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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
高校1年(前) 僕とネトゲな彼女(ひきこもり)
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10年ぶりのデート

 もう、時間はあまり残されていない。

 そろそろ学校に行かないと、二度と学校に行かなくなってしまうだろう。時さんのように。

 けれど時さんの境遇が、僕を雁字搦めに締め付けていた。

 時さんの人生をぶち壊した卑劣な男と、赤石さんを壊してみたきちゃんを食い物にする僕、一体何が違うというのか。

 僕の同級生が、時さんの人生をぶち壊した醜悪な人間達ではないと、どうして言い切れようか。

 ずっと否定しようとしてきた、『学校に行かない方がマシだ』という考えが、肯定に傾きかけてきた。

 時さんの過去を知ってからというものの、僕の精神は明らかに擦り減っていた。


「ねえあたるくん、だいじょうぶなの? なんだかくらいよ?」

「みたきちゃんは、違うよね。みたきちゃんは、綺麗な人間だよね。じゃないともう僕はおしまいだよ、いや、もう僕は終わってるのかもね」

「いたいよ、あたるくん……」


 僕は一体これからどうなってしまうのだろうという不安から、お医者さんごっこの時にみたきちゃんを強く抱きしめすぎてしまう。このままいけばみたきちゃんは僕によって壊されるということなのだろうか。

 色んなものから逃げるように、僕のネットゲームログイン率は上昇していた。

 人が多いのが嫌だからとそれまでは夕方になるとログアウトしていたのが、時さんが落ちるまで、いや、時さんが落ちても一人でただただ狩りをする。他にやることがない、やる気が起きない。


「もうすぐ定期テストか? 偏差値高い高校だからテストも難しいんだろうな、ちゃんと勉強についていっているのか」

「大丈夫だよ、父さん」

「……」


 家族で食卓を囲む際の、父親の我が子を信じきっている様子と、母親のどうすればいいのか困っている様子を見るのが辛く、家族の目を見ないように食事をするばかり。

 父親に嘘をつき続けるのも、そろそろ限界だろうか。



『中君、私とデートしないか?』

『デートですか?』


 一人で狩りをしていたせいか時さんとのレベル差がつきはじめた頃、いつものようにパンを食べて帰ってくると、時さんがそんな提案をしてきた。


『うん。実はね、私もそろそろ引きこもってばかりじゃいけないと思うんだよ。もう四捨五入すれば30だしね、婚活もするべきだと思っている。でも私はあんなことがあったからね、はっきりいって男が駄目なんだよ。だから中君で慣れておこうと思って。私の社会復帰を手伝うと思ってさ、引き受けてくれないかな』

『……僕じゃあ、練習相手にもなりませんよ。時さんの男嫌いを余計に増大させるだけです。オフ会の時だって、情けない姿ばかり晒しましたし』


 僕の事はもうどうでもよくなってきているが、時さんの社会復帰は手伝いたい。

 けれど、二股でもいいから、と言われて安請け合いした結果が、赤石さんのような悲劇のヒロインを作ったんだ。

 練習相手と言われても、僕は本気で時さんに臨まないといけない。そして今の僕には、多分それができない。


『そんなこと言わないでさ。君も気分転換とかが必要でしょ? 今のままで本当にいいの?』

『それは……』

『人生の先輩の言う事は素直に聞いておくものだよ。土曜日でいいかな? いやあ楽しみだ、10年ぶりのデートだからね』


 結局押し切られるようにデートの約束を取り付けられてしまう。

 練習は本番のつもりで。僕は時さんがまた人を信じることができるように、精一杯イメージトレーニングをするのだった。自分が人を信じることができていないのに。




「やあ、久しぶりだね中君。今日は私服なんだね」

「こんにちは、時さん」

「そんな堅苦しくならずに、恋々ちゃんって呼んでよ」

「それはちょっと……」

「ウブだねえ」


 土曜日、待ち合わせ場所の駅前に時間ぴったしにつくと既に時さんが来ていた。

 休日ということもあってか、それなりに人が多い。時さんは周囲の視線に耐えられるのだろうかと心配になる。


「よし、それじゃあ早速だけどお昼ご飯にしよう。ネットでいい店見つけたんだ、奢るよ」


 僕の手を引っ張って歩き出す時さん。それにしても、時さんは綺麗だ。10年間引きこもって不健康な生活をして、体もかなり痩せ細っているし、目も虚ろだけど、それでもそこらの女性よりは断然綺麗だ。けれど、10年前はもっと綺麗だったのだろう。自分の事を時が止まっていると称しているが、10年間で時さんの見た目は間違いなく、変わってしまったのだろう。


