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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
高校1年(中) 僕とビッチな彼女(援交少女)
72/107

客と向き合う夏

「409円になります。500円お預かりします。91円のお返しになります。ありがとうございました」


 赤石さんの望み通り、駅前にある本屋でアルバイトを始めた僕。

 地頭の良さからかマニュアルを覚えるのは楽だったが、接客はなかなか難しい。

 この間まで引きこもって会話もロクにしてこなかった僕には尚更だ。

 正直お店とかお客さんに迷惑をかけているのかもしれないけど、誰だって最初は素人。

 夏休みが終わる頃には正社員にも引けをとらないくらいの接客スキルを身に着けたいものだ。

 それにしても、本屋のアルバイトは楽な方かと思っていたけど、結構品出しとか忙しい。

 しかも、


「ろ、630円になります。1000円お預かりします……。370円のお返しになります。ああ、ありがとうございました!」


 とある男性客に本を売る際、ついつい赤面してしまう。それもそのはず彼が買ったのはエッチな漫画。

 本屋のバイトは高校生禁止のところも多いらしい。理由は意外とエロ本に触れるから。赤石さんの代わりにアルバイトをやったわけだけど、赤石さんはこの事実を知っていたのだろうか。羞恥に悶えながらエロ本を売る女の子……いやいや、僕は何を考えているんだ。



「504円になりま……失礼ですがお客様、年齢確認のできるモノはお持ちでしょうか?」


 そうこう考えているうちにも、新たな男性客がエロ本を持ってレジに並ぶ。

 しかし先程の男と違い、目の前にいる人はどう見ても大人に見えない。

 帽子で顔も隠しているし、高校生なのではないだろうか。

 アルバイトとは言え、しっかりとこの辺は対応したい。


「え、いや……ん? あれ、お前高下か」

「……煉獄君?」


 僕の声を聞いて帽子を脱ぐ目の前の男。果たしてその正体は、煉獄君であった。


「何だお前、本屋でアルバイトしてたのか。知らなかったよ」

「今日は郡山さんと一緒じゃないの?」

「一緒だったらエロ本なんて買うわけないだろ。なあ頼むよ高下、友人の好ってことでさ」

「……」

「おい高下、アルバイト中に携帯電話はよくないだろ」


 今は煉獄君以外にお客もいないしと、僕は電話をかける。つながった先は、


『もしもし、郡山ですけど。高下君?』

『うん、高下だよ。実は今本屋でアルバイトしてるんだけど、煉獄君がエ』

「あああああああああああああああああああああああああああああ!」


 彼女だし伝えておくべきだろうと煉獄君がエロ本を買おうとしていたことをばらそうとすると、大声をあげて僕から携帯電話を奪い取り通話を無理矢理切る。迷惑だなあ。



「はぁ……はぁ……お、お前、友人を裏切るつもりか」

「僕にとっては郡山さんも大切な友人だよ。彼女がいるのに」

「男の性ってやつだよ。お前も男ならわかってくれるだろう? どうせ家のパソコンでエロサイトとか見てるんだろ?」

「うっ、それは……」


 僕としたことがダブルスタンダードな人間になっていた。煉獄君に正論を吐かれるとは。


「ま、いいか。んじゃ、バイト頑張れよ」


 結局エロ本を買うのを諦めて棚に戻し去っていく煉獄君。

 さて、煉獄君と喋りすぎたな。アルバイトだけど働いてる自覚をもう少し持たないと。



 その後も接客を本屋で続ける。夕方になり、人も増えてきて大変だ。

 けれど不思議と満足感がある。働く喜びを見つけることができたのだろうか。



「よう」

「? 誰?」


 接客を離れて品出しの方をやっていると、声をかけられる。

 声の主は女子高生で、夏休みだというのに僕の高校の制服を着ていた。


「ウチが聞きたいよ、お前誰だっけ?」

「そっちから声かけてきたんじゃ……」

「いや、何か見たことあるなあと思って声かけたんだけど、思い出せねー」

「んーと……あ、同じクラスの白金さんか」

「……! ああ、思い出した思い出した、お前アレか、何かずっと病気で休んでて学校来なかった奴」

「そうそう」


 思い出した、同じクラスの白金聖人しろがね・せいとさんだ。明らかに染めている金髪ストレートにピアスは痛いから嫌なのかイヤリング。割とどこにでもいそうなヤンキーっぽい女子高生だけど、僕は学校復帰したばかりだし、喋ったことは今まで一度も無かった。


