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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
高校1年(前) 僕とネトゲな彼女(ひきこもり)
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引きこもり×引きこもり

『あの、PT組みませんか?』


 偶然見かけた、近くに住んでいるらしい女性PCに声をかける。

 エルフベースで真っ白な肌とやせ気味ですらりとした長身の彼女? は狩りを中断すると、


『私はBOTじゃないけど?』


 と返事をする。


『へ?』

『え? 君、いつもBOTと二人で狩りしてた人でしょ?』

『まあ、そうだけど』

『てっきりそういう趣味の人かと』

『違うよ……」

『ふうん。まあ、いいけど』


 いきなり変な趣味の人間に思われてしまったが、PTを組んでくれるらしくPT参加承認のウィンドウが開かれる。

 しかし彼女の言う事も尤もかもしれない。

 みたきちゃんしかり、可愛くて心も綺麗な二次元世界の美少女を追い求めているようなものなのかもしれない。

 そう言う意味では、僕も虐げられるオタク達と何ら変わりのない存在か。


『で、ここで狩りするんですか?』

『僕は別にどこでもいいよ。希望とかある?』

『だったら、狙っているレア装備があるんで火山エリアに来てくれませんか?』

『わかったよ、それじゃよろしく……何て呼べばいいかな、時さんとか?』


 いちいち‡時の止まった少女‡さんだなんて呼ぶのも変な話だろう。

 略して時さん? 時止女さん?


『呼びたいように呼べばいいよ。君は? high-under-middleなんて意味不明な名前だけど』


 それじゃあ以下『時さん』ということにしよう。

 そして時さんは困ったエモーションを出しながら僕の名前についても言及する。

 高下中。そのまんま英語にしてhigh-under-middle。文字数制限ギリギリの、時さん以上にタイピングが面倒くさい名前だ。


『中とかでいいよ』

『中君ね、了解。それじゃ街でアイテム買い込んで火山に行こう。女性用レアアバタードロップしたら譲ってね』


 ‡時の止まった少女‡とhigh-under-middle。やたらと名前が目立つ僕達は回復アイテム等を買い込むと、時さんの要望通り、さっきまで狩っていた場所よりやや敵が強い火山のエリアへ。


『それじゃ、ヘイト管理はばっちりやるから、後方支援よろしくね』


 そう言ってマグマのモンスターを斬りつける時さん。言われた通り彼女が時間を稼いでいる間に後ろから氷の魔法を詠唱し、大量のつららをぶつける。20秒程の戦闘の末、時さんが無事モンスターを撃破。

 一度このエリアに一人で来たことがあったけど、このモンスターを倒すのに確か2分くらいはかかった。


『まず1匹、と。やっぱりパーティー組むと効率がいいね』

『そうだね』


 喜びのエモーションを寄越す時さんにこちらも喜びを返す。

 ネットゲームというのは、基本パーティー前提のバランスだ。

 1人と2人じゃ、圧倒的に効率が違う。


『というわけでこのモンスターを狩り続けよう。ってごめん、中君は時間とかいつまで大丈夫?』

『12時と4時頃に一旦少し抜けるけど、それ以外はほとんど大丈夫だよ』

『へえ、暇人なんだね。まあ、私もだけどさ』


 暇人、と言われてついつい怒りのエモーションを出してしまう。

 それからしばらく時さんとモンスターを狩り続ける。昨日までに比べると、かなりの経験値効率だ。

 けれどほとんど会話は無い。VRMMOでも何でもないから、相手の表情なんてわかりっこない。

 ネットゲームって、人と交流しているようで、交流していないなと感じる。


『ごめん時さん、ちょっと少し抜けるね。すぐ戻るから』

『うん。私もお昼ご飯食べるから気にしないで』


 お昼時になったので、時さんに断りを入れてAFKモードに入った僕は、いつも通りみたきちゃんのパンを食べに行く。


「きょうはがっこうでなにしたの?」

「つららを投げて、敵を倒したよ」

「ゆきがっせんしたの?」

「狩りかな」

「???」


 パーティーを組んで効率的に狩りが出来たのが印象に残ったのか、学校の話題なのにみたきちゃんにネットゲームの話をする僕。何をやっているんだか。

 お昼ご飯を食べ終えた僕は、再び家に戻ってパソコンの前に座る。


『今戻ったよ時さん』

『やあ高下中君。それじゃあまた狩りに付き合ってもらおうかな』


 AFK状態を解除して時さんにウィスパーをすると、時さんがそう返す。


『うん……え?』


 ……今、時さんなんて言った? 高下中君?

