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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
高校1年(下) 僕とメシアな彼女(メサコン)
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聖母の皮を被った悪魔

「あ、百瀬さん! 百瀬さんのおかげで昨日、友達と一緒にお出かけできたんですよ!」

「そう、それはよかったわ」


 教室で嬉しそうに百瀬さんにそんな報告をする乾さん。その表情は、僕が初めて会った時に比べればかなり明るくなっていた。

 しかし、僕は心のもやもやが収まらない。原因は勿論、百瀬さんが乾さんを連れて宗教の施設に入って行ったからだ。

 だっておかしいじゃないか。百瀬さんが行くならわかる。百瀬さん本人が信じていないとはいえ、親が信じているのだからそれに付き合わされたっておかしくない。けれどどうして百瀬さんが乾さんを誘っているんだ。それも友達のいない乾さんに友達ができるからと誘うなんて、悪質な宗教の勧誘じゃないか。

 僕の家に来たときは、勧誘する親を止めようとしたあの百瀬さんが。どうして。



 嬉しそうな乾さんを見てにこやかになる百瀬さん。その笑顔が、僕には物凄く怖く見えてしまった。


「……ねえ、白金さん。少し、相談してもいいかな」

「んだよ」


 悩んだ挙句、僕は白金さんに事情を説明して相談することにする。煉獄君や郡山さんに相談するという手もあったが、なんとなくあの二人は巻き込みたくない。白金さんなら巻き込んでいいのかという問題になるけれど。

 約束を破って百瀬さんの親が宗教にハマっていると言った事情や、本人は信じていないと言っているのに、乾さんを連れて宗教の施設に連れて行き、そこで恐らくは信者と引き合わせたであろうことを白金さんに伝えると、



「決まってるだろ。あの女も信者なんだよ。ほらみろ、やっぱロクな女じゃねえ」

「……やっぱり、そうなのかな」


 はん、と鼻で笑って百瀬さんを貶す白金さん。確かにそう考えるのが一番自然だ。百瀬さんは本当は熱心な信者で、周りの人を油断させるために善人を演じていて、ノルマのために乾さんのような人間を勧誘している……白金さんがペラペラとそんな憶測を述べるが、僕はそれを否定することができなかった。


「けど、それでも僕は百瀬さんを信じたいよ」

「んじゃ本人に聞けばいいだろ」

「……怖いよ」

「じゃあもう関わるなよ。あの女と、あの女に誑かされた女が宗教で幸せになろうが破滅しようが関係ねーって、彼女と乳繰り合って幸せになりゃあいいんだよ。ウチは用事あるからもう帰る」


 ウチが信じるのは神じゃなくて諭吉や野口が書かれた紙だ、と言って去っていく白金さん。

 正直言って、百瀬さんが怖い。本当に白金さんの言っているような人間なんじゃないかと思うと、また引きこもりになってしまいそうだ。

 けれど、どうしても僕は、百瀬さんが悪人には見えないし、そうだなんて思いたくない。




 家に帰って、ネットで百瀬さんが入信しているであろう宗教を調べる。

 別に宗教に入っていることを悪い事とは思っていない。日本人がむしろ特殊なのだ。

 けれど、百瀬さんの入って行ったあの宗教は、いわゆるカルト扱いされている宗教だ。どうしても不安になる。百瀬さんと乾さんをあのままにしておいていいのか。実は二人とも、洗脳やマインドコントロールをされているんじゃないだろうか。



