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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
小学校 みたきちゃん係(知的障害)
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みたきちゃんと二人三脚

 楽しい夏休み(僕個人はあまり楽しめなかったが)も終わって9月。

 新学期初日、僕は夏休み前にそうしていたようにみたきちゃんを迎えに行った。

 お土産を渡した時から会っていないので、大体1ヶ月くらい会っていないことになる。


「あ! おはよ!」


 彼女の家の外で女の子が僕を待っていた。

 みたきちゃんではなく女の子、と表現してしまったのは、


「……みたきちゃん? 背、伸びたね……」


 何だかみたきちゃんが大きくなっているからだ。

 僕があまり男子の中では小柄な方という事もあるが、夏休みの間に抜かされてしまった。


「えへへ、たかい、たかい」


 みたきちゃんは嬉しそうに僕の頭を撫ではじめる。弟にでもしたつもりか。

 そして彼女の服からふくらみが確認できた。何だかすごくドキドキする。





 二人して学校へ向かう。


「その腕、赤く腫れてるね。どうしたの?」


 彼女の腕の一か所がやたらと赤く腫れているのに気づく。じんましんだろうか。


「えとね、ぶんぶんがいたからとろうとしたら、いたかったの」


 ぶんぶん……ひょっとしてハチの事だろうか。

 つまりはハチがいたので捕まえようとしたら刺されてしまったと。

 危なっかしい、下手すれば死んでいたのではないだろうか。

 彼女の親は過保護にするならするで彼女を危険から守る義務があるというのに。


「おはよーございます!」


 別の道からやってきた、小学校低学年と高学年の女の子、恐らくは姉妹だろうか、その二人に***ちゃんは元気よく声をかける。


「おはよーございます!」


 小さい方は挨拶を返すが、


「話しかけないで。奈美、この子と関わっちゃ駄目よ」


 大きい方はとんだレイシストだ。まあ、僕に彼女を批判することはできないけどね。

 結局僕もこの子も何ら変わらないのだ。






「皆久しぶりだな。それじゃあ早速夏休みの宿題を提出してもらおうか」


 学校へつき、最初の授業で担任教師に夏休みの宿題を提出する。

 問題集、自由研究(食物が腐敗する様を一日ごとに観察)、読書感想文(完全自決マニュアルという本が非常に面白かった)……僕はばっちりだ。

 自由研究と言えば、みたきちゃんの観察日記なんてどうだろうと思ってしまったのはいくらなんでも不謹慎すぎるのだろうか。


「はい!」


 教室がざわめく。何故ならみたきちゃんが夏休みの宿題を提出したからだ。

 これには教師も驚いたようで、問題集やら読書感想文をパラパラと確認する。

 僕も教壇に近づいて読書感想文を確認してみた。

 文字は汚いしほとんどひらがなだけど、読めないことはないし、ちゃんと原稿用紙の枠をほとんどはみ出さずに書けている。

 ははは、宿題を出していない男子よりもずっとみたきちゃんの方が偉いじゃないか。




「それでは、運動会の出場種目を決めたいと思います」


 二学期も委員長となった御堂さんがそう言って仕切る。

 ちなみに当然僕は引き続きみたきちゃん係だ。

 運動会は最低1つは出ないといけないらしい。僕はあまり運動得意じゃないんだ、どれか1つ出て後は応援でもしていよう。


「みたきちゃんは何に出たい?」

「なんでも、いいよ!」


 何でもいいってのが一番困るんだけどね。


「僕とみたきちゃんで、二人三脚に出ようかと」


 二人三脚なら管理もできるし、悪くないだろう。無事に僕とみたきちゃんは二人三脚に内定した。




 その日の体育の授業、運動会に向けての練習も兼ねて体力測定だ。

 実は運動会が終わるとすぐにマラソン大会もある。それの練習もしなければならない。

 僕は50mを10秒3と、正直言って遅い。


「みたきちゃん、笛が鳴ったら真っ直ぐ走るんだよ」

「うん!」


 笛が鳴ると同時に元気よく走る。かなり速い。一緒に測定した女子とかなり差がついている。

 タイムは7秒7。僕より2秒以上速いのか……

 体力測定の結果、みたきちゃんはかなり運動ができるということがわかった。

 やはりリミッターが外れているとかそういうところが関係しているのだろうか。

 そして二人三脚の練習だ。僕はみたきちゃんと片足を縛る。

 体操服が密着して、何だかすごくドキドキする。


「それじゃ、いっせいので走るよ」

「うん!」

「いっせいの……うわぁ!」


 息が合わずに思いきりこけてしまった。


「んえええええええええん! みぎゃああああああ!」


 片足が縛られているので受け身が取れず、***ちゃんは思いきり地面にぶつけて泣きだしてしまう。


「みたきちゃん落ち着いて……痛い痛い痛い!」


 みたきちゃんは倒れている僕を引きずりながら走り出す。

 結局僕はグラウンドの片隅まで引き回しとなった。


「うう……はずれない!」


 みたきちゃんは結ばれた紐をほどこうとするが、うまくいかない。


「わかったわかった、僕が外すよ。……ほら」


 紐を外してやる。自由になったみたきちゃんはその辺を走り回る。

 しかし困った、息が合わない以前にみたきちゃんは加減せずに全力で走る。

 僕とみたきちゃんでは50mで実に2秒の差があるのだ。

 皆の笑いものにならないよう、運動会では一応ちゃんと二人三脚を成功したい。

 そのためには……



「がんば、れ!」


 僕は放課後、居残って走ることにする。なるべくみたきちゃんとのタイムを近づけるのだ。

 みたきちゃんもマラソンの練習ということで一緒に走らせている。

 しかしこんなに必死に走ったのはいつぶりだろうか、昔犬に追っかけられた時以来だ。


「はぁ……はぁ……」


 短距離を何セットやっただろうか、もうくたくただ。

 みたきちゃんは僕より多分長い距離を走っているだろうに、全然疲れるそぶりを見せない。

 しかし汗はかなり書いているようで、体操服がかなり濡れている。

 そのせいか体操服の上から2つの突起が見えてしまった。


「……ブ、ブラジャー、買った方が良いよ」

「ぶらじゃー? ぶら、じゃー! ぶら、じゃー!」


 語感が気に入ったのかブラジャーという単語をみたきちゃんは連呼している。

 僕は疲れてはぁはぁ言っているが、周りから見れば明らかに僕が危ない子だろう。





 そんな感じで僕達は二人三脚の練習をして、やってきました運動会。


「いくよ、みたきちゃん」

「うん!」


 二人三脚の時間になり、位置につく。

 笛の音が鳴ると同時に僕は全速力で駆けだす。

 あれだけ練習したんだ、みたきちゃんとも合わせられるはず!


「いっち、に!いっち、に!」


 やった、ちゃんと二人三脚が出来ている。

 僕の足が速くなったのか、みたきちゃんが僕に合わせるという技術を会得したのかは知らないが、僕達は一位でゴールすることができた。


「えへへ、やった!」


 みたきちゃんが僕に抱きついてくる。心臓がバクバクしているのは、全速力で走ったからなのか、それとも。


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