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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
高校1年(前) 僕とネトゲな彼女(ひきこもり)
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あられもない姿の悲劇のヒロイン

「よしよし、よくわからないけどだいじょうぶだよー」

「みたきちゃん、みたきちゃん、うっ、うう……」


 ファミレスを飛び出した僕は、気づけばみたきちゃんの職場に来ていた。

 丁度休憩時間だったみたきちゃんが、泣きながらやってきた僕を見て、理由も聞かずに頭を撫ででくれる。

 なんてみたきちゃんは優しいのだろう。ずっとこうして甘えていたい。

 けどわかっている。みたきちゃんに甘えていたら、絶対に後悔することになる。

 勿論、みたきちゃんが僕を甘やかすのがいけないと言っているわけではない。


「あ、ごめん。そろそろおしごとにもどらないと。あたるくん、だいじょうぶ?」

「……うん。もう大丈夫。今日はお昼ご飯はいいや、また迎えにいくよ」

「はーい!」


 みたきちゃんに別れを告げた僕はファミレスに戻るが、既に時さんの姿は無かった。

 一人家に戻りながら、時さんの言葉を噛み締める。

 時さんが間違った事を言っているようには思えない。

 自分自身、不登校である今を否定したくてたまらなくて、それでも一人じゃどうしようもなくて悩んでいたのだから。

 けれど実際に否定されると、怖くなる。

 時さんが同級生で無かった以上、僕は一人で学校に行かなければならないのだ。

 勿論学校には煉獄君や郡山さんもいる。二人はきっとすごくいい人だ。そうであって欲しい。

 けれど、今の僕は彼等にすら心を閉ざしている。だから僕は一人なのだ。



 ネットゲームをする気分ではなかったが、体に染みついているようで家に帰った僕は気付けばネットゲームにログインしていた。


『おや、大丈夫?』


 すぐに時さんからウィスパーが届く。


『時さん、さっきは本当にすいませんでした。自分からオフ会提案しておいて、途中で逃げ出すとか。本当にすいませんでした!』


 結局時さんに代金も払わせてしまったし、今の僕には平謝りすることしかできない。


『いや、私の方こそ悪かったよ。年齢偽っていたのは完全に私が悪いし、中君がまだ高校一年生だって事を頭に入れてなかったよ。私が君くらいの時は、もっと脆くて弱かったのに。所詮私は引きこもり続けた負け犬だ、私の言う事なんて真に受けなくていい、今日話した事は忘れてくれ』

『いえ、時さんの言っている事は正しいと思います』

『正しくないよ、中君の期待に応えることができなかったんだから。私は中君のような理由で引きこもっているわけじゃないから、君の気持ちがわからないんだ。それなのにわかっているつもりになって君を否定して。社会経験が乏しいとこうなってしまうということだね』


 今まではどちらかと言えばフランクな口調だったが、やたらと畏まった口調になる時さん。


『いえ、とにかく僕が悪いんです』

『まあ、君がそう言うなら私が折れるよ。で、今日はどうする? もう私と関わっても、君の学校復帰には何ら役には立たないと思うよ。君を可哀想だとはいまいち思えないし、学校に行きたいなら行けばいいじゃないかとも思っている』

『そんなことないですよ。パーティー組みましょう』


 恥ずかしい話だけど、今の僕には同じ境遇の子を探すなんて気力はもうない。

 それに時さんは、悪意を持って僕を否定したわけじゃない。僕の事を思って否定してくれたんだ。

 だから例え境遇が違おうと、時さんなら僕の後押しをしてくれるんじゃないかって、他力本願な事を考えていた。


『そっか。よし、それじゃあシリアスモード終了。さあイベントモンスター狩るよ!』

『はい』


 そうして何事も無かったかのように、僕と時さんは二人でパーティーを組んで冒険をするのだった。





『おはよう時さん』

『おはよう中君』


 他力本願な僕を嘲笑うかのように、時間は刻一刻と過ぎていく。

 あれから時さんが不登校だとかの話題を口にすることはなかった。

 何を言えばいいのか、本人もわからなくて悩んでいるんじゃないかと勝手に想像するうち、とある疑問が浮かぶ。

 どうしても気になってしまった僕は、ある日お昼休憩が終わった後に、


『ところで時さんって、どうして不登校になったんですか?』


 失礼を承知で聞いてみることにした。


『……聞いちゃう? それを』

『すみません、どうしても気になって』

『多分君には悪影響だよ。君が学校に行く邪魔をすることになると思う』

『それでもお願いします』


 元々時さんにも打ち明けてもらう予定だったのだし、引きこもり続けた時さんの事情とか人生とかが、うだうだしている僕へのスパイスになるかもしれない。どうせ他に策が思いつかないんだ。





