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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
高校1年(前) 僕とネトゲな彼女(ひきこもり)
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反面教師の誘惑

 食事を済ませた僕達は、店を出てその辺りをぶらぶらと歩く。


「10年前は、道行く人が私の事をいやらしい目で見ているような気分に襲われたけど、今はもうそんなことないね。当時だって普通に皆私のことを、外人だとかそんな目で見てたんだろうね。自意識過剰だったんだ。でも、私の本名で検索したら痴態が出てくるしなあ……改名しようかなあ。何て名前がいいと思う?」

「髪が銀色だから……銀河とか」

「女の子っぽくない名前だね……」


 道行く人がたまに時さんを眺めたり、女子高生が指をさして話したりするが、それは時さんが綺麗だから、もしくは日本では珍しい銀髪だから……決して、悪意のこもったそれではないということは、何となく僕にも理解できた。


「私は許されたんだよ。だからもう外にだって出れるんだ、多分。私をいじめていた連中も、もうほとんどどこかへ行ってしまっただろうしね」

「許すも何も、時さん悪いことしてないよ」

「いやいや、彼氏が出来たからって浮かれて股開くような女、叩かれて当然だよ」


 道行く人がたまに時さんをしかめっつらで眺めたり、女子高生が指をさして引いているが、それは時さんが堂々とそんな会話をするから若干引いているのだろう。社会に出ていないと、空気を読む能力が無くなってしまうのだろうか。


「時さん……他に人もいるんだからさ、そういう会話はちょっと」

「ああ、そうだったね。うん、ついつい思ったことを口にしちゃう。駄目だね、こんなんじゃ」

「大丈夫ですよ、時さんまだ若いんですから」

「何言ってんのさ、26はもうおばさんだよ。私は劣化が緩やかかもしれないけど、大半の女性はもう男に見向きもされなくなる。だからそれまでに男捕まえないといけなくて、皆必死なんだよ」


 道行く時さんと同じくらいの年齢と見られる女性がこちらを睨んでいる。性格云々でいじめられたというのはどうやら真実のようだ。


「あ、丁度いいところに映画館が。映画見ようよ」

「ええ、わかりました」


 映画館を見つけた僕達はそこで今流行っている感動系の映画を見る。ほのぼのとした雰囲気に、家族愛と青春をテーマにした話題の一作だ。終盤になると、シアター内からすすり泣く音が漏れる。僕もこんな人生送ってみたいなあと思える、評判に違わぬ作品だった。けれど僕の横に座る時さんは、泣いているわけでなければつまらなそうなわけでもない、何とも言えない表情でそれを見ていた。



「もーホント感動したねー」

「うんうん、したした、チョー泣けたー」


 映画館を出る女性陣が泣けた泣けたの大合唱をする中、時さんは退屈そうに煙草を吸い始める。


「なんかさ、出てくる人間が絶対的な聖人か、絶対的な悪人ばかりで。人間味がなくて、不気味なんだよね。私には良さがわからなかったよ、こいつら感動できる自分に酔ってんじゃねーのってさ、はは、ひねくれ過ぎかな」

「まあ、僕もいいなとは思いましたけど、泣けませんでしたし」

「引きこもってる間、ずっと昼ドラとか見てたから洗脳されちゃったのかなあ……」

「ははは……」

「さてと、ゲーセンでも行こうか。プリクラとか撮ろうよ」


 しょんぼりしながらタバコをポイ捨てする時さん。それを拾ってきちんとゴミ箱に入れると、ゲーセンに向かって歩き出す時さんに続く。



「プリクラって密室だからドキドキするよね。普通にここで脱ぐ人とかいそうだよね。よし、脱ごう」

「何をわけのわからないこと言っているんですか時さん、外の機械に撮ったプリクラが晒されるんですよ。昔男同士で入って裸でプリクラ撮ったりして問題になったんですから」

「ま、まじで? 知らなかった、危うく悲劇再びだよ」


 時さんの痴態がゲームセンターに残るのを阻止しながら写真を撮り、適当に文字を書く。

 永遠の16歳と頭上に文字を書く時さんが、何だか痛々しかった。


「いやあ久々のプリクラだ。そういえば昔さ、彼氏とプリクラ撮って携帯に貼ってさ、音信不通になった後に剥そうとしたんだけどさ、かなりこびり付いて剥がれなくて。それでももう痕跡も残さず消したかったから携帯ガリガリやってたらさ、私の爪が剥がれたよ。今となってはいい思い出かな」

