少女の性を受け入れる夏
「……なあ、警察に通報していいか?」
「自分の首を絞めることになるよ、それは」
「くっ、なんて男だ……ドン引きだぜ」
白金さんに僕とみたきちゃんの経緯を話すと、ものの見事に引かれてしまう。
まあ、予想していた反応だ。普通は引くよね。
「でもさあ、君の言ってたロリコンのお兄さんと僕って、似たようなものだと思わない?」
「えー、一緒にしちゃう? まあ、確かにそうなのかもしれないし、お前自身当時はガキだったってのもあるからお前の方がマシなのかもしれねえけどさあ……うーん、ウチにはお前がとんでもない鬼畜に見えてきたよ」
「ははは……で、僕はどうすればいいと思う? そのまま快楽に進んでしまった人間として、意見を貰えるとありがたいな」
「マジすか……うーん」
引きながらもきちんと僕の相談に乗ってくれる白金さん。
数分程自分の人生とかを振り返りながら悩んでいるのか険しい顔になっていたが、
「責任とって毎日相手してやれよ」
似たような境遇の女性として、僕にいままで通りみたきちゃんとお医者さんごっこをし続けろと言う。
「簡単に言ってくれるね……僕はね、お医者さんごっこで満足できるかわからないんだよ。見てよこれ、僕どころか周りの男も誘惑しちゃうわがままボディだよ」
カバンからみたきちゃんの最近の写真を撮りだして白金さんに見せてやる。
小学校の頃から中身は純真なまま育っても、身体は立派な女性になってしまったみたきちゃんを。
「うお、スタイルいいなおい……毎日エロいことして女性ホルモンが分泌されたんだろうな。あれ、でもウチはそんなに成長してないぞ……?」
「個人差があるんだろうね。ともかく僕も我慢できなくなりそうだし、このままみたきちゃんに快楽を覚えさせ続けていったら、いつか僕以外の人とも平然とそういうことをしたり、取り返しのつかないことになるんじゃないかって思うんだよ」
「確かに危険だな。……でもよお、お前が我慢できないとかの問題はともかく、他の男に股を開くような真似はしないと思うぜ」
「何でそう言い切れるのさ、現に白金さんは不特定多数の男に股を開いてるわけでしょ?」
そう言うと白金さんはうぐぐと口をつぐみ、しばらくわなわなと震えた後、
「いやまあ、そうだけどよ……ウチは別に好きな人とかいないからであって、お前の彼女さんはお前が好きなんだろ? だったら好きな奴以外とはしないって。お前さあ、さっきから聞いてたら女をナメてるだろ、彼女さんもナメてんだろ」
不機嫌そうに僕を睨みつける。
「いや、別に僕は……」
「いーや、お前心のどこかで女はどうしようもない弱い存在だとか思ってるね。まあ確かにどうしようもない女もたくさんいるけどよ、お前の彼女さんはそういう存在なのか? ええ? 自分の彼女さん信じられないのか? 知的障害者だからとか関係あるかよ、自分の彼女さんを快楽の事しか考えられないボノボか何かだと思いやがってよ、お前だから身体を許してるに決まってるだろ。単にお前が自分に自信ないだけだろ、人のせいにすんなや」
「ううっ……」
何も言い返せない。みたきちゃんだって、それくらいの分別はつくはずなんだ。教育を全く受けていないわけでもなければ、人とずっと関わってこなかったわけでもない。結局僕がみたきちゃんを信じることができなくて、箱入り娘のように快楽を知らせぬまま、自分の側に置いておきたいだけなのかもしれない。
「けど、僕が我慢できるか不安なんだよ! 白金さんだって知ってるだろう? この時期の男子がいかにエロいか。お医者さんごっこで我慢できそうにないんだよ!」
「そこは頑張れよ! けれどな、彼女さんにまで我慢を押し付けるんじゃねーよ、責任とれよ、お前のやったことはそれくらい罪深いことなんだぞ? ウチがビッチになるまで、どれだけ辛い思いしたと思ってんだよ、エロいことはしちゃいけないんだって常識と、体に刻み込まれた快楽にどれだけ悩んだと思ってんだよ!」
カラオケボックスで繰り広げられる下品な会話。それだけ僕達が性に真剣に向き合おうとしている証でもあった。
「……ともかく、彼女さんはお前以外の男には身体は許さないから。ウチが保証する。だからお前は安心してお医者さんごっこをし続けろ。我慢できない分はオナホでも使って発散するか、ウチらみたいなどうしようもない女を買うこったな、お前にそんなことができるわけないだろうけど」
下品な論争を繰り広げた後、大して歌ってもなければ性行為をしたわけでもないのにお互い疲れ果てる。
結局みたきちゃんを信じて、僕もお医者さんごっこで我慢して、今まで通りの関係を続けようという結論に至った。
「……そうだね、僕にはそんなことできないよ、真面目すぎるんだ。……白金さんは、自分の人生狂わせたそのロリコンのお兄さんに、責任とって欲しいと思う?」
「あー、そうだな。まあ、一応初恋? の人になるわけだけど、どうしようもない男にひっかかったって諦めるしかないわな。もうロリでもないしな。お前は、彼女さんをウチみたいな人間にすんじゃねーぞ」
「頑張るよ」
「おう、頑張れよ。……んじゃ、そろそろ帰るわ。見たいドラマもあるしな、金は置いて行くぜ」
料金を置いてさっさと出て行く白金さん。取り残された僕は、
「……たまには歌うか」
心の中に色々とため込んでいたものを発散させるために、精一杯音痴でもいいから歌うのだった。
「みたきちゃん」
「……なに?」
翌日。みたきちゃんを部屋に招く。最近のお預けで、僕に愛されていないと思っているのだろうか、随分と不機嫌そうだ。
「お医者さんごっこしよう」
「……! うん!」
その言葉を聞いた瞬間笑顔になるみたきちゃん。これでいいんだ、これで。
多分100人に聞けば80人くらいは、僕と白金さんで出した結論は間違っていると言うのだろう。けど、そいつらは僕達みたいな経験をしたことがないんだ。経験した上で結論を出した僕達の方が正しいに決まっている。この先僕もみたきちゃんも大人になって、本当に結ばれる時が来るのかなんてわからない。いつか別れる時が来るのかもしれない。それでも、今のみたきちゃんを大事にしようって決めたんだ。
「うっす」
「やあ白金さん。今日も仕事?」
夏休みもそろそろ終わり、もうすぐ僕の本屋でのアルバイトも終わりだ。
ファッション誌を買いに来た白金さんと談笑をする。
「そんな毎日はしねーって。一応風俗とかの仕事を奪ってるわけだからな、あんまり調子に乗りすぎると怖い人がくんだよ。ウチだって快楽のみを求めてるわけじゃないんだよ、ちゃんと避妊の努力は怠ってないし、病気にならないように気を付けてんだよ。お前の彼女さんはそれができないだろうから、お前がしっかり支えてやるんだぜ」
「わかってるよ、それが責任なんだよね」
「おう。子供には子供なりの責任があるっつうこったな。んじゃ、最後まで責任もってバイトも恋も頑張れよ」
「うん」
同年代で働いている人だっている。大人が思っている以上に、僕達はきっと大人なのだろう。
だけど大人になるということは、責任がついて回るということ。
みたきちゃんはしょうがないのかもしれない、どれだけ年を重ねても、責任なんてとれないのかもしれない。だからこそ、周りの人間が、僕が、しっかりとしないといけないんだ。
「いらっしゃいませー!」
本屋に新しい客がやってくる。今の僕は本屋の店員。元気な声で、愛想よく笑顔で挨拶をする。




