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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
中学校3年(後) 壊れる僕と赤石さん(メンヘラ)
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ダイヤモンドは砕けた

「あ……ああ……」


 パソコンの前でガタガタと震える僕。

 赤石さんが、晒し者になっている。

 赤石さんの言っている事は、被害妄想なんかじゃなかった。

 周りの人間に笑われて怖がられて、写真を撮られてこうして晒されて。


『ふざけんな、さっさと消せ!』


 気づけば僕はそのスレッドにそのようなレスを書きこむ。

 大半の人は赤石さんを晒した人間を責めていたが、心から責めているのは果たして何人いるのだろうか。

 インターネットでは周りの人間に合わせて悪を叩けど、現実でもそうである人間が、果たして何人いるのだろうか。

 少なくとも、今ここで僕と一緒に晒しを責める人間の何割かは、赤石さんと遊びに行った時に彼女を笑った人間なのだろうと考えてしまう。

 まるで荒らしのように、ムキになって何度も何度もレスをする。

 放っておけばいいものを、そうすることで結果的に勢いづいて人が集まってしまう。


『偽善者乙。どうせお前現実ではこの子見てゲラゲラ馬鹿にしてんだろ?』


 そのうち僕のレスにそんなアンカーがつけられる。

 違う、僕は赤石さんを馬鹿になんかしていない。

 他の人間とは違う、僕は赤石さんを馬鹿になんてしていないし、

 赤石さんを怖がったり、気持ち悪がったりすることだって、だって……


「ああああああああっ!」


 気分が悪くなり、ブラウザの掲示板のタブを消す。

 僕は赤石さんの支えになってるんだ、ならないといけないんだ、そうじゃないと赤石さんは壊れてしまう。

 気分転換にアニメでも見ようと、視聴者がコメントを残す事の出来る動画サイトへ。

 丁度そこではアニメ絵で可愛らしくデフォルメされた、孤独な女の子が暴走しては失敗するアニメをやっていた。

『可愛い』『結婚したい』とヒロインにコメントがつくのを見て、またも気分が悪くなる。

 現実ではヒロインのような女の子を、お前らは笑ってきたくせに。ブサイクだと馬鹿にしてきたくせに。

 僕は、僕は違う、この女の子が現実にいたとして、可愛らしくデフォルメされていなかったとして、僕は、僕は、きちんと接することが……

 吐き気を堪えながら、ふらふらとベッドに横たわる。

 夢の中で、そのアニメのヒロインが僕を責めたてた。

『お前は偽善者だ。責任なんてとれない、面倒なんて見れない、なのに軽い気持ちで救世主ぶる偽善者だ。期待させておいて、結局は突き落す、余計性質が悪いね』

『違う、僕は』

『違わない。違わないよ、高下君』

 夢の中のヒロインに反論すると、ヒロインの姿は赤石さんの姿になり、この世の元とは思えない、不気味な笑みを僕に浮かべる。恐怖を感じたところで僕は目が覚めた。




「……僕はみたきちゃんの支えに、なれてるよね?」

「? あたるくんといっしょだとたのしいよ!」

「うん、でもみたきちゃんは大丈夫でも、僕は赤石さんのことを……彼女に優しい声をかけることすら、僕には許されていなかったんじゃないかって思って」

「? げんきだして、もうすぐおじゅけんでしょ?」

「うん、僕は元気だよ、僕が元気じゃないと駄目なんだ……」


 みたきちゃんとふらふらと一緒に登校しながら、途中でみたきちゃんと別れて、ふらふらと学校へ。


「……おはよう」

「……おはよう」


 教室につき自分の席に座っていると、赤石さんが教室に入って、ふらふらと僕の席の辺りまで歩いて挨拶をする。

 赤石さんは、知っているのだろうか。自分がインターネットで晒されてしまったことを。

 一度インターネットで晒されてしまえば、未来永劫残ってしまう。拡散されてしまう。

 この日は特に、学校に来ている人間は少ない。

 来ているのは学校でなければ勉強が捗らない人間や、真面目すぎて学校を休めない僕のような人間、赤石さんのように、人の温もりを求める人間。

 日ごとに減って行く教室の人間を見ると、どんどん赤石さんが孤独になっていくような気がした。

 けれど僕は、赤石さんに話しかけることがそれ以上できなかった。

 何を喋ればいい、どうすれば彼女を傷つけずにすむ、それがわからなかった。


「……」

「……」


 お昼ご飯、言葉をかわす事無く自然と二人屋上に行ってご飯を食べる。

