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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
中学校3年(後) 壊れる僕と赤石さん(メンヘラ)
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砕けたけれどダイヤはダイヤ

 赤石さんのいないまま卒業式を終えて、僕は中学を卒業した。

 貰った卒業文集の中身を開くこともできず、途中のコンビニのゴミ箱に入れる。



 そしてすぐに高校の合格発表日。

 みたきちゃんと一緒に行く気分でなかった僕は、一人で高校まで向かう。

 合格者の欄に、自分の受験番号はあった。


「よう高下! どうだった? なーんてな、お前の受験番号は俺の1つ次だから結果はもう知ってるんだけどな、合格おめでとう!」

「おめでとう高下君。これからよろしくね」


 後ろから肩を叩かれる。振り向くと、嬉しそうな煉獄君と郡山さんの姿があった。


「……二人とも、合格おめでとう」

「何だよ折角志望校に受かったってのに、緊張の糸がほぐれてうまく喋れないのか? そうそう、塾の同じクラスにいた、氷雨をいじめてた女共いただろ、あいつら両方落ちたんだぜ、ざまあねえな、ははっ!」

「もう、こんな時に……それより高下君、これからカラオケにでも行かない? 打ち上げってことで。彼女さんも誘ってさ」


 とても幸せそうな二人。この二人の幸せには、僕もある程度絡んでいると言っていいだろう。

 僕は少なくとも、この二人を幸せにできたんだ。救えたんだ。

 でも、赤石さんは。



「ごめん、僕今から病院に行かないといけないから」

「? そうか、それならしょうがねえな。風邪か? 確かに具合悪そうだ、気をつけろよ」

「それじゃまた、入学式で」


 二人と別れた僕は、そのままこの辺りじゃ一番大きな総合病院へ向かう。

 その目的は……







「やあ高下君。そんなに毎日お見舞いしなくても、私はこの通り元気だよ」

「赤石さん、調子はどう?」


 入院患者のいる病棟の部屋の1つに僕が入ると、赤石さんが片手で本を読みながら元気そうに語りかけてくる。

 赤石さんは、死ななかった。

 飛び降りで確実に死ぬためには、赤石さんの飛び降りた三階建ての学校の屋上からの高さの2倍くらい必要らしい。どうでもいい知識だが。

 地面に足から激突した彼女は両足と左手を複雑骨折、その他にも色々怪我して半年くらいは入院生活を送る必要があるらしい。だから今彼女は右手くらいしか満足に動かすことができず、難しそうに片手で本を読んでいるというわけだ。


「それより気になってたんだけど……赤石さん、元気になったね。ひょっとして、無理してる?」


 ここ何日かお見舞いをしていたが、赤石さんはこの間までとは全然違う、それなりに明るい人間になっていた。


「ああ、そうだね。いや、恥ずかしい話、飛び降りた時は本気で死ぬつもりだったんだけどね、激突して激痛が走った時に手のひら返して、『生きたい』って思うようになってさ。まあ、相変わらず顔は醜いし、他の身体も怪我だらけでフランケンみたいなことになってるけどさ、今もこうして片手で本は読めるでしょ。だからまあつまるところ、やっぱり作家目指すよ。この辛い経験とかも活かして、エッセイとかもいいよね。勿論そんな簡単にはいかないだろうけど、作家になるためなら保険金だって障害者年金だって生活保護だってがめつく狙うよ。まあ、それくらい今の私はアグレッシブだね。ひょっとして頭を打ったから?」

「そっか」


 塞翁が馬とは言うけれど、今の赤石さんは本当にもう大丈夫な気がする。

 むしろ大丈夫じゃないのは、


「それより私の事なんてどうでもいいよ。高下君、物凄く暗くなったね。この間までの私みたい。……やっぱり、私のせいだよね?」

「違うよ。全部僕のせいだ」


 僕の方なのかもしれない。あの日以来、僕は明らかにおかしくなっている。

 周りの人間が僕を見る度こうやって心配するのだ。

 事情を知っている人間なら、目の前で女の子に飛び降り自殺を図られたのだから陰鬱な気分になっても仕方がないと思うかもしれないが、多分原因は別のところにある。


「……ねえ、私飛び降りる前に高下君のこと散々否定したけどさ、あれ嘘。私がこうして生きようって思えているのもね、高下君が親身に私に付き合ってくれたからなんだよ。高下君は私を救ってくれたんだよ。高下君は間違ってないんだよ。だから、そんな顔はやめてよ」

「……今日はそろそろ帰るよ。また来るね」


 お見舞い品として赤石さんの好きそうな小説を何冊か置き、病室を出る。



「……ああ、私のせいで、高下君壊れちゃったのかな。私を救ってくれた引き替えに。私ね、中学一年の時、高下君に自分を変えてもらった時から高下君の事好きだったんだよ。でも、もう彼女いたからって諦めてたけどね。……何言ってるんだろうね、私、一人部屋の中で。……大丈夫だよね、高下君はきっとまた元気になるよね。私、信じてるからね」


