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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
中学校3年(後) 壊れる僕と赤石さん(メンヘラ)
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ヘルガの世界で生きれたら

 赤石さんは僕へと近づくと、その包帯を外した。


「……うっ」


 それを見た瞬間、僕は無意識に後ずさってしまう。


「ねえ、これが本当の私だよ。もう包帯外しても大丈夫だったんだけど、まだ包帯の方がましだよねって、ずっと隠してたんだけどさ。高下君が私を受け入れてくれるって言うなら、私も醜い自分と向き合ってみようかなって思ったんだけどさ。ねえ、ねえ、どう? こんな私を受け入れてくれるの? ねえ!」


 無意識に後ずさる僕とじりじりと詰め寄る赤石さん。

 包帯を外した赤石さんは、まるで昔のロボットアニメに出てきた顔が半分男で半分女の怪人。

 包帯で隠されていた部分は、見るも無残に焼けただれていて痛々しい。

 隠されていなかった、残り半分が綺麗な赤石さんのままだったのが、悲惨さを更に強調しているように思えた。


「あはは、まあ、わかってたんだよ。高下君がそういう反応しちゃうことくらい、予想できてたよ。でも、ちょっとは期待してたんだけどね。高下君は悪くない、さあ、授業に行こうよ」


 自分の顔を見られたくないのか、上を向いて薄ら笑いながら部室を出て教室に向かう赤石さん。

 僕は自分の対応の酷さを呪いながら彼女についていくしかなかった。



「ひいっ!」


 赤石さんが教室に入ると、まず一人の女子が悲鳴を挙げる。

 その他のクラスメイトも、赤石さんを直視できない。

 教師ですら。まるで赤石さんをいないものとして扱う、そんな午後の授業だった。




「ねえ、これが現実だよ。高下君は私を守ってくれるの? 私を受け入れてくれるの?」

「……当たり前じゃないか」

「ねえ、私の目を見て話してよ」

「……」


 授業を終えて部活動。本も読まずに僕の方を向いている赤石さんと、赤石さんから目を逸らしつつ適当な受け答えをすることしかできない。




「昨日家にアシダカグモが出てね、びっくりして殺しちゃったよ」

「おいおい、アシダカグモはゴキブリを食べてくれるいいやつじゃないか」

「そうは言っても、ゴキブリよりもアシダカグモの方がよっぽど不快だよ。ていうか人にアシダカグモ投げてきた人が言うセリフ?」

「ははは……」


 その日の塾、僕の前方で煉獄君と郡山さんがそんな会話をしていた。

 姿が気持ち悪いという理由で殺されてしまったアシダカグモが、赤石さんと被ってしまう。

 一瞬、僕の中で煉獄君と郡山さんが醜い何かに見えてしまった。



「あたるくん、かおいろわるいよ?」

「大丈夫、大丈夫だよ……みたきちゃんは今日も可愛いね」

「えへへ」


 翌日の朝、みたきちゃんと学校に行きながら僕はみたきちゃんの顔をまじまじと眺める。

 みたきちゃんは、可愛い。顔の筋肉を上手く使えない知的障害者特有の似通った顔ではない、この世の汚れとは無縁の、あどけなくて可愛らしい顔。スタイルだっていい。

 僕がみたきちゃんに惹かれたのは、純粋だったから? 顔が好みだったから?

