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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
高校1年(前) 僕とネトゲな彼女(ひきこもり)
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タイムリミットを意識しても踏み出せない

 時さんと知り合って数日が経った。


『やあ中君。毎日毎日君も暇だね』

『そういう時さんだって、午前中ほとんどログインしてるじゃないか』

『私はこれでも規則正しい生活を送ってるしね』


 同じ時間帯にログインしていれば、パーティーを組んで狩りをする。

 あまり言葉は交わさないが、不思議な一体感が僕を包んだ。




「赤石さん、調子はどう?」

「やあ高下君。うん、私は元気だよ」


 週末の休日……今の僕にとっては毎日が休日のようなものだけど、赤石さんのお見舞いに行く。


「そう言えば高下君、六月六日さんって今何やってるの?」

「この間久しぶりにメールをしたけど、うまくやってるみたいだよ。バンドやってるってさ」


 高校生になって、いつのまにかメールをしなくなっていた六月六日さんに久々にメールを送った。

 彼女は高校生になって、友達もたくさんできて、恋人とも上手くいっているようだ。

 六月六日さんは、赤石さんのように不幸な事件が起こることなく幸せに生きて行って欲しい。

 例えそれで僕達が過去の人間となっても。


「そっか。彼女が一番の出世株だね」

「執筆の調子はどう?」


 赤石さんは、ギプスで固められた左手をプラプラとして見せる。

 この間見た時に比べると、痛々しさは減っていた。治りつつあるようだ。


「もうすぐ左手が復活するから、そうすればノートパソコン使って執筆ができるよ。高下君は、学校に復帰したかい?」

「……」


 彼女の問いかけに答えることができず、目を逸らしてうつむく。


「してないみたいだね、その様子だと」

「ちゃんと出席日数足りるようにはするし、家で勉強してるから期末テストだって問題ないよ」

「で? その出席日数のために学校に復帰するのは、いつするんだい?」

「……」

「一度引きこもり癖が根付いちゃったら、そう簡単に復帰できないと思うけどなあ。出席日数って、大体3分の2は必要なんでしょ? 高下君がサボれるのは大体60日、大体一か月に授業は20日くらいあるから3か月……数日は学校行ってたみたいだけど、それを考慮しても夏休み前には復帰しておかないとまずいよね、もう高下君がサボっていられる時間はあんまりないわけだけど、今君は学校行けるの? 高校一年生も二年生も三年生も、器用に不登校と登校を繰り返すなんてできるの?」

「……」


 赤石さんが具体的な数値を出してくる。そう、僕にはあんまり時間が残されていない。

 一度休み始めたらずるずると深みにはまっていくのも理解している。

 毎年3分の1程度休んで、残り3分の2は出席するなんて、まず無理な話だと言う事も理解している。

 ずっと休み続けるか、途中で学校に復帰してそれからは毎日学校に行き続けるか、その二択。

 もう僕に残された時間は少ない。


「高下君の気持ちはわかるし、私も原因の1つなんだから申し訳ないと思っているよ。でも、高下君は乗り越えないと駄目だよ。私だって、こんな状況でも精一杯頑張っているんだから。世の中は確かに君の彼女さんのように綺麗な人間なんてほとんどいないよ、でも君が思っている程汚い人間だらけじゃないし、君が思っている程君は汚い人間じゃないよ。私が保証する。……お願いだよ、私のためにも乗り越えてよ」