「みたきちゃん、神様って信じてる?」

「かみさま? うん、いるとおもうよ?」

「……僕は神様に喧嘩を売るような真似をするかもしれないんだよ」

「わるいかみさまはやっつけちゃえ!」

「……崇めている神様は、同じだったりするんだけどね」


 いつものようにみたきちゃんを抱きながら、僕は百瀬さんの入っている宗教に、足を踏み入れてみようと考えた。




「……はぁ」

「高下君、元気ないね。どうしたの?」


 翌日、教室であからさまに元気のない人間を演じていると、すぐに百瀬さんが駆け寄ってきた。


「……最近、悩んでいてね。なんというか、救われないんだよ」

「……! ね、ねえ、もしよかったら、今度集会に来てみない?」

「集会?」

「うん、今の高下君みたいな悩みを抱えている人が集まって話とかするの。乾さんも、そこで友達とか見つけたんだよ」


 救われない、だなんて発言をして弱い人間のように振舞うと、思った通り百瀬さんは僕を集会に誘う。

 宗教、だなんて単語は口にせずに集会、と。よくある手口だ。


「……わかった。それじゃあ、僕も行ってみようかな。いつあるの?」

「うん、きっと高下君も救われるよ。週末にあるから、待ち合わせは……」


 とんとん拍子で話が進む。視線を感じて振り向くと、白金さんが呆れたような目で僕を見ていた。白金さんの言いたいことはわかる、ミイラ捕りがミイラになっても知らないぞと言いたいのだろう。

 でも大丈夫だよ白金さん、僕はそんなに弱い人間じゃないから。

 週末になり、僕は先週の乾さんと同様に百瀬さんに連れてこられて施設へ。

『ごめんね、私は別の用事があるから、一人じゃ心細いかもしれないけど』と僕を置いて去って行ってしまった百瀬さんを見送ると、僕は集会とやらに参加した。



「百瀬さんのお友達? 今人生に物足りないことはあるかしら?」

「どうして宇宙ができたか知ってる?」

「よかったら、あっちの部屋でじっくりとお話をしましょう」

「いえ、僕は、少し話を聞きにきただけで……!」






「みたきちゃんは僕の神、みたきちゃんは僕の神……」

「……どうしたの?」

「いいから今は崇めさせて欲しいんだ。じゃないと、頭がどうにかなりそうだ」


 その晩、僕はみたきちゃんを抱きしめながらうわごとのようにそう呟く。

 僕が甘かった。強い精神を持っていれば、洗脳、マインドコントロールなんて跳ね除けられると思っていた僕が馬鹿だった。

 少し話を聞くだけ、と言ったのに連中全く僕を帰してくれない。何にもない部屋に連れてこられてそこで数人の女性によくわからない事を言われ続け、僕の精神状態は無茶苦茶になって不安になって救われない気分になって本当に救いを求めてしまいそうだった。それでも何とか自分を大事にして、みたきちゃんを愛でることで自我を保とうとしたのだ。

 正直今でも僕がまともである自信がない。カルトをなめていた、周りからカルトだカルトだ言われているのにどうして信者が増えていくのかようやくわかった。

 僕は百瀬さんに対する感情を、嫌悪に切り替えることにした。

 あんなところに人を誘うなんて、何を考えているんだ。




「おはよう百瀬さん」

「あ、高下君。集会はどうだった? 悩みは解消した? 救われた?」

「うん、それについてなんだけどね、二人きりで話がしたいから来てよ」


 次の週。教室についた僕に早速百瀬さんが話しかけてくる。

 百瀬さんは今、どんな事を考えているのだろう。これでまたノルマが達成できるだなんて考えているのだろうか。偽りの救世主とはこのことだ。

 屋上に百瀬さんを連れて行くと、僕は百瀬さんを蔑むような目で見て、


「……酷いね、宗教を信じていないとか言いながら僕を勧誘するなんて」


 白金さんが百瀬さんに抱いている嫌悪感より更に大きな嫌悪感を露わにして、冷たく言い放ってやる。

 白金さんと違って、こっちは本当に洗脳されかけたんだ。それくらいしたっていいはずだ。


「……え?」

「百瀬さんは、僕も乾さんのようにあっさりと入信してくれると思ってたのかな? 残念だったね、僕こう見えて精神強い方だから。まあ、正直危なかったけどね。何で僕や乾さんを勧誘したの? 信者を増やして、お金が欲しかったの? それとももう手遅れな程にのめりこんでいるの?」


 震える百瀬さんに淡々と文句を言い放つ。本当に騙されたよ、僕の人間不信が再発してしまいそうだ。


「……違うの」

「何が違うのさ」

「私は、私は……っ」


 百瀬さんはボロボロと泣き出して、その場から去って行った。あの涙も、どうせ計算された涙なのだろう。その日はずっと百瀬さんは元気が無さそうだった。僕に話しかけることもなかったし、僕から話しかけることもない。どうせすべて演技なんだろう……と、その時は思っていた。



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