 昔、実家の近くのワークハウスに行った時の、あの感情。

 中身もまるで動物、見た目も不気味な彼等を見た時の、あの感情。

 あの真っ黒な感情が僕を責める。


「ちがう、ぼくは、ぼくはそんな汚い人間じゃない、みたきちゃんにだって優しくしてるし、赤石さんにだって、赤石さんだって、あ、あああ」

「? どうしたのあたるくん」

「違う、違うんだよみたきちゃん。僕は僕は、あ、もう着いたね。それじゃねみたきちゃん」

「……? うん、ばいばい!」



 みたきちゃんの顔が何故か直視できず、養護学校の前まで来ると逃げ出すようにその場を去る。

 そして学校についても、


「おはよう高下君。受験も近づいてきたし、勉強に集中するために休んでる人も多いね。それとも休んでるのは私がいるからかな?」

「おはよう赤石さん。……やめなよ、自分を卑下するの」

「……私は周りに卑下されてない? 私が感じているのは、被害妄想なのかな?」

「……」


 昨日に引き続き包帯を外したままの、赤石さんの顔が直視できない。

 現在学校の授業範囲は終わり、受験対策に教師が授業で軽いテストを行っている状態だ。

 勉強に専念したい人間の中には、学校に行かずに家や塾で勉強している人間もいる。

 決して、赤石さんを見たくないから休んでるなんて、そんなわけじゃないんだ。




「ねえ、私はずっと包帯を巻くかして生きるべきなのかな」

「……それは」


 その日の昼休憩、赤石さんは大きな本で自分の顔を隠したり、隠さなかったりしながら僕に問いかけるが、僕はそれに答えることができない。


「見るだけで周りに不快な思いをさせるんだから、隠すべきなんだろうね。隠してれば、まだマシだと思うんだよ。でも、そうすると、自分から逃げているような気がしてさ。それに、高下君には、ありのままの私を受け入れて欲しいって思って。わがままなのかな?」

「わがままじゃない、と思う」


 自分の良い所も悪い所も、全て受け入れる。それが、本当の恋愛なのだろうと、僕は思う。

 けれど僕達の関係は恋愛ですらない。捨て猫に餌付けをして、満足しているだけなのだろう。


「ねえ、週末どこか遊びに行かない? 受験前の最期の気分転換にでもさ」

「……ごめん、週末は塾で模試があるから」

「ああ、うん、そうだよね。こんな私と一緒に遊びに行ったって、気分転換になるどころか、悪影響が出ちゃうよね」


 ははは、と乾いた笑いを出しながら、持っていた本を乱雑に投げ捨てる。

 赤石さんにとって、本は宝物なはずなのに。それくらい自暴自棄になっているのだ。


「違う! いいよ、遊びに行こう。模試なんか行かなくったって、どうにでもなる!」

「……本当に、いいの?」

「いいに決まってる」


 普段から勉強しているんだ、一回模試をサボったくらいで、大丈夫。

 それより赤石さんを放っておくわけにはいかないと、遊びの予定を取りつける。




「お待たせ、高下君」

「おはよう赤石さん、今日も服のセンスいいね」

「無用の長物だよ」


 週末、駅前で赤石さんと待ち合わせ。

 この日の赤石さんも、常に女の子の最先端を走ってきたことが窺える、非常にオシャレな格好だった。


「……ねえ、あそこにいるゴスロリの女の子見てよ。自分の事可愛いと思ってるのかな? 全然似合ってないのにね。……何で私はこんな服を着ているんだろう、全然似合っていないのにね」

「赤石さん、そんなことないよ、似合ってるよ」

「やめてよ、お世辞言われても辛いだけなんだから」


 赤石さんをどうにか元気づけようと、本屋に行ったりゲームセンターに行ったりと赤石さんを連れまわすが、


「ねえ、あそこの人、私見て笑ってるよね。あ、今写真撮られた、あはは、はは。あそこの子供泣いてるね、私の顔が怖いからかな」

「違う、笑ってなんかない。全部赤石さんの被害妄想なんだ」


 どんどん落ち込んでいく赤石さん。

 必死で僕は赤石さんは笑われてもないし怖がられてもないと否定する。

 赤石さんに否定しているのか、それを認めようとしている自分自身を否定しているのか。



「今日は楽しかったよ、それじゃ、次会う時は受験かな」

「……またね、赤石さん」


 数時間程赤石さんを連れて街で遊んだが、気分転換にはならなかったようだ。

 赤石さんと別れて家に帰り、自分の力の無さに苛立ちながら部屋でガンガンと地団駄を踏む。


「……受験勉強しなきゃ。ネットで過去問とかの傾向を見よう」


 気持ちを切り替えて受験勉強をしようと思い、ネットで過去問等の情報を調べる。

 2時間程して、休憩がてら地元について語る掲示板を適当に眺めていると、とあるスレッドが目についた。

 スレッドのタイトルは『街であ〇ら男爵見つけたwwwwww』というもので、

 本文には写真のURLが貼られていた。

『グロ画像貼るな』というレスや、『>>1最低だな』というレスや、『精神的ブラクラ』『こんな化け物でも恋人がいるというのにお前らは』というレスを見て、僕は嫌な予感がしながらも、そのURLをクリックせずにはいられなかった。



 ああ、やっぱり、そこには僕の横で虚ろな顔をしていた赤石さんの写真が貼ってあった。

ヘルガ……絵本『ヘルガの持参金』より。

ヘルガはトロールの女性で、結婚するためにお金を稼ぐも、最終的に金に擦り寄る男に見切りをつける。

トロールは通常醜い種族とされている。

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