「どこらへんにいい要素があるんですか……」


 その後もダンスゲームをしたりUFOキャッチャーをしたりと時さんと遊び続け、ゲーセンを出る頃にはすっかり夜になっていた。



「うーん、楽しかったよ。中君はどう? 楽しかった?」

「ええ、楽しかったですよ」

「そうか。それならいいんだけどね、さて、名残惜しいけどそろそろ帰らないと……」


 夜の街を時さんとぶらつく。夜の中銀色に輝く時さんは綺麗だけど、物悲しい雰囲気が一層強く見えた。



「おい、高下。こんなとこでなにやってんだよ」

「……へ?」



 後ろから声をかけられる。振り向くとそこには、デート中と見られる煉獄君と郡山さんがいた。


「お前、その人誰だよ。前一緒にいた彼女と別人じゃねーか。学校も行かずに、女とほっつき歩いてんのかよ」

「ねえ高下君、もうそろそろ学校に行かないと、本当に留年するよ? それでいいの?」


 今までは自分を心配していたのが、いい加減愛想をつかしてしまったのかこちらを蔑むような目で見てくる煉獄君と、諦めかけているように見える郡山さんの目がとても怖くて、


「……行きましょう」

「ちょっと中君、どこへ?」


 僕は時さんの手を掴むと、ずんずんと彼等から逃げ出した。


「いいの? 友達なんでしょ?」

「もう友達じゃないですよ、いい加減向こうも僕に嫌気がさしたでしょうし」


 煉獄君も郡山さんも赤石さんも、いい加減うだうだと引きこもっている僕に幻滅しただろう。

 それでいいんだ、皆僕の事なんて放っておいて、幸せになればいいんだ。


「本当に嫌気がさしてたら無視しないよ、さっきだって君を心配してたじゃない。私なんて同級生にずっと笑われ続けたんだよ、それに比べたら心配されるなんて喜ばしいことでしょ」

「僕は時さんほど心が強くないんです」


 僕に手を引かれながら呆れるような顔をする時さん。本当はあの二人も、影で僕を笑っているんじゃないかと思ってしまう。高校のクラスの人達も、すぐに学校に来なくなった僕の事を負け犬と笑っていることだろう。


「ていうかいいの?」

「何がですか」

「人をこんなところに連れてきておいて」

「へ?」


 あの二人から逃げるのに夢中で時さんの手を引いてぐいぐいと目的もなく歩き続けた結果、僕達はホテル街に来てしまっていた。


「そっかそっか。中君も所詮はケダモノだってことか。結局は私を奈落の底に叩き落としたあの男と、大して違わなかったってことか」

「あ、いや、その、すみません。帰りましょう」


 ホテル街から抜け出そうと元来た道を戻ろうとする僕の顔に水滴が落ちる。


「……雨?」

「中君天気予報見てなかったの? 今日夜から大雨になるって。だからさっき、そろそろ帰らないとって言ったのに。まあ私は傘持ってきてるけど……あ、ゲーセンに忘れてきちゃったよ」


 困ったような顔をする時さん。その間にポツポツと降っていたそれはザーザーと土砂降りになり、僕も時さんもかなり濡れてしまう。


「しょうがない、入ろうか」

「え、いや、まずいですよ」

「何を期待してるのかは知らないけど、普通に雨宿りだよ雨宿り」


 この雨では確かにまともに外を歩くことはできないだろう。時さんに諭され、僕達は近くにあったラブホテルに入る事にした。





「何をやってるんだろうな、僕……」


 濡れたから先にシャワー浴びるねと時さんが近くでシャワーを浴びている中、僕はベッドの上で体育座りをしてくるまる。

 別に時さんとラブホテルに入ったからって僕にその気はないし、何も起こることなく雨があがれば出て解散。デートもおしまい。

 そしたらその後はどうなるのだろう。また時さんとネットゲームで慣れあって、気づけば僕は留年するのだろうか。いや、時さんは社会復帰を目指しているのだから、やがてネットゲームにも来なくなって、僕は結局家で一人ぼっちになるのだろうか。そのうち父親にも、みたきちゃんにも不登校だとばれて、愛想をつかされて……