「ははは、災難だったな、入院なんて。つうかバイト?」

「うん、高校生だし、夏休みだしね」

「立派なこって。時給いくらよ?」

「時給? 800円だよ」

「800円……800円、うひゃひゃひゃひゃ」


 僕の時給を聞いた途端、ゲラゲラと笑いだす白金さん。高校生だし、高い方だと思うんだけど。


「ああ、わりいわりい。いやー800円か。そうかそうか、大変だなあおい」

「別にお金のために働いてるわけじゃないしね。社会勉強だよ」

「ははは、とんだ聖人だ。あ、聖人はウチか。まあいいや、ウチも今からバイトだから、アデュー」


 クラスメイトとはいえ一度も話したことが無かったけれど、やたらと馴れ馴れしい態度で話しかけてきた白金さんは何故かフランス語で挨拶をすると、ホテル街の方へと消えて行った。

 ……また職務放棄して会話してしまった。高校生だし、雇う側もそこまで多くは求めていないだろうけど、それでもきちんとしたいものだ。



「あるばいと、どうだった?」

「うん、なかなか大変だったけど、やりがいはあるよ。みたきちゃんはいつもこんな風に働いているんだなって」

「あたるくんはわたしよりすごいよ! わたしせっきゃくとかすごくへただし」

「十分できているよ、みたきちゃんは」


 翌日。アルバイトの時間になるまで、みたきちゃんを部屋に呼んで遊ぶ。

 僕は正直みたきちゃんを過小評価していたらしい。

 きちんと訓練をすれば、みたきちゃんだって簡単な計算やレジ打ちはできる。

 たまに間違えることもあるらしいけど、あそこにパンを買いに来てくれるような人は基本的に優しいから怒られたりはしないそうだ。みたきちゃんと普通の人間との差は、努力で着実に縮まっていた。



「ねえねえ、それよりおいしゃさんごっこしよ!」

「……今日もやめとこう」

「やだ! おいしゃさんごっこする! するの!」


 今までしてくれたことをしてくれなくなった僕に怒ったみたきちゃんが、僕を無理矢理押し倒して服を脱がせようとする。昔のみたきちゃんだったら、僕はされるがままだっただろう。けど。


「ごめんね。もうみたきちゃんは僕には勝てないんだよ」

「え? え?」


 みたきちゃんをひょいと引きはがして拘束から抜け出す。

 今まで僕がみたきちゃんにされるがままだったのは、僕が抵抗を見せないからというのもあったけど、単純にみたきちゃんの方が強かったから。女の子は成長が早いし、みたきちゃんは普通の人間に比べるとリミッターが外れている。けれど、それももう昔の話。


「みたきちゃんはね、努力して普通の人間に近づきつつあるんだよ。力をセーブすることも自然と覚えちゃったんだ。もう昔みたいに、角材振り回して不良を撃退するなんてこと、できないんだよ」


 小学校の頃よりも、みたきちゃんの僕を押さえつける力は明らかに弱くなっていた。

 今のみたきちゃんは、少し身体の大きな、どこにでもいる女の子。スタイルはまだ良くなるのかもしれないけど、もう力では僕に敵わない。


「なんで!? なんでおいしゃさんごっこしてくれないの!」

「みたきちゃんが大切だからだよ。……アルバイトの時間だから、みたきちゃんももう帰りなよ」

「……うー」


 納得できない、と言った顔でみたきちゃんは僕を睨むと部屋を出て行く。

 みたきちゃんにどう説明すればいいのだろうか。僕自身きちんとした理由を組み立てることができない。

 何はともあれ、今はアルバイトだ。カバンを手にして僕も部屋を出る。




「おう、お前今日もバイトか。大変だな」

「こんにちは白金さん。……その制服は? 高校のじゃないよね?」


 夕方からのシフトでアルバイトをしていると、昨日とは違う制服に身を包んだ白金さんがやってくる。


「ああこれ? 中学の制服。さっきまでバイトだったんだよ。つうわけでこれ買うから」

「随分たくさん買うんだね。お金持ちなの?」

「お前の数倍稼いでるからな」


 大量の少女漫画をレジ打ちしながら、白金さんのアルバイトを推測する。

 制服、僕より数倍稼げる、ホテル街……まさか。


「8438円になります。1万円お預かりします。1562円のお返しになります」

「うい、んじゃセコセコバイト頑張れよ……って重てぇ! 馬鹿かよウチは、どうやって帰るんだよ!?」


 20冊程の少女漫画の重さに悪戦苦闘しながら去っていく白金さんを見送りながら、彼女に対する疑惑を膨らませていくのだった。


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