ぼくのなつやすみ
楽しい夏休みが始まった。しばらくはみたきちゃん係の仕事もお休みだ。
僕は夏休みの宿題は速攻で終わらせるタイプであり、7月中にほとんどを終えて満足。
そして僕は母親の実家、つまりはおばあちゃんとおじいちゃんの家に行く事になった。
帰省、というやつだ。
僕は帰省する前にみたきちゃんの家によってみた。
彼女の母親とは非常に関係がよろしくないので家に入れず、
家の敷地内に入り込み、外の窓から彼女の部屋をのぞく。
「うわっ!」
驚いて声を出してしまう。何故なら彼女はパンツ1丁だった。まずい、これは完全に犯罪行為だ。
以前彼女をトイレに行かせてパンツを脱がせた時には何も感じなかったが、
今はなんだかすごくドキドキしてしまう。
声に気づいてしまったのか幼児向けのアニメを見ていた彼女がこちらにやってきて窓を開ける。
窓を開けることもできるのか、もう僕達とあまり変わらないんじゃないかな、実は。
「あ! あそびにきたお?」
「え、えと、いや、ちょっと僕しばらく旅行にいくんだ」
なるべく彼女の姿を見ないように僕はきょどりながら会話する。
「りょこー? はあい? はあいいくの?」
ハワイだろうか。旅行といえばハワイなのか彼女の中では。
「ハワイじゃないよ。とにかく、お土産買ってくるよ。それと、ここの窓結構外からも見えちゃうから、服は着た方がいいよ!」
僕の忠告を彼女が理解できるのかわからないが、僕はその場から逃げるように立ち去った。
父親の操縦する車に揺られて約2時間、母親の実家のある町へ到着。
帰省した僕を早速おばあちゃんとおじいちゃんが出迎えてくれる。
「あらあら、中ちゃん大きくなったわねえ」
「おお、大きくなったな、ほれ、お小遣いをあげよう」
去年同じように帰ってきたときから僕の身長は全く伸びていないのだが、この人達は何を言っているんだ。
「あーあーあーあーあーあーあー!」
「うぎゃああああ!」
突然、家の外から謎の奇声が聞こえた。
「まったく折角可愛い子供と孫がやってきたというのに、あそこの子達は静かにしてくれないのかしら」
おばあちゃんが苛立ち始める。
「何かあるんですか?」
僕がおばあちゃんに尋ねると、
「近所にその、ワークハウス? 名前はよくわからないけど、なんていうか頭のおかしい人を集めたところがあるのよ。私達建設する時に反対したんだけど、結局建っちゃって。本当にもう怖くて怖くて気が気でないわ」
その晩、両親とおばあちゃん、おじいちゃんはお酒を飲んで楽しそうに喋りだす。
お酒臭くて僕は離れた部屋でテレビを見ていたが、実に声がうるさい。
人のふり見て我がふり直せ。近隣住民からはそのワークハウスとやらの人と同じくらいうるさがられているのだろうか。
翌日の昼、僕はその辺をぶらついてきますと言って家を出る。
そして向かったのはそのワークハウスとやらだ。
「いあっしゃいませ!」
施設の中に入ると、まず一人の男性が挨拶をしてくる。
どうやら、入ってすぐはパン屋のスペースのようだ。
施設のパンフレットがあったのでそれを読んでみる。
どうやらここはみたきちゃんのような人を集めて、障害の度合いにもよるが単純な作業や簡単な会話、日常生活ができるように訓練する場所らしい。
そしてその訓練の成果として、パンを作らせて売っているそうだ。
僕は職員の人にお願いして、施設の中を見学させてもらうことに。
まずはパンを作っているところを見ることに。
大体20代くらいの人達が、壁に貼られたマニュアルを見ながら流れ作業でパンを作っていく。
手袋などきちんと清潔な道具を使っているし、よだれなんて入らないだろう。
続いてみたきちゃんくらいの子が訓練や学習をしている所へ。
「あー……あー……あー……」
「わたしはがんまです! わたしはがんまです!」
最初に見たみたきちゃんのようにうめいてる人や、ただただ自己紹介をする人。
簡単な算数の問題を解いている人や、綺麗に自分の名前を漢字で書く人もいた。
その後も色々見て回って、夕方になったのでそろそろ戻らないと親が心配しているだろう。
「ぱんかってください!」
帰るために施設からパン屋のスペースへ戻ると、最初にここへ入った時にいた店員がパンを買ってくださいと勧めてくる。
僕はショーケースを見た。あんぱん、メロンパン、カレーパン…どれも美味しそうだ。
買うわけないだろ気持ちが悪い。
今日ここの施設にきて、僕も周りの人間の気持ちが少し理解できた。
気持ちが悪いんだよ連中。多分筋肉をうまく使えていないからだろうけど、顔は変な形が多かったし、なんというか顔が同じようにしか見えない人も結構いた。不気味だ。
いくらパンを作っている工程を見て清潔だなって理解できても何が入ってるかわかったもんじゃない。
僕がみたきちゃんをそれほど気持ち悪がらないのは、比較的整った顔立ちで僕の好みだったのと、孤独だったから。ただそれだけだろう。
ここの連中は孤独でもなんでもない。障害者同士慣れあっているし職員にも指導されている。
たったそれだけの違いで僕は見下していた周りの人間と同じに成り下がってしまう。そんな自分が嫌になる。
僕はおばあちゃんとおじいちゃんの家に戻ると、トイレに行って胃の中の物を全てぶちまける。
吐き過ぎて胃液も出てきた。みたきちゃんのよだれなんかよりももっと気持ち悪いおぞましいもの。
数日後、帰省も終えて再び僕達の住む町へ。
買ってきたも●じまんじゅうを手に、みたきちゃんの家に向かい、この間と同じように外の窓から部屋を見る。今日はちゃんと服を着ていた。
コンコン、と窓を叩くと気づいたみたきちゃんがやってきて窓を開ける。
「みたきちゃん、これ、お土産。袋を食べないようにあらかじめ僕がはがしておいたけど、お節介だったかな」
「ありがと!」
も●じまんじゅうを手渡されてみたきちゃんは満面の笑みを僕に向ける。
そんな顔で僕を見ないでくれ。
僕はみたきちゃんの顔があそこの連中と同じような感じだったら、もしくはみたきちゃんに友達がいたら、周りの人間のようにみたきちゃんを気持ち悪がるんだ。
だけど、くだらないエゴかもしれないけど、それでもみたきちゃんだけはこれまで通り接しようと思う。自分でも自分が何を考えているのかよくわからないや。