「ふー、さっぱりした」


 ホテルに借りたパジャマ姿の時さんがシャワー室から出てくる。私服ではわからなかったが、確かに薄着のパジャマだと時さんの身体が痩せこけているのがわかる。


「中君もシャワー浴びなよ、風邪ひくよ?」

「……そうですね」


 時さんにシャワーを勧められるが、どうにも動く気が起きない。僕の頭はこれから先、僕はどうなってしまうのだろうという不安でいっぱいだった。


「ねえ中君、私のヒモにならない?」


 デート中何本目かのタバコを吸いながら、唐突にそんな提案をしてくる彼女。


「何を言ってるんですか」

「ヒモだよヒモ。君は毎日私の家で私と引きこもりながら、いちゃいちゃして養ってもらうの。君は引きこもりながらも生活できる、私も君がいれば引きこもりつつも寂しさは紛らわせることができる、一石二鳥だね」

「……意外と魅力的な提案ですね」


 確かにこのまま僕が引きこもり続けていれば、みたきちゃんにも愛想を尽かされるだろうし、父親も僕を家から追い出すかもしれない。引きこもり同士時さんのところにお世話になるのも、悪くは無いのだろう。

 時さん相手なら、みたきちゃんのように罪悪感を覚えることなく求めることができるだろう。



「けど、駄目ですよ。僕には大切な人がいますし……時さんも、社会復帰したいって言ってたじゃないですか、あれは嘘だったんですか? そうですよ、僕も、時さんも、引きこもってちゃ駄目なんですよ」

「いいじゃない、引きこもっても。世の中にはどうしても外の世界では生きられない人間だっているんだよ。そういう人間は引きこもりながら生きるしかないんだよ、私や君のように」

「違う! 例えそうだとしても、僕も、きっと時さんも、そんな人間じゃない! 僕達は、引きこもってちゃ駄目なんだ! 例え辛い目にあったって、戦わないと駄目なんだよ! うっ、うっ、うう……」


 言いながらボロボロと涙を流す。無責任な事を言っているとはわかっている。どうしても外の世界で生きられない人間がいるのもわかっている。みたきちゃんだって、それに近い存在だ。けど、僕にはわかる。僕はそういう人間じゃないんだ。引きこもりを正当化できるほど痛い目にはあっていないし、外の世界で生きていない。時さんは十分痛い目にあったかもしれないけど、その傷も癒えかけている。だからやり直せるんだ。外の世界に出ないと駄目なんだ!



「……自分で、答えを見つけたじゃない」

「……へ?」

「例え辛い目にあったって、戦わないと駄目……うん、その通りだ。私にそんな事を語る君は、来週から学校に行くんだろう?」

「それは……」


 ひょいと起き上がると、自分のベッドに座ってタバコを吸い始める時さん。


「私はね、後悔してるよ、ずっと引きこもって。まあ、学校に行くのは無理だったかもしれない、不祥事起こしたとして退学させられたかもしれない。それでも、バイトしながら勉強して、大検とるなり、色々道はあったけど、私は結局逃げ続けてきた。心に負った傷だって癒えたはずなのに、あんな悲惨な事があったからしょうがない、自分は外の世界で生きられない人間になってしまったんだって自分に言い訳してきた。今日外に出て色々遊んでわかったよ、無駄な時間を過ごしたって。私は外の世界で生きられない人間じゃない、外の世界で生きることから逃げただけの人間だって」

「時さん……」

「今でも私の意見は変わらないよ、君は私に比べれば恵まれすぎている。学校には友達がいるし、恋人だっている。顔が醜いわけでもなければ、致命的なコミュ障でもない。何より私と言う反面教師がいる。けど、ずっと引きこもっていれば、結局は私と同じような存在になってしまうよ」

「でも僕は……怖いんです。周りの人が信じられなくて、怖いんです。もし学校に行って、その疑惑が確信になったら……」

「そうだね、その時はその時だ。君は今の社会じゃ生きられない人間だって、諦めるしかないね。私みたいな稼ぎ方をするといい、何なら私のブログの管理権をあげるよ。でもまあ、まずは学校に行くことだね。無責任な話かもしれないけどさ、疑惑が確信になるくらいで、君は壊れたりしないでしょ、多分」


 タバコを灰皿に入れると、時さんはベッドに横たわる。


「はあ、今日は本当に疲れた。体力も落ちたなあ。会話も、去年の分は優に越えたね。というわけで私はもう寝るよ、君は私の隣で悶々としながら、色々考えることだね。おやすみ」


 本当に疲れきっていたのか、それ以上は何も喋らず、すぐに寝息をたてはじめる。




 シャワーを浴びて僕もベッドに入り、自分が時さんに、自分自身に言い聞かせるように言い放った言葉や、時さんの言葉を反芻させる。色んな感情が出てきて、布団を涙で濡らしてしまう。やがて考えすぎたのか泣き疲れたのか、僕も眠りに落ちるのだった。







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