 一時期はカップルだらけだった屋上も、今日は誰もいない。

 僕の方を向くことなく、明後日の方向を見ながらお弁当を食べる赤石さん。

 僕は彼女を痛々しい目で見ながら自分のお弁当を食べることしかできない。



「……」

「……」


 放課後になって、部室へ向かっても僕達は無言。

 本を読むでもなく、勉強をするでもなく、赤石さんは本当にゾンビにでもなってしまったかのようにぽけーっと口を半開きにして、虚ろな目で上を見上げる。

 僕はそんな赤石さんを直視することができずにうつむく。



「ねえ、私の写真、ネットで晒されてたんだ。知ってた?」


 ふと、赤石さんが上を見上げたままうわ言のように呟く。

 前までの綺麗な声はどこへやら、今にも消えてしまいそうな声だった。


「うん。でも大丈夫だよ、大きな掲示板でもないし、そんなに広まらないよ」

「広まるとか、広まらないとかはどうでもいいんだよ。私の醜さが残ってしまった、っていうだけで、私はもう辛くて辛くてしょうがないんだよ」

「……」

「ねえ、私どうすればいいのかな?」

「……大丈夫だよ」

「何が大丈夫なの? 高下君に何がわかるの?」

「……」

「私もう帰るね。受験勉強に専念するから、しばらく学校休むよ。受験で会おうね」


 何も言えない僕に壊れた笑みを寄越して、バァン! と力強く扉を閉めて赤石さんは出て行く。

 僕は下校時刻まで、ずっとそのままうつむくことしかできなかった。



 その日から本当に赤石さんは学校に来なくなる。

 放課後に部室に行く必要も無くなったので、受験勉強をしながらみたきちゃんと遊ぶ。

 塾もないのでみたきちゃんと一緒に帰ろうと、ある放課後にみたきちゃんを迎えに行くと、みたきちゃんの手に包帯が巻かれていた。


「ど、どうしたのみたきちゃん!?」

「これ? ぱんつくってるときにちょっとやけどしちゃったの、でもすぐなおるからだいじょうぶだよって」

「……そっか、よかった、みたきちゃんの可愛い顔に傷でもついたらと思うと僕は」

「えへへ、わたしかわいい?」

「うん……みたきちゃんは可愛いよ」


 もしもみたきちゃんが、事故に遭って赤石さんのようになってしまったら、僕はこのままの関係を続けることができるのだろうか。

 想像するだけで恐ろしくなって、現実逃避するかのように空元気を出してみたきちゃんと遊ぶ。



 そしてとうとう、受験がやってきた。

 滑り止めの高校を2校程受けて、本命の本街高校の受験会場へ。


「おう高下。頑張ろうな」

「一緒に合格しようね。……誰か探してるの?」

「おはよう煉獄君、郡山さん。ちょっとね」


 受験会場で煉獄君と郡山さんに挨拶をしながら、赤石さんの姿を探す。

 けれどどこにもいない。言い方は悪いが、赤石さんが来ていれば軽く話題になるはずなのに。

 赤石さんは、受験に来なかったのだ。



「手応えばっちりだったぜ!」

「まあ、大丈夫でしょ、日ごろの成果は出たわ。高下君は?」

「うん、僕もかなり手応えあったよ」


 受験の後、煉獄君と郡山さんと近くのファミレスで話をしながら、赤石さんにメールを送る。

『赤石さん、高校受けるんじゃなかったの?』


「しっかし、面接は緊張したなあ。女の面接官だったんだけどな、まあ俺はイケメンだったから印象ばっちしだろ」

「勝手に言ってなさい」

「……」


 印象か。赤石さんが同じ高校を受験していたら、一体どれだけ面接で悪い印象を与えてしまうのだろうか。

 それを想像しただけで気分が悪くなってくる。



 受験も終わり、みたきちゃんと遊びながら、学校に行って卒業式に向けての準備をする。

 赤石さんは学校に来ない。卒業文集の寄せ書き、何て書こうか。

 あまり僕もクラスメイトに良い思い出はないしなあ、と陰鬱になっていると、携帯電話が震える。

『屋上に来て』という、赤石さんからのメールだった。





「赤石さ……!?」


 屋上へ向かうと、赤石さんがそこにいた。

 屋上のフェンスの向こう側、いつでも飛び降りることのできる位置に。


「やあ高下君。受験はどうだった? 受かりそう?」

「そんなことより赤石さん、危ないよ、早く中に戻って!」


 突風でも吹けば今すぐにでも落ちてしまいそうな位置で震えながらも、まるで何事もないかのように赤石さんは不気味な笑みを浮かべる。

 僕は赤石さんを引き戻すため彼女に近づくが、


「近づかないで。ねえ高下君、私もう駄目だよ。小説の才能も無かったみたいだし、こんな醜い姿じゃ日本では生きていけないよ。きっと私の写真は、これからも精神的ブラクラとしてネットの海をさまようんだろうね。醜い私は成仏できないんだろうね」