『……わかった。私の本名で、画像検索してみなよ。漢字は南雲恋々ね』


 5分くらいの沈黙の後に、時さんがそう告げた。

 言われた通り、ブラウザを立ち上げて、彼女の名前を検索する。


「……ぶふっ! がはっ、げほっ」


 表示された検索結果を見て、現実で咳込んでしまう。

 モニターに映ったそれは、僕と同い年くらいであろう時さんの産まれたばかりの姿だったから。


『どうだった? エロい? エロいでしょ、おかずにしてもいいんだよ』

『ふざけないでください! 何なんですかこれは!』

『……そうだね、こうなった経緯を話そうか』


 ついこの前出会った人間のあられもない姿は刺激が強すぎる。けど、時さんは今から大事な話をするのだろうから、真剣に向き合わないといけない。



『まあ、私見た目こんなんで浮いてたから、小学校時代は友達できなくてね、軽いいじめとかも受けたよ』


 確かに、単一民族国家の日本では時さんのような人は浮いてしまうだろう。

 子供は純粋だ、僕の学校には時さんみたいな人はいなかったけれど、もしもいたらガイジンだガイジンだとからかっていたかもしれない。



『で、性格歪んじゃって。中学校に入ったら、性格の方でも浮いちゃって。いじめが酷くなって』


 大半の人間にとって、孤独は人を狂わせる。見た目が醜い人間は、そのうち心も醜くなってしまうなんて僕は信じたくないけれど。


『私もめげずに頑張って勉強して、本街入ったんだけどさー、頭のいい人はいじめをしないなんて幻想だったね。どんなコミュニティでも、私みたいな見た目も中身も浮いてる人は叩かれるよ。しかも見た目は良かったからさ、女子に嫉妬されるようになるし。こっちはその見た目のせいで浮いちゃったのにさ、代わってあげたいよ、本当に』


 出る杭は打たれる。優れていても劣っていても。仕方がないのだと、子供の僕には納得できない。


『でも、見た目が良かったおかげでハッピーな出来事もありました。恋人ができたんです! それも頼れる大人の大学生。ナンパから始まった恋だけど、学校で辛いことばっかりだった私はその人に溺れたよ。この人は私の運命の人に違いない、って思って、付き合って2ヶ月くらいで、エッチなこともしたよ』


 六月六日さんが、趣味を理解してくれる僕だけを持ち上げたり。

 郡山さんが、本当に好きな人よりも、いじめから庇った僕を選ぼうとしたり。

 赤石さんが、僕なら受け入れてくれると希望を持って、僕に縋り付いたり。

 孤独な人間は、案外優しくされるとコロリと落ちるものなのだろう。


『……しばらくして学校に行ったら、明らかに周囲の私を見る目が違ったんだ。女子は明らかに蔑むような目で、男子はひそひそと、にやにやといやらしい目で。原因は、その画像がネットにアップされて、目立つ容姿だったから学校の人にバレたってオチだよ。文字通りハメられたね。最初からヤリ捨て目的で、武勇伝のようにハメ撮り写真もばらまいて、いつのまにか音信不通になっていた……そんな人を運命の人だなんて、見る目がないにも程があるよね、自業自得なんだろうね』


 酷過ぎる。そんな感情しか出てこず、やり場のない怒りに机をガンガンと叩く。淡々と話す時さんだが、一体どれほどの覚悟をして僕に打ち明けているのだろうか。モニターの向こうで時さんは、一体どんな表情をしているのだろうか。


『高校一年生の、やっと幸せを掴んだと思っていた女の子にはきつすぎたね。それでも頑張って、少しだけ学校に行ったんだ。馬鹿だよね、裸で学校に行ってるようなものなのに。いつのまにか学校の誰かが私の本名を晒してさ、炎上したわけ。騒ぎが大きくなればなるほど、私は辱めを受けるわけ。こうして私は不登校になって、復讐を企てる気力もなくなって……仮に復讐しようとしても、多勢に無勢だし、泣き寝入りだったんだろうけどね。中退したあとも、自分のあられもない姿を周りの人間全員が知っているんじゃないかってほとんど外にも出れなくなって、人間不信になってずっとずっと引きこもり続けました。おわり。……ね? 中君、更に人間不信になったでしょ? だから言ったじゃない、学校に行く邪魔をするって』





「あああああああああああっ!」


 現実で、怒りや悲しみといった負の感情を暴走させ、一人部屋で狂乱しながら叫ぶ僕。

 あまりにも救いようのない話だったのもある。

 けれどそれ以上に、孤独な時さんに手を差し伸べるフリをして食い物にした卑劣な男が、僕に重なって見えたのだ。

 登場人物全てが悪役にしか思えないような時さんの身の上話に、僕は周りと自分への絶望を深めるしかなかった。


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