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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
高校1年(前) 僕とネトゲな彼女(ひきこもり)
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そして一歩を踏み出した

 目が覚めた時には既に日曜日の朝で、時さんはいなくなっていた。

 携帯電話を確認すると、親からのメールと電話が大量に来ている。そういえば無断外泊だった。

『雨が酷かったので知り合いの家に泊まっていました。連絡忘れていました、ごめんなさい』

 親にメールを送ってホテルを出ると、外は快晴。昨日の大雨が嘘のようだ。



 家に帰った僕はネットゲームにログインするが、そこに時さんの姿は無い。

 それどころか、時さんのアカウントすら消えて無くなっていた。

 ひょっとして時さんは僕が作った幻なのではないかと思ってしまうが、時さんの名前で検索すると、しっかりと時さんの過去の悲劇が出てくる。一体時さんはどうなったのだろうか。

 心配だけど、きっと時さんなら大丈夫。それよりも問題は僕だ。明日には学校に行かないといけないんだ。

 いつものようにみたきちゃんを家に招いて遊ぶ途中、


「ねえみたきちゃん」

「なあに? あたるくん」

「実は僕はね、学校に行ってなかったんだ」


 自分が不登校であるということを告白する。

 例えみたきちゃんが学校に行かない僕に幻滅して愛想を尽かしたって自己責任、一人でも強く生きてやるつもりだった。


「どうして? あたるくん、びょうきなの?」

「うん、そうだね。心の病気だった。過去に囚われて、自分も含めて世界は悪に満ちていると思って、ずっとずっと殻に引きこもっていた」

「よくわかんないけど、あたるくんのびょうきがなおるようにおいのりするね!」


 そう言うと手を合わせて南無阿弥陀仏を唱えるみたきちゃん。

 みたきちゃんにお祈りされればどんな病気も治ると言いたいところだが、そう簡単に心の病気は治らないだろう。一生かかっても治らないかもしれない。心に傷を負ったまま、疑心暗鬼な考えを持ったまま生き続けることになるかもしれない。


「ありがとうみたきちゃん。でも、明日からはまた学校に行くよ。行くったら行くんだ」

「うん! がんばって!」

「頑張るよ。だから、もう少しだけ一緒にいてね」

「ずっとあたるくんといっしょにいるよ!」


 そう言うとみたきちゃんは僕に飛びかかって抱きついてくる。

 みたきちゃんを抱きしめながら、前言撤回、みたきちゃんに愛想を尽かされたら生きていけそうにないなあと苦笑いするのだった。





「父さん、実は僕今まで学校に行ってなかったんだ、ずっと引きこもってたんだ」

「……な、なにぃ?」


 その日の晩、家族で夕食を頂く時に僕は父親に事実を打ち明ける。


「でも明日からきちんと学校に行くので心配はありません。出席も足りるはずです。それだけです」

「明日から学校に行くってお前、今まで行ってなかったのに、ちゃんと行けるのか?」

「あなた……」


 厳しい顔になる父親と、空気を察知して不安げになる母親。父親の言う事も尤もだ、そんな簡単に引きこもりがやめれたら、世界中の引きこもりは苦労はしないのだろう。


「大丈夫です、学校に行けます」


 そう言うしかない。そして実際に明日から学校に行って証明するしかないのだ。

 しばらく僕の顔を睨む父親であったが、


「そうか。お前がそう言うんだったら、大丈夫なんだろう。すまなかった、お前が苦しんでいたことに気づきもせずに」

「いいえ、隠してた私が悪いのよ。家族の仲が険悪になるんじゃないかって、自分の子供が悩んでいるのに問題を先延ばしにするような真似をして……本当にごめんね、中」


 僕を叱るような事をせずに、両親共々深々と頭を下げてくる。

 本当の事を打ち明けて食べる家族との食事は、久々に美味しかった。






「それじゃ、行ってくるよ」

「いってきます!」

「いってらっしゃい、中、みたきちゃん」


 翌日。家に別れを告げてみたきちゃんといつものように学校に行く。

 いつもと違うところと言えば、


「それじゃあみたきちゃん、学校に行ってくるよ。……もうこっちでお昼ご飯を食べるような事はないと思う。けど、僕は高校生なんだから、高校でご飯を食べないと」

「うん! いってらっしゃい!」


 今日はみたきちゃんを送った後、家に帰らずにそのまま学校へ向かおうとする。



「は、ははは……何で足が震えるんだよ」


 足がガタガタと震えて、学校に行くのを拒んでいる。身体は正直なのだろう。

 けど、この身体の支配者は僕の意思だ。身体が嫌がっていたとしても、少しずつ、少しずつ足を前に出す。歩みは遅いが、着実に学校へと僕の身体は向かって行った。



 長い。もう数時間も歩いているような気がするのに、場所を確認するがまだ半分も歩いていない。

 一体いつまで歩けば学校につくのだろう、疲れたから引き返そうかと一瞬考えてしまったが、引き返したらすぐに家についてしまうだろう。だから前に進み続けるしかない。



「……ついた」


 かなりゆっくり歩いたせいか、学校の正門に到着する頃には朝のHRの時間。遅刻してしまった。

 けど、一時間目の授業には間に合うだろう。きちんとこれから授業を受けるんだ、僕は。

 早速門をくぐろうとするが、


「……動けよ」


 ここにきて、再び足がすくむ。いくら動けと念じても足が動いてくれない。

 後一歩を踏み出すだけなんだ、そうすればきっといくらでも進めるんだと自分に言い聞かせるが、足はガタガタと震えるばかり。時間が時間だけに登校する生徒もいなければ、用務員の人間もいない。周りに誰もいない正門前で、金縛りにでもあったかのように僕は立ちすくんでいた。



「そんなところで固まって、二宮さんの像にでもなるつもり?」

「時さん?」


 背後から声をかけられる。身体が固まって振り返ることすらできないが、その声は紛れもなく時さんのものだ。


「今日からバイトをすることにしたんだ。パチンコの換金所だけどね」

「それって確か、顔も見せずに札とお金を交換する仕事ですよね。引きこもりじゃないですか」

「失礼な。ちゃんとした仕事が見つかるまでの繋ぎだし、準引きこもりな仕事でも、私にとっては大きな一歩なんだよ。けれど、この一歩を踏み出すのが怖くて怖くて。でも、君に勇気づけられたから踏み出す事が出来た。だから今度は私が君の一歩を手伝う番だ」

「わっ」


 そう言うと時さんは僕の背中を推す。転びそうになりながら、気づいた時には僕は学校の敷地内に入っていた。


「……入れた。動く、足も動く」


 さっきまで動かなかった足が、嘘のように動く。今なら100mを12秒くらいで走れそうだ。


「おめでとう。もう私が何かしなくても君は大丈夫だろうし、私も君が何かしなくても多分大丈夫だ。だからここでお別れ。ああ、でも寂しくなったら私に会いに来ていいよ。オフ会の時に使ったファミレスのすぐ側のパチンコの店だから」

「僕高校生なんですけど」

「それもそっか。それじゃ、縁があったらどこかで会うかもね。……私もあの時学校に行き続けていたら、私を守ってくれる友人や大切な人が見つかったのかなあ。ま、過ぎたことは仕方ないか。それじゃあね」


 そう言うと時さんは僕に背を向けて去って行く。時さんの姿が完全に見えなくなったのを確認すると、僕も自分の教室に向けて歩き出す。



 僕は一歩を踏み出すことができた。だからもう、何歩だって歩いてみせる。

高1編(前)、完。二章連続で重めの話で申し訳ありませんでした。

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