「中君は何にする?」

「……ペスカトーレで」

「オッケー。すいませーん……ペスカトーレとペペロンチーノの麺少な目、両方ランチセットで」


 普段の食事は精々数百円ですませている僕からすれば、このお店の4桁が当たり前なメニューを見るだけで緊張してしまう。


「ランチセットって2000円もするじゃないですか、こんな高いものご馳走になれませんよ」

「中君は気にしなくてもいいんだよ、貯蓄はそれなりにあるからね」

「……その、時さんってどうやって生活しているんですか?」


 料理が運ばれてくるまでの間、引きこもりの先輩として時さんに質問をしてみる。


「風俗だよ」

「ぶふふっ!」


 とんでもない爆弾発言に、僕は口に含んでいた水を思いきり噴き出してしまう。


「汚いなあ……冗談だよ」

「時さんが言ったら冗談になりませんよそれ……」

「ま、お金を稼げない女の最終手段だからね。私みたいな過去があっても、身体を売りでもしないと生きられない女ってのは結構いるよ。風俗で働いていた方が、割り切って生きることができたのかもね」

「で、仕事は何をしているんですか?」

「まとめサイト、アフィリエイトブログ運営って言えばわかるかな。ネットの流行とかを取り上げるの。最初の数年はニートも同然で引きこもってたんだけど、とうとう親に捨てられてね。流石に風俗は嫌だったから、何とか自分みたいな引きこもりでも稼げる仕事はないかなと思って。最初の方はきつかったよ、一日ネットに貼りついてどれだけ更新しても、月に1万円とかその程度なの。でも継続は力なりだね、今では割と大手になって、適当に更新しているだけで大体月に30万くらいは入ってくるよ。いつ廃れるかわからないけどね」


 なるほど、確かにそれならずっと引きこもっていてもできる仕事だ。けれど、


「……時さんって、そういうのを嫌う人間だと思ってました」

「だろうね、君も多分嫌ってるでしょ。私の時代は今ほど流行ってなかったけど、それでも私はああいう存在のおかげで全世界に痴態を晒すことになったんだからね、憎むべき敵とでも言っていい。けど、当時の私は今みたいに外に出ることすらできなかったし、中君のような人ですら全く信用できなかった。高校入った頃は頭が良かったけど、少し引きこもってるうちに無知無学。生活保護とかも、やっぱりプライドとかあったしね。当時の私の頭じゃ、他に風俗くらいしか選択肢が無かったんだよ、馬鹿な女でしょ」

「そんなこと……」

「いいんだよ、思いきり見下してくれても。自分自身、自分と似たような境遇の人間を食い物にするような真似をして、何度も死にたくなったよ。10年も経てば私も過去の人になってきたし、少しずつ努力して、こうして外に出るくらいなら何とかできるし、普通に喋ったりもできる。できることなら、今の仕事は辞めたいんだよ」


 悲しそうに話す時さんになんて声をかければいいのかわからずに黙りこくっていると料理が運ばれている。逃げるようにいただきます、と手を合わせてそれに口をつける。


「……いただきます」

「わあ美味しそう、いただきます」


 時さんも料理に口をつけ、しばらく無言で前菜やトースト、パスタなどをすする。


「……ごめん中君、残り食べてくれないかな」

「えっ」


 半分くらい食べたところで時さんが僕の方に料理を差し出した。

 元々女性向けのお店だし、量はそこまでないはずなのに。


「……笑っちゃうよね、一時期は食べては吐いてを繰り返して、今の私はこれすら完食できないんだよ。……言っておくけど私、40ないから」

「……」


 開いた口が塞がらない。服を着た状態では痩せているなとは思っていたが、まさかそこまでだったなんて。しかも時さんは外国人の血をひいているからか身長が高い。痩せているで済むレベルではないだろう。


「まあ、少しずつ、少しずつ食を戻せばいいよね」


 健気に笑う時さん。引きこもり続ければ僕もやがてこうなるのだろうかと思うと、僕まで食欲を失いそうになる。




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