 困惑のエモーションを浮かべていると、時さんは笑いのエモーションを浮かべる。


『あはは、ごめんごめん。どうせ君のID、本名を英語にしたものなんだろうなと思ってね、高下中で検索かけたら、小学校4年生の時に読書感想文で銀賞になった記事が出て来たよ。しかも君のプロフィールの住んでいる地区と一致している、違うかな?』

『……おっしゃる通りで』

『あんまりネットで個人情報晒すような真似はしない方がいいと思うな、今だって問題になってるじゃない。まあ、君が何にも悪い事していないなら問題ないかもしれないけどさ、世の中には悪い事してなくても、晒されてしまうケースだってあるんだよ? 大体君、BOT業者として晒されてるじゃない』


 注意されて赤石さんの事を思いだす。

 赤石さんが一体何をしたって言うんだろうか。

 醜い顔は、存在するだけで悪だとでも言うのか。

 身近な問題なのに、僕自身どこか他人事に感じていたようだ。

 英語のIDを使って、わざわざ一部を訳した中なんて名乗っていれば、

 時さんみたいに勘付く人間がいたっておかしくないだろう。

 自分の名前を検索したことは無かったが、まさかみたきちゃんに出会う前の、何気なく書いた読書感想文が入賞した出来事が出てくるとは。

 今すぐこのIDを消してやり直したい気分に駆られる。


『ま、私は別にどうこうしようなんて思ってないし、少し大袈裟に言いすぎたよ。ただまあ、君自身には興味が湧いた。住んでるところも近いみたいだしね。年齢から計算すると、君はこの間中学校を卒業した、違うかい?』

『……そうだよ』

『つまり君は中卒か、あるいは高校生だけど学校に行っていないことになる。私の勘では高校生の不登校だね、当たってる?』

『そうだね』

『ああ、ごめんごめん。別に挑発しているわけじゃないから不機嫌になったなら謝るよ。実は私も君と同じく、高校一年生の引きこもりなんだ。意外と現実ですれ違ったりしていたかもしれないね』


 時さんもそうだったのか。どことなく物悲しいIDから、何となくそんな気はしていたけど同い年で、しかも同じ地区だなんて。


『さて、こんな話を続けるのもアレだから、狩りを続けようか。頼りにしてるよ、中君』

『うん』


 午前と同じく時さんと狩りを続ける。

 狩りの途中に会話はないけど、何となく画面の向こうの時さんをイメージする。

 僕のように、一人部屋に引きこもってネットゲームをして。

 何で時さんが引きこもっているのか興味は湧いたが、今日知り合ったばかりなのにそんな事を聞くのは失礼だし、きっとそれはブーメランになる。

 ただ、時さんはきっと優しい人なんだろうなと、イメージを膨らませる。

 そうでなきゃ僕に個人情報云々の忠告なんてしないだろう。

 自ら悪役を買って、僕に危機感を持たせてくれたのだ。



【ふぇにっくすの髪飾りを落としました!】

 絶滅させる勢いでマグマのモンスターを狩っていると、システムがレアドロップを告げる。


『やっと手に入ったよ。ありがとう中君、これお礼ね』


 それを拾い、早速装備した時さんは僕にポーションやらお金やらを渡してくる。


『別にいいよ、経験値たっぷり稼がせて貰ったし』

『まあ貰っておいてよ、君の本名とかを知っちゃった詫びってことでさ』

『それじゃあ遠慮なく。それにしても、そんなに欲しかったの? その髪飾り』


 時さんの頭につけられた、デフォルメされた不死鳥の髪飾り。

 確かに似合っているかもしれないが、装備したって何の効果もない。完全なアバターアイテムだ。


『そりゃ女の子ですから。君もネットの世界くらい、カッコいい姿にすればいいのに』

『……』

『あ、ごめんごめん。人間顔じゃないよね』


 申し訳なさそうなエモーションを浮かべる時さん。

 利用者のほとんどはカッコいい、可愛いアバター、もしくは受けに走ったシュールなアバター。

 だけど僕は心の汚さをそのまま表したような、醜いアバター。

 時さんは僕の事を、顔が醜くて苛めにあって、不登校になった人間だとイメージしただろうか。


『それじゃあ私はそろそろ落ちるよ。あ、そうだ。フレンド登録しない? 近くに住んでるみたいだし、年も同じだしさ』

『……うん、わかったよ』

『ありがと、それじゃね!』


 彼女とフレンド登録をし、ログアウトする彼女を見送る。

 こちらを挑発するような皮肉屋っぽい彼女ではあったが、彼女の誘いを断る理由は僕には無かった。

 だって彼女も僕と同じなのだから。

 彼女がどうして引きこもっているのかはわからないけど、きっとそのうち話してくれるだろう。

 そして僕も彼女に話すのだろう。

 パーティーを組んで効率的な狩りができたように、引きこもりがお互いに慰め合って、いつかお互い一歩を踏み出すことができるんじゃないか、僕はそんな事を期待していた。

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