「……また、来るね」


 僕を優しく諭すような、それでいて責めるような赤石さんの口撃に、僕は何も言い返すことができず赤石さんの病室から逃げ去る。自然とポロポロと涙が溢れる。




「高下!」

「高下君……」

「……やあ、二人とも」


 病院から帰る途中、偶然にもデート中と見られる煉獄君と郡山さんに出会ってしまう。


「お、おい高下、俺聞いたんだけどよ、学校って3分の2は行かないと留年になるらしいぞ、そろそろ学校に行かないとやばいんじゃないか?」

「うん、そうだね。そろそろ学校に行かないとやばいね」

「だったら、明日からでも行こうぜ! 大丈夫、頭はいいけど馬鹿で楽しい奴等ばっかだからよ。何なら家まで迎えに行ってやるよ」

「うん、大丈夫。そろそろ学校に行くつもりだから。二人ともデートの途中でしょ? それじゃまたね」

「お、おい高下! その言葉本当なんだろうな!?」


 一度も二人と目を合わせることなく逃げ出す。



 無我夢中で走ってみたきちゃんの家までやってきた僕は、みたきちゃんを呼んで僕の家で遊ぶことにした。


「こんどおきゅうりょうがでるんだよ。あたるくんになにかかってあげるね!」

「……本当は僕がプレゼントするべきなのにね」


 みたきちゃんを部屋に連れ込んでお医者さんごっこをした後、僕に抱きつきながらそんな事を言うみたきちゃんの顔を直視することができない。

 これじゃあみたきちゃんのヒモじゃないか。

 みたきちゃんは自分にできることをして頑張っているのに、僕ときたら。


「ヒモはヒモらしく、みたきちゃんを悦ばせないとね」

「……? ……! ひぁっ、くすぐったいよあたるくん」


 現実逃避するかのように、思考放棄してみたきちゃんに走る。

 このままじゃ駄目だってわかっているのに、破滅するかのようにみたきちゃんに溺れるのが心地いい。




『やあ時さん、おはよう』

『やあ中君、今日も稼ごうじゃないか』


 翌日、やはり学校には行かずネットゲームにログインして時さんとパーティーを組む。

 煉獄君にはそろそろ学校に行くと言ったが、そろそろとはいつの事だろうか。

 パーティーを組んで無言でしばらく狩りをする。

 大分レベルはあがったけれど、こんなことして何になるんだろうかと偶に思う。


『ねえ時さん』

『どうしたんだい中君』

『これからどうするつもりなの、あんまり学校休んでたら留年になるよ』

『そうだね。君はどうするつもりなんだい?』

『……学校に行きたいよ』

『じゃあ行けばいいじゃん』

『……時さんは、行く気ないの?』

『さあてね』


 気まずくなって、それ以降は何も喋らずに黙々と狩りを続ける。

 お昼時になって、いつものようにみたきちゃんのパンを食べに行って帰ってくる。


『お待たせ、時さん』

『やあ中君。そうそう、阿修羅事件って知ってる?』

『少しだけなら。写真を晒した人間が炎上したんでしょ?』


 時さんの言う阿修羅事件……赤石さんの顔が晒されて赤石さんが心に傷を負い、晒した人間も調子に乗りすぎて個人情報を晒され炎上したという、どうしようもないくらい悲しい事件だ。当事者のようなものなので僕も途中までは成り行きを見ていたが、そのうち気分が悪くなって見るのをやめてしまった。また何か進展があったのだろうか。


『うん。晒した人間を炎上させた人間が調子に乗りすぎて自爆して、その人も叩きの対象になっているよ。負の連鎖だね』

『そっか、どうしようもないね。時さんも、炎上とかに参加してるのかい?』


 事件が長引けば長引くほど、赤石さんも晒され続ける。さっさと収束して欲しいよ、本当に。


『そんなことしないよ、自分が社会的弱者だからって、虚しいだけじゃないか』

『うん、僕もそう思う』

『……でも、憂さ晴らしせずに自分が壊れるくらいなら、他人を壊した方がマシだね。中君はあるの? そういうストレス解消』

『まあね』

『いいねえ、参考までに教えてよ』


 僕がそういうことをしなくても割かし心の平穏を保てているのは、みたきちゃんのおかげだろう。

 時さんに、『自分になついている知的障害の女の子とお医者さんごっこをするのがストレス解消だよ』なんて言えるはずもなく、


『恋だよ』

『恋? ああ、アニメとかギャルゲーとかのことね』

『ひっどいなあ』


 適当に誤魔化す。


『そういえば晒されていた女の子も、確かこの辺の子だよね。高下君の知り合いだったりする?』

『……うん。中学が同じだったよ』

『そっか。まあ、あんまり深く聞くつもりはないけどね。同じように私の情報も中君に教えるつもりはないよ、今はね』

『今は?』

『中君の好きなギャルゲーのように、好感度と経験値を稼げってことだよ』

『だからギャルゲーじゃないって……』


 ギャルゲーじゃないけど、毎日パーティーを組んでチャットをしているうちに、時さんと僕は仲良くなっていくのだろう。

 でも、あんまり時間がない。僕だけじゃない、時さんも多分このままじゃ手遅れになってしまう。

 時さんに打ち明けて、時さんにも打ち明けてもらって、二人とも学校に復帰できるようにならないと駄目なんだ。



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