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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
高校1年(下) 僕とメシアな彼女(メサコン)
78/107

聖母と疑惑

「おはよう乾さん」

「おはようございます百瀬さん、新しく始まったドラマ見ましたか?」

「ええ、見たわ。すごく面白かったわね」


 乾さんが嬉しそうに百瀬さんと会話しているのを見ると、とてもほっこりした気持ちになる。別に僕が百合萌えしているというわけではないのだが。

 けれど客観的に見て問題点を挙げるとするならば、乾さんが百瀬さんとしか喋っていないことだ。

 昔の赤石さんのように、六月六日さんのように、きちんと他の人とも交流させるべきなのだ。

 かといって、男の僕が突然乾さんに話しかけるのもどうかと思うし。

 自分に自信の無かった赤石さんは自信をつけさせてあげればいいし、理解者を求めていた六月六日さんは理解を示してやればよかった。けれど乾さんは、単純に内向的で、受動的な人間。彼女のような人間には、友達を紹介することが恐らく効果的だと思うのだけれど、百瀬さんはどう考えているのだろうか。




「最近乾さん、楽しそうにしてるね。百瀬さんのおかげかな」

「え? あはは、何ていうか、乾さんみたいな子、助けてあげたいなって思ってさ。不純だよね。何様なんだろうって感じ。私、乾さんに友達感情本当に持ってるのかな?」


 放課後、僕と百瀬さんは一緒にゴミ出しをすることに。ゴミ袋を持って集積所へ向かいながら百瀬さんを褒めてやると、最初は照れながら、しかしすぐに自嘲気味に笑う。


「理由なんてどうでもいいよ、現に乾さんは百瀬さんのおかげで助かってる」

「そうかな。……不思議だね、高下君に言われると、そんな気がしてきたよ」

「でも欲を言えば、乾さんももう少し友達が必要なんじゃないかな。現状百瀬さんとしか喋ってないし」

「……高下君もそう思う? うーん、でももうクラスの友達グループは形成されてるからなあ」

「大丈夫大丈夫。僕なんて、3ヶ月近く引きこもってたんだし」

「えっ?」


 驚いたような顔でこちらを見つめてくる百瀬さん。しまった、僕は病気で入院してたって設定だったんだ。


「いや、その……」

「高下君、何かあったの? 悩みがあるの? よかったら教えてよ、力になるから」

「悩みは一応解決したんだけど……うーん、百瀬さんには話そうかな、本当のこと」


 スルーして欲しかったが、世話焼きな彼女にそれは無理な相談だ。

 すぐに僕の心配をしだす百瀬さん。彼女になら、僕の境遇とかを教えてもいいだろう。

 集積所にゴミ袋を置くと、その場で僕は彼女に語りはじめる。

 主にみたきちゃんと赤石さんのこと、そして時さんのおかげで引きこもりから抜け出せたこと。

 知的障害者の女の子と恋人関係同然になっていることを伝えても引くことなく、ずっと百瀬さんは僕の話を真剣に聞いてくれた。途中から百瀬さんは、うっすらと涙を浮かべていた。



「……で、僕は学校に復帰したんだよ。僕もまだ人間不信は治ってないんだろうけど、これから少しずつ、慣れていこうかなって」

「……うっ、ううっ」

「百瀬さん?」

「大変だったんだね、すごいよ高下君は。……大丈夫、私は絶対に、高下君の味方だからね!」

「ありがとう」


 涙目になりながら僕の肩を掴み、力強くそう宣言する百瀬さん。

 どうして僕は高校に入りたての時に、百瀬さんのような素晴らしい人間がいるって気づけなかったのだろうか。僕の歪んでいた精神が、目を曇らせてしまったのか。



「それじゃあ、またね高下君。……悩みとかあったら、いつでも相談してね?」

「うん、またね百瀬さん」


 ゴミ出しを終えて、百瀬さんと別れる。時さんといい白金さんといい、高校生になってから僕は救われてばかりだ。救われる、ってこんなに気持ちのいいことだったんたね。


「きっしょ、あーきっしょきっしょ。鳥肌立ってきた」

「白金さん?」


 僕もみたきちゃんを迎えに行こうと学校を出ようとすると、白金さんが身震いしながら僕の前に立ちふさがる。


「……聞いてたぜ。お前入院してたんじゃなかったんだな」

「あはは……ごめん、秘密にしてて」


 つまらなそうに言う白金さん。先程の僕と百瀬さんの会話を聞いていたらしい。そういえば白金さんには、みたきちゃんと僕のことくらいしか喋っていなかった。


「別にいいよ。まあ、あの女に打ち明けてウチに打ち明けてくれなかったのは少し腹立つけど、あの時お前に彼女さん以外の相談されても、ウチの馬鹿な頭じゃパンクしてたからそれで正解だっただろうし。それよりあの女がきしょいんだよ、やっぱ受け付けねえや」

