔になる。事情がわからない乾さんは、僕と山本から目を逸らして震える百瀬さんを心配しだす。


「よう、百瀬。俺の昔のダチまで毒牙にかけようとするなんてなあ」

「こんにちは、百瀬さん」


 軽蔑したような目で百瀬さんを睨みつける山本。ある程度は事情を察したようで、


「違う、違うの……私は、私は……」


 百瀬さんは目にじんわりと涙を浮かべながら弁明をしだす。


「黙れよ。今まで黙ってた、見過ごしてきた俺が馬鹿だった。なあ、お前今まで何人犠牲者を増やしてきたんだよ? その隣にいる子みたいな子を、何人生みだしてきたんだよ。なあ、お前本当に、それでそいつらが幸せになれると思ってるのかよ。自分はここにいても幸せになれないと思ってる癖によお!?」

「……! 違う、違う、違う違う違う! 私は間違ってない! 皆ここで幸せを掴めてるし、私も幸せを掴めてる!」

「何が幸せだ! 幸せを掴めないから、性懲りもなくこんなことしてるんじゃねえのかよ!」

「……違う、違う……ね、ねえ乾さん。乾さん、今幸せよね?」


 山本に非難されて軽いパニック状態になっているのか、救いを求めるように隣で不安そうに成り行きを見守っている乾さんに問いかける百瀬さん。


「はい。ここにいれば、百瀬さんや他の皆とお喋りが出来ますし、私今楽しいですよ。百瀬さんには感謝してます」

「……! ね、今の聞いた? この子も、ここにいて良かったって」

「でも……ここの人の言ってる話、全然わかんないんですよね。私の話を聞いてくれるのは嬉しいですけど、今日の講演も、聞いているうちにどんどん不安になって。私、ここにいていいんでしょうか? 何だか別のところで、友達を作った方がいい気がしてきました」

「……違う、違うわ乾さん。乾さんは、ここにいれば幸せになれるの。ほら、皆幸せそうでしょう? ……私、ちょっと用事があるから、またね」


 辺りにいる信者を見渡した後、どこをどう見ても幸せそうに見えない表情で、百瀬さんはその場を去って行く。


「……高下。もうここには来るな。それからアンタも。もうあの女には構うな」


 山本はそんな百瀬さんを不愉快そうに見送ると、僕と乾さんにそう忠告して去って行った。


「え? え?」

「……とりあえず、ここから出よう。厄介なことにならないうちに」


 取り残される僕と乾さん。何があったのか理解できずに狼狽える乾さんを、僕は外に連れ出すことにした。




「あの、高下君も百瀬さんに誘われたんですか?」

「うん。……とりあえず乾さん。もうここには来ない方がいいよ。ここにいても、多分そのうち後悔する。友達作りなら、僕にできることなら手伝うからさ」

「……はい。その、百瀬さん、大丈夫なんでしょうか?」

「わからない。百瀬さんについても僕がもう少し調べておくよ。乾さんは、学校で今まで通り百瀬さんと仲良くして欲しい」


 外で乾さんに僕からも忠告をして、その場は別れる。

 この分なら、乾さんは大丈夫そうだ。勧誘されて日が浅かったのと、意外と乾さんがしっかりしていたのが良い方向に働いたようだ。

 ただ、それ以上に大丈夫ではないのは百瀬さんだ。僕が思っているより、ずっと彼女の心の闇は深かったようだ。山本はこれ以上構うなと言ったが、はいそうですかで関係を断つような僕じゃない。彼女の口から、真意を聞きださないと。



 そして月曜日。百瀬さんが学校に来るのか心配だったけど、僕が学校に来た時には既に百瀬さんは自分の机でうつむいていた。先週よりも、増々陰鬱な顔になっている。


「あ、高下君。その……何だか物凄く暗くて、話しかけづらくて」

「わかった。こうなっちゃった原因は僕にもあるだろうし、責任はとってみせるよ」


 話しかけづらいようで僕に助けを求めてくる乾さん。山本に非難されたのを引きずっているのだろうか、百瀬さんは死にそうな顔でぼーっとしているのみ。日頃の人徳か、クラスメイトが百瀬さんを心配して話しかけたりするが、その度にうわ言のように大丈夫、大丈夫……とつぶやくのみで見てられない。


