僕とBOTな彼女
「そういえばあたるくん、あるばいとはしないの?」
「アルバイト?」
「うん、こうこうせいってあるばいとするひとがおおいんだって」
「へえ……それじゃ、またお昼に」
「はーい!」
今日もみたきちゃんをワークハウスまで送り届けて家に帰る。
バイトどころか、学校だって行けやしない。
ネットゲームをする前によく見ている掲示板を見る。
どうも昔赤石さんの写真を晒した不届きものが調子に乗りすぎたらしく、個人情報がばれてネットいじめにあっているようだ。
自業自得だ、いい気味だ……と、ネチズンがそいつを袋叩きにする様を見ていたが、段々と気分が悪くなる。
『お前らやめろよ、集団で寄ってたかって情けないと思わないのか?』
気づけばそんな風に、被害者を擁護していた。
被害者? 加害者じゃないか。赤石さんがどれだけ傷ついたと思っているんだ。
なのにどうして僕はそんな人間を擁護しているんだろうか。
『お前こいつがやったこと知らないからそんな事言えるんだろ』
自称正義の断罪者は僕に反論するかのように、そいつがやってきたことを列挙する。
赤石さんの写真を晒す以外にも、色々やってきたようだ。
『だからと言って、お前らがそんな事をしていい理由にはならない。お前らはただ叩きたいだけだ、正義の心なんて持ってない』
それでも僕は擁護する。本能的に、弱者の味方をするようになっているのかもしれない。
それとも、こうすることで自分は綺麗な人間だと主張したいのだろうか?
『レス乞食乙。それとも本人か?wwwwwwww』
連中は僕にそう吐き捨てると、被害者のネガティブキャンペーンをしだす
僕が間違っているのだろうか。何とも言えない不快感に支配され、ネットゲームをする事なく苛々しながらベッドに潜る。
平日のこんな時間に、掲示板に粘着しているような人間は社会的弱者も多いのだろう。
赤石さんの言うとおり、弱い人間は心が綺麗だなんて、幻想なのだろうか。
「みたきちゃんと一緒にいると、心が洗われるような気がするよ。気がするだけで、僕の心は醜いままなんだけどね」
「? あたるくんはきれいなひとだよ?」
「駄目なんだよ、僕の行動に大義なんてない。僕はただ邪な心でみたきちゃんを手なずけて、聖者になったつもりで赤石さんを救おうとして投げ出した。結局僕は無力だよ。今日だって、脊髄反射にいじめをやめさせようとしたけど、何の意味もない」
「???」
お昼にみたきちゃんの作ったパンを食べて、みたきちゃんを連れて帰って、部屋でみたきちゃんに依存する。
僕の言っていることなんてみたきちゃんはほとんど理解できていないだろう、けどそれでいい。
一方的に心の中のものをみたきちゃんにぶちまけているだけ。
みたきちゃんは僕のストレス発散の道具か何かか?
翌日。僕は昨日見ていた、ネットいじめが起こっている掲示板を見ないことにした。
弱い者が更に弱い者をいじめる光景を見たら、僕は発狂してしまいそうだったから。
結局はただの傍観者。自称正義の味方の傍観者。
自分の心に素直になって、僕も赤石さんの敵討ちをするべきなのかもしれないけれど、そうすればもう二度と人間に戻れないような気がした。
嫌な事から全て逃げ出すように狩りに集中するが、段々と一人では効率が悪くなってくる。
『あの、よかったらPT組みませんか?』
狩場でモンスターと戦っていると、3人組のPTに声をかけられる。
戦士にアーチャーに僧侶……なるほど、魔術師の僕がいれば効率はぐっとあがることだろう。
『断る』
だけど僕はそう言って彼等(彼女達?)の誘いを断る。
どうしても駄目なんだ、顔が見えなくても、いや、顔が見えないからこそ。
下心なんてないに決まっている、少なくともネットゲームの世界では単純に僕の力を求めていたのだ。
けれど、プレイヤーが掲示板でネットいじめをしているような人間なんじゃないかと思うと、どうしても僕は拒絶してしまう。
自分でもどうすればいいのかわからず、途方に暮れながら黙々と効率の悪い狩りをしていると、とあるPCが目につく。