「百瀬さんいい人なのに」

「なんていうかさあ、すっごい自分に酔ってるよねあの女。ウチの一番嫌いなタイプなんだよ」

「自分に酔ってても、百瀬さんは他人を助けられるいい人だよ。しない善よりする偽善、乾さんだって百瀬さんのおかげで学校生活を少し楽しめてるはずさ」


 百瀬さんを否定されるとまるで僕を否定されたような気分になってしまい、少し語気を荒げてしまう。


「出ました、しない善よりする偽善。何真実のように語ってんだよ、そんな言葉ウチは信じてないからな。ああ腹立ってきた、実はお前が引きこもってる間、ウチも乾さんがクラスで浮いてるなあと思って、しゃあないフレンドリーに話しかけてやるかって思って話しかけたら滅茶苦茶怖がられて超ショックだったんだよ」

「見た目がチンピラみたいだからね」

「うがー! もう知るか!」


 批判されてムカついてしまい、追い打ちをかけるようにチンピラみたいと言うと、白金さんは地団駄を踏みながら涙目敗走。素直じゃないなあ白金さんは、でも悪い人じゃないって僕知ってるからね。





「百瀬さん、昨日はありがとうございました! あんなにたくさんの人と喋ったの初めてかもしれません、皆仲良くしてくれてすごくよかったです!」

「それはよかったよ乾さん。今週の週末も集会があるんだけどさ、よかったら来る?」

「はい! 是非行かせてください!」


 翌週の月曜日。とても嬉しそうな乾さんと、喜ぶ乾さんを見て嬉しそうな百瀬さん。

 会話から察するに、百瀬さんは乾さんに友達を紹介したのだろうか。集会と言っているから、学外のサークルにでも入っていて、そこに乾さんを連れて行ったのだろう。

 なんにせよ、乾さんが百瀬さん以外とも交流ができるみたいでよかった。流石は百瀬さん、やる事に抜かりがない。


「……」


 そんな二人をつまらなそうに見ている白金さん。薄々は彼女も、百瀬さんを認めているんじゃないだろうか。



「百瀬さんすごいね。乾さんすごく嬉しそうだったよ、サークルとか入ってたの?」

「え? う、うん……そう、そうなんだ、同年代の人とかもいるサークルに入ってて、集会があったからそこに乾さんを誘ったんだよ」


 昼休憩、廊下で百瀬さんとすれ違った際に百瀬さんを褒めると、慌てながら、目を泳がせてそう答える。きっと照れているのだろう。


「ふうん。どんなサークルなの?」

「えーと、その……悩みを抱えている人が、集まって話し合ったりする感じかな。その、高下君も悩みとかあったら、いや、なんでもない。私トイレだから!」


 何故かうつむいて震えながら喋り、途中で逃げ出してトイレに駆け込む百瀬さん。トイレを我慢していたのか、悪い事をしたなあ。

 それにしても、百瀬さんは救いたいという気持ちも、救える力も持っている聖母のような存在だ。そして純粋さを失わないみたきちゃんは聖女。ついでに言えば、白金さんの下の名前は聖人。僕の周りは、聖なる子でいっぱいだなあ。一人おかしいのがいるかもしれないけど。




「えーがおもしろかったね!」

「そうだね。……おや」


 週末、僕はみたきちゃんとアニメ映画を見に行くことにした。

 女の子が変身して戦う小さい子向けのアニメだが、意外と大人の男の人が多くてびっくり。

 僕はあまり楽しめなかったけど、みたきちゃんは技名を叫んだりするほど楽しめていたから連れてきた甲斐があるというものだ。

 そしてその帰り道、偶然僕は百瀬さんと乾さんの後姿を発見してしまう。確か週末に集会に行くと言っていた。今から行くところなのだろうか。


「ちょっとあの二人を尾行するよ。静かにしててね」

「うん、たんてーさんだね」


 一体どんなサークルなのだろうかと興味が湧いた僕は、みたきちゃんと一緒に二人を追う。

 ボーイスカウトとかだろうか、それともボランティアサークルだろうか。どちらにせよ、百瀬さんが乾さんを誘うくらいだから、素晴らしいところに違いない。僕もまだ色々と悩めるお年頃、候補の1つとして百瀬さんのサークルに入るのも悪くないんじゃないかと思ったのだ。

 期待を胸にみたきちゃんと二人を追うと、十分程して、彼女達は街の中にあるとある施設に入って行った。



「……え?」

「ここなに? きょーかい?」

「ちょっと待ってよ百瀬さん、ここって、ここって……」


 僕はその施設を見て、信じられないといった表情になる。

 だってそこは、どう見たって宗教絡みの施設だったから。多分、百瀬さんの親が入信しているという宗教なのだろう。けれど、百瀬さんが乾さんと一緒にここに来るのはおかしいじゃないか。

 百瀬さん、親につき従ってるだけで、信じてないって言ってたのに。宗教なんて心の弱い人間がやるもの、とまで言って宗教を批判していたのに。


『あの女はどっか壊れてる』……白金さんの言葉が、脳内を駆け巡る。

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