 赤石さんのこの世の全てを呪うかのような睨みに、足がすくんでしまう。


「大丈夫だよ赤石さん。僕がついてる、だから」

「何が大丈夫なの。もうそんな言葉聞き飽きたよ。私が学校に来なくなっても、高校を受験しなくても、メール一通しか送ってこなかった人が、何を言ってるの」

「……」


 赤石さんを安心させようと、落ち着かせようと宥めようとするが、赤石さんの言葉に押し黙ってしまう。

 彼女の言うとおりだ、彼女の家に行くなり電話をかけるなりするべきだったのに。


「高下君もね、心の底では面倒くさかったんだよ、きっと。だから申し訳程度にメール一通送って、それで満足しちゃったんだよ。これで中学も卒業、私と同じ高校に通うこともなく、やっと解放されるんだって」

「違う、僕は……」

「違わない。違わないよ、高下君」


 夢と同じセリフ。夢とは違って、もう赤石さんは笑ってすらいない。

 僕をまるで憎むべき敵かのように殺気を放ちながら睨んでいる。


「最初私言ったよね。二股でも何でもいいからって。例え高下君がボランティア感覚で私と付き合っていたとして、それでも十分なはずだった。大切なのは側に誰かがいてくれることだって、そう思ってた。でも、駄目だった。段々と本当に愛されたいって思うようになって。でも高下君は絶対に私には振り向かない、介護のような偽物の愛情しか振りまいてくれないって思うと、どんどん辛くなって。こんなことなら、一人だったらよかったよ。高下君のせいで、私余計に傷ついちゃった。高下君が善人ぶって、私を中途半端に弄ぶから」

「……」


 もう僕は、何も喋ることができない。

 それでも赤石さんを助けなきゃと、ゆっくりと、刺激させないように一歩ずつ赤石さんに向かっていく。


「私を助けて、どうしろって言うの? 私が本当に幸せになるまで、高下君が面倒見てくれるの? ねえ、だったら本命の彼女なんて捨てて私を選んでよ。あの子よりも、よっぽど私の方が不安定でしょ? 私を抱いてよ。醜い私を全部受け入れてよ」

「……」


 手を伸ばせば、赤石さんに触れることのできる距離に立つ。

 まじまじと、本当の赤石さんを見つめる。


「君の言葉も、君の行動も、結局私には届かなかった。私が拒絶していたから? 君が本気で私を気にかけてくれなかったから?」

「……、中に入ろうよ。今日は寒いでしょ、温かいコーヒーでも飲みながらさ。……僕も、今後どうすればいいかなんてわからないよ。だから、一緒に考えようよ」

「黙って!」


 フェンス越しに赤石さんに手を差し伸べるが、その手を赤石さんは払う。

 か弱い女の子の力のはずが、それだけで僕の身体は壊れそうになる。


「もう疲れた。もう我慢できない。ねえ高下君、高下君もね、皆と何ら変わらない人間だよ。高下君が心の底で見下している周りの人間と、何ら変わらない、汚い人間だよ。いや、それどころじゃない、中途半端に善人ぶって、知的障害者の女の子をペットみたいにいいように扱って、私のような哀れな少女を死なせて、周りよりもずっとずっと汚いね。その心に気づいてはいるけど認められないから、私みたいな女の子を助けることで自分を正当化しようとしてるんじゃないの? でも、その神話ももうおしまい。今のままじゃそのうち、本命の彼女だって高下君は取り返しのつかない程に傷つけてしまうよ」

「違う……僕は……僕は……」


 赤石さんを助けようとしているはずなのに、僕の方が助けが必要なのではと思うくらい、赤石さんの言葉が僕を壊す。膝をつき、四つん這いになりうなだれてしまう。


「喋るのも疲れた。ねえ高下君、私が死んだってニュースになったら、皆がどういう反応をするのか、私の代わりに見ておいてね。ばいばい」

「……!」


 一瞬、赤石さんの目から涙が流れたと思うと、赤石さんは後ろにジャンプした。

 学校の屋上から、飛び降りた。



「あ、ああ、ああああああああああああああっ!」


 僕は、僕は、飛び降りる赤石さんの手を掴もうと、この手を伸ばすことすらできなかった。

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