 病室を出て看護師に赤石さんの容態について少し話をしている間、病室から何かひとり言が聞こえてきたが、よく聞きとる事は出来なかった。



 病院から帰った僕は、みたきちゃんを自分の部屋に招く。


「あたるくん、ごうかくおめでとう!」

「ありがとうみたきちゃん」


 ベッドに座っている僕にみたきちゃんが飛びかかって抱きついてくる。

 みたきちゃんを膝に乗せて頭を撫でる。


「こうこうせい、いいなあこうこうせい。わたしも、ぱんやさんになるんだよ!」

「毎日買いに行くよ。……僕は高校生になれないかもしれない」

「? どうして? おじゅけんうかったんでしょ?」

「僕は本当に壊れてしまったのかもしれない。成長を止めてしまったのかもしれない。だから高校生にはなれないかもしれない」

「? よくわかんない、ねえねえそれよりおいしゃさんごっこしよう!」


 そう言うとみたきちゃんは自分から服を脱ぎ始める。小学校の頃は単なる添い寝にしか過ぎなかった僕達のお医者さんごっこは、下着姿で抱き合うレベルにまではエスカレートしていた。

 僕はみたきちゃんをベッドに寝かせて抱きしめる。


「うう、僕は、僕は」

「? あたるくんどうしたの? なんでないてるの?」


 気づけば僕は泣いていたようで、みたきちゃんに心配されてしまう。


「僕はどうしようもなく汚れた人間なんだよ。みたきちゃんの近くにいる事すら、きっと許されないんだ。僕はね、周りの人間に絶望していた。でも本当に絶望したのは、自分自身」

「よくわからないけど、よしよし」


 壊れるほどにみたきちゃんを抱きしめるが、みたきちゃんは壊れることなく僕の頭を撫でる。

 この日の僕は半狂乱しながらみたきちゃんを求めた。



 こうして僕の中学校生活は終わりを迎えた。

 中学校一年では、赤石さんと出会った。

 自分に全く自信のない赤石さんに、自信を持たせることに成功した。

 それからの赤石さんは、本当に幸せそうだった。



 中学校二年では、クラスで浮いていた六月六日さんと出会った。

 彼女をクラスに馴染ませるために、彼女の個性を否定することができなかった僕は、彼女を皆に肯定させようとした。そうすることで、自分自身やみたきちゃんも肯定させることにつながると思って。

 結果的に六月六日さんは転校してしまったが、最後に彼女は良い思い出を作れたようだ。

 ……そういえば転校してしばらくは六月六日さんともメールを続けていたけど、いつのまにかしなくなっていた。久々にメールを送って近況を知りたいけど、何だか気まずいなあ。



 中学校三年では、塾で煉獄君と郡山さんに出会った。

 素直になれない煉獄君は、あろうことか好きな相手をいじめようとして、

 それから守っていたら郡山さんに告白されて。

 郡山さんの心の傷を癒そうと恋人もどきをしていたら、煉獄君がそれを見てやっと自分の恋心に気づいて。

 最終的には二人が結ばれて、本当に良かったよ。二人とも合格おめでとう。



 そして、赤石さんは体も心も傷を負って、また自分に自信を失ってしまった。

 けれどもう僕の力では、赤石さんに自信を持たせることなんてできなかった。

 だから代わりに、赤石さんの心の支えになろうとした。みたきちゃんと二股をかけた。

 でも、そんな生半可な気持ちで恋愛をするなんて、やってはだめだったんだ。

 結果的に赤石さんは元気になったかもしれないけれど、取り返しのつかないことをしてしまった。




 彼女達のような社会的な弱者に触れあうことで、周りの人間の汚い部分が見えてくる。

 だから僕は周りに絶望していた。

 みたきちゃんを腫物扱いし、赤石さんを笑い、六月六日さんを否定し、郡山さんをいじめる周りの人間に。

 でも、結局のところ、僕も周りの人間と何ら変わりは無かったんだ。

 薄々は自分もそう思ってはいた。けれど認めるのが嫌で、みたきちゃんのような女の子に優しくすることでそれを必死に否定しようとした。

 けれど、駄目だった。

 偉そうな事を言っておいて、赤石さんと向き合うことができなかったんだから。

 僕が愛しているのは、みたきちゃんの純粋な心ではなく、みたきちゃんの僕好みの見た目なのかもしれない。

 つまるところ、僕は自分自身に絶望しきってしまった。それも壊れるほどに。

 自分自身に絶望した僕の高校生活が、こうして幕を開けようとしていた。

中学校編完結

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