デフォルトの容姿に、002123という名前の女戦士。
敵を見つけては休む暇もなく攻撃をする彼を見て、これはBOTだなと確信する。
BOT。マクロ等で決められた動作をし、自動でアイテムを集めたりするプレイヤー。
BOTを何十人も使ってアイテムやお金を集め、それを現金で売りつける、いわばRMT業者が彼女を操っているのだろう。
何だか可哀想な存在だ、僕のキャラはパソコンの前に僕が座って操作しているけど、彼女のキャラを操るパソコンの前には誰もいないのだろう。
いくら優秀なマクロを組んでいたとしても、やはり戦士一人では効率が悪いようだ。
気づけば僕は、PTを組んでいないのに、彼女のアシストをしていた。
補助魔法を彼女にかけて、回復アイテムを彼女に与えて、一体僕は何をやっているのだろうか。
彼女に同情してしまったのかもしれない。プレイヤーすらいない彼女は、まさに電子の海を彷徨う孤独な亡霊。一般のプレイヤーからは嫌われ、業者には利用される可哀想な存在。
まるでストーカーにでもなったかのように、僕はその女戦士と行動を共にする。
勿論BOTなので、アシストをしようが付きまとおうが、反応なんて返さない。
決められたマクロの通りに敵を攻撃するだけだ。
それでもいいんだ、それでも。人間よりも、彼女と行動した方が僕は気が楽だ。
『ちょっと、BOTのアシストするのやめて貰えませんか?』
そうしていると、先ほど僕に声をかけたPTがやってきて僕を非難する。
基本的にBOTは嫌われる存在だ。他人の獲物を平気で横取りするし、集団でやってきて同じ場所にいる人間に負荷をかける場合だってある。
『僕は彼女とPTを組んでいるんです』
僕はそう言いかえす。あながち間違っているわけじゃない。
本当にPTを組んでいるわけではないので、経験値が分散されたりはしないし、アイテムはとどめを刺した人間しか拾うことはできない。
でもモンスターに与えたダメージの分量でPTに関係なく経験値が貰えるので、
彼女に盾になってもらって魔法で攻撃をすれば僕にだって経験値は貰えるし、アイテムだってとどめを刺せば入手できる。
逆にBOTを利用することだってできるのだ。
勿論BOTは人間じゃないから、そんなことをしても文句は言わないしね。
『あなた業者ですか? ネットゲームを金儲けのために使うなんて最低ですね』
どうやら僕が彼女のようなBOTを操作している人間だと思われたらしい。
彼等は怒りの吹き出しを表示させてどこかへ去って行ってしまった。
気にするものかと僕は彼女と狩りを続ける。
それから数日、僕は彼女と行動を共にする。
BOTの彼女は常にログイン状態だし、同じ場所にいるから見つけやすい。
情報でも調べるかと、このネットゲームに関する掲示板を探すと、
なんと僕のIDがBOT業者として晒されていた。
彼女と一緒に行動しただけで業者認定だなんて、何て心が狭いのだろうか。
結局あいつらも難癖つけて叩きたいだけなんだろう。PT組まなくてよかった。
けれど、ある日彼女は姿を見せなくなってしまった。
いつもの場所で、狩りをしているはずなのに。
多分、アカウントを消されたのだろう。BOTは基本的には認められていない。
業者のために24時間体制で働いて、最後には存在を消されてしまった彼女に黙祷を捧げる。
僕はまたネットゲームで一人ぼっちなんだなと、再び一人で狩りを続けていると、
一人の女性PCが目につく。
明らかにBOTの動きではないし、‡時の止まった少女‡だなんて人間がつけたに違いないネーミングセンスだ。
でもそのID名に、物悲しい何かを僕は感じ取った。
しかも彼女、僕と同じ地域に住んでいるらしい。プロフィールの欄から、住んでいる地域がわかるのがこのゲームの特徴だ。個人情報を晒すのは嫌だと表示しない人間もいるが。
平日の昼間に黙々と一人で狩りをする女性PC。
『あの、PT組みませんか?』
僕は気づけば彼女に、そう声をかけていた。