「……百瀬さん。お昼ご飯、一緒に食べない?」


 とりあえず百瀬さんから詳しい話を聞きだすために、僕は思い切って彼女をお昼に誘う。

 学校に来てからお昼休憩まで一言も喋らず、授業中もノートを広げたまま固まっていた彼女だったが、僕がそう言うと助けを求めるような目になって、コクリとうなずいた。






「……そのね。私はあの宗教、全然信じてないの。ううん、信じられないの」

「うん」


 空き教室に百瀬さんを連れていってお弁当を開くと、百瀬さんがそうポツリと漏らす。下手に口を挟むよりは、彼女に全部話してもらった方がいいだろうと、僕は聞きに徹することに。


「でも……信じられなくてもね、親が信じてるから、私はいつもあの場所に行って、変な話を聞かないといけないし、多分大人になっても、私はあそこから抜け出せないと思う。山ちゃん……山本君はどうなんだろう。彼は気が強いから、私を置いていなくなるのかな」


 親が信じていても自分は信じていないからで済むほど、宗教の世界は簡単ではないのだろう。そう感じさせるような、諦めの入った喋り方だった。


「自分の親とか、熱心な信者を見てね、馬鹿だなって思うと同時に、羨ましくて。幸せそうなの。騙されているようにしか見えないけど、それでも幸せそうなの。私は幸せどころか、不幸を感じているのに」


 途中から泣きが入り、お弁当箱の上にぽつぽつと涙を零す。……僕がみたきちゃんに抱いている感情も、似たようなものなのかもしれない。みたきちゃんは確かに馬鹿だけど、純粋で、単純なことでも喜べて、きっとそれは幸せなことなんだろう。


「それでね、どうやったら私は幸せを感じることができるんだろうって悩んでね、他人を助けようって思ったの。他人を助けて、感謝されることで、私は幸せになれるって思ったの。最初のうちは、うまくいってた。周りの人に感謝されて、充実感を得ることができた。……そして中学校の時にね、乾さんみたいな、クラスに馴染めずにいつも一人だった女の子がいたの。……どうしたら彼女を助けてあげられるんだろう、彼女を幸せにできるんだろうって思った私は、彼女を宗教に誘ったの。自分は信じられない、幸せにはなれないと思ってるけど、周りの人は幸せそうだったから。その子はあっさりハマっちゃって、今もたまに会合に来ているわ。そして幸せそうな顔で、私に感謝したの。……それからは高下君も予想している通り、似たようなことを繰り返して。高校に入っても、乾さんと高下君に目を付けたわけ。……今は学生だし、私が誘ってきた人も本格的な会員になってるわけじゃない。たまにこうしてあの場所に集まって、似たような人とお喋りをしたり、たまに講演を聞いたりしてるだけ。でも、段々と大人になるにつれて、ノメりこんで、抜け出せなくなるのかな。そしていつか、不幸になるのかな。……う、ううっ、ごめんなさい、ごめんなさい……」


 一通り話し終え、泣き崩れる百瀬さん。宗教に勧誘することで他人を幸せにできても、他人に感謝されても、百瀬さんの苦しみを理解してくれる人はいなかったのだろう。皆百瀬さんを置いて表面上は幸せそうになってしまい、百瀬さんは取り残される苦しみを味わうようになる。そうして救いを求めるように、誰かを救おうとする……きっとそんな悪循環だったんだ。

 僕は百瀬さんの頭を、泣きじゃくるみたきちゃんをあやすようによしよしと撫でる。

 みたきちゃんに負けないくらい、百瀬さんはわんわんと泣くのだった。




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