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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
小学校 みたきちゃん係(知的障害)
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ハッピーバースデーみたきちゃん

「皆、今日は高下の誕生日だ」


 その日の帰りの会、担任はそう言うといつの間に用意していたのかラジカセでハッピーバースデーの曲を流す。


「高下くんおめでとう!」


 委員長である御堂さんがそう言って、教室の右上から順番に寄せ書き用の紙を回してくる。

 最終的に、「誕生日おめでとう!」「いつも面倒な役押し付けてるみたいでごめんなさい」などの寄せ書きが書かれた紙が僕に回ってきた。

 この小学校の伝統的な行事だ。問題点は土日だったり夏休みだったりすると適用されない点だが。




 そう、僕は11歳になった。

 しかしまあ、寄せ書きのほとんどがおめでとうしか書いていないのを見ると、自分がいかにクラスで孤立しているかを痛感してしまうね。僕の心に響くのは、みたきちゃんの「おめでと!」だけだ。




 そしていつもの帰り道。昨日までは10歳で、今日から11歳といっても実感が湧かないよね。

 寄せ書きのみたきちゃんの部分を切り取って、残りは川に投げ捨てる。

 魚って紙を食べるのだろうか。


「ところでみたきちゃんは、誕生日いつなんだい?」

「んとね、じゅーいちがつ、じゅーよん!」

「11月14日……え?明日じゃん」

「あした?あしたたんじょーびなの???」


 なんということだ、僕と一日違いだったのか。

 僕の一日後にみたきちゃんが産まれたわけか、何だか双子の妹ができたみたいでちょっと嬉しい。

 明日は平日だからみたきちゃんも学校で祝われるわけか。




「誕生日おめでとう、高下」

「11歳か、大きくなったなあ息子よ」


 家に帰ると、ケーキが用意されていた。

 自分の家で親に祝福されながら誕生日会。

 誕生日ケーキのあの砂糖菓子、主役が食べるものだけどすごくまずいよね。

 誕生日プレゼントとして親に買ってもらったトロール人形を部屋で眺めながら、そうだ、みたきちゃんに誕生日プレゼントを買ってあげようと思い至る。貯金箱にはいくら入っていただろうか。




「それでは、さようなら」

「「さようなら」」

「……」


 担任の号令と共にクラス全体が別れの挨拶をして、ある者はそのまま帰り、ある者は掃除をし、あるものは部活へと赴く。

 僕のこの時の表情はどんなものであっただろうか。

 怒りと悲しみが入り混じったよくわからない顔になっていただろう。

 そう、みたきちゃんの誕生日をクラスは祝わなかったのだ。

 ああ、こんな時でもみたきちゃんは腫れもの扱いなんだね、だったらいっそ僕も同じ扱いにしてくれよ。

 そりゃあみたきちゃんが普通学級でやっていくのは無理があるかもしれないよ、だからってねえ?

 みたきちゃんも自分が放置されてしまった事を感じ取ったのか、少し涙目になっている。

 ああいけない、折角祝うべき誕生日なのに、お姫様を泣かせるなんて最低だよあの教師は。


「帰ろう、みたきちゃん」

「……うん」


 みたきちゃんの手をとって、学校を後にする。





 少し暗い表情のみたきちゃんと共に帰り道を無言で行く。

 川を見ると、昨日捨てた寄せ書きがまだあった。いらないよな、魚だってあんなもの。


「みたきちゃん、誕生日プレゼント買ってあげるよ。何が良い?」

「たんじょうびぷれぜんと! うーん、なんでもいいよ!」


 最初は呂律が回っていなかったのに、今は普通に皆が聞き取れるような喋れている。

 ちゃんと彼女も成長しているのだ、祝ってあげたいじゃないか。

 しかしなんでもいいよってのが一番困るんだよなあ、センスを問われるし。

 みたきちゃんを眺める。そうだ、みたきちゃんに必要なものがあった。




「ぶら、じゃー!」


 商店街にある女性用の下着店に僕達は来ていた。

 そう、みたきちゃんにブラジャーを買ってあげるのだ。

 誕生日プレゼントに買うものじゃないって?

 だけどみたきちゃんは心も大分成長してきたがそれ以上に体も成長してきたのだ。

 2つの突起が洋服の上からわかるというのは、少しずつ性に目覚め始めた僕にとっては目の毒だ。いや眼福なのだろうか?

 さて、ブラジャーってどう買えばいいのかわからない。わかってたらまずいが。

 仕方がなく僕は店員を呼ぶ。


「あの、すいません、この子にブラジャー買ってあげたいんですけど、予算はええと、このくらいで」

「妹さんかしら?わかったわ、お嬢ちゃん、ちょっとこっちでサイズはかりましょうね」


 店員のお姉さんは嫌がることなくみたきちゃんのサイズを測るためにみたきちゃんを連れて奥へ。

 お姉さんが知的障害者でも気にせず接客できる人なのか、大分まともになったみたきちゃんを初めて見る人はそうだと気づかないのか。どうなのだろうか。

 ただ、それでも一度貼られてしまったレッテルというのははがせない。

 きっとみたきちゃんが完璧に喋れて、奇行もしなくなり、僕達と変わらないくらいになっても、みたきちゃんはクラスメイトに腫れもの扱いされるのだろう。


「ぶら、じゃー!ぶら、じゃー!」


 サイズに合ったブラジャーをつけてもらって嬉しいのかみたきちゃんはブラジャーと連呼している。

 ブラジャーを買って、お店を後に。




「ぶら、じゃー!ぶら、じゃー!」

「みたきちゃん、お願いだから連呼しないで」


 お店を出てもみたきちゃんはブラジャーを連呼。これは非常にまずい。

 もし貴方が警察だとして、ブラジャーを連呼している女性とその傍らにいる男性、どちらを怪しむだろうか、恐らく男の方だろう。男は辛い。

 何とかみたきちゃんの興味を逸らさなければ。丁度いいところにケーキ屋が。


「みたきちゃん、ケーキ食べよう」

「けーき? けーき!」


 うんうん、ブラジャーよりかはケーキのほうがマシだ。



「誕生日おめでとう、みたきちゃん」

「ありがと!」


 苺のショートケーキを1つ頼む。ブラジャーを買うのにお小遣いをかなり使ってしまったから僕の分はおあずけ。

 嬉しそうにケーキを頬張るみたきちゃんを見てるとそんな事はどうでもよくならない?


「あーん」


 みたきちゃんは苺をフォークで刺すと、こちらの口に持ってきた。


「いいの?」

「うん!」


 ショートケーキの苺という主役をくれるなんて、なんてみたきちゃんは優しいのだろう。

 一日遅れたけどみたきちゃんの僕への誕生日プレゼントだと思って、ありがたくその苺を口にする。

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