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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
中学校3年(後) 壊れる僕と赤石さん(メンヘラ)
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怪物の姿を拒むフィオナ姫

「あっという間だったね冬休み。高下君のおかげで時間が経つのが随分早く感じるよ」

「それは何より」


 冬休みを終えて、再び学校が終わると部活と塾の日常に戻る。

 とある金曜日、部室で本を読む赤石さんと、受験の過去問を解く僕。

 小説のコンテストの結果が返ってくるのは、1週間後くらいだそうだ。


「ところで結局、赤石さんはどこの高校受けるの?」

「まあ、願書は何校か出したけど、受けないかもね。高校行ってやってける自信がないよ。家事手伝いしながら作家目指す、女の特権だね」


 受験の話をしようとしたが、赤石さんは本を読んだままこちらに顔を向けることなく自嘲気味に笑う。


「そんな事言わずにさ」


 今時中卒なんて流行らないし、作家だって人生経験が大事だろうと受験を勧める。

 赤石さんはふとこちらを真剣に見据えると、


「じゃあ、高下君と同じ高校に受かったら、高下君はこれまで通り付き合ってくれる?」


 そう僕に問いかけた。


「え」

「おかしい話じゃないでしょ、私頭はいいよ。一応願書は出してるんだ、もし高下君も私も受かったら、高下君は今の関係を続けてくれる?」

「……」


 言われて押し黙る。

 今の僕達の関係を、ずっと続けていいものなのか。

 二股をかけるような真似は中学を卒業するまでだと僕は思っていたけど、

 高校で赤石さんがうまくやっていけそうにないのも確か。

 僕の助けが必要なのも確か。


「も、勿論だよ」


 赤石さんを悲しませないように僕はそう答えたが、正直なところ自分でもどうすればいいのかわからない。

 赤石さんの言うとおり、高校に進学せずに家事を手伝いながら、作家を目指す方が余程合理的な人生にも思えてくる。


「ふうん。じゃ、高校受けてみようかな。なんだかんだ言って勉強はしてきたしね。そろそろ塾でしょ、行った方がいいんじゃないの?」

「え、あ、うん。それじゃまた来週、赤石さん」


 赤石さんに別れを告げて、学校を出て塾へ向かうが、将来の自分達について考え込んでしまい勉強に集中できない。


「煉獄君、将来って考えてる?」

「何だ高下急にそんな質問して。将来かあ、どうなんだろうな、数年後も氷雨と付き合ってんのかな」

「……普通恋人の前でそんな台詞吐く?」

「冗談だよ冗談。18になったら結婚しよう、頑張って養うから」

「……よくそんな事を恥ずかしげもなく言えるわね」


 バカップルっぷりを見せつける二人を眺めながら、僕は最終的に誰を選ぶのだろうかと考える。

 高校に受かって、みたきちゃんと赤石さんと二股をかけるような真似をしながら、その先は?

 大学に入っても、社会人になってもずっと一緒?

 いくら何でもそんなビジョンは僕には見えない。

 きっとどこかでどちらか、あるいは両方とは縁を切らなければならない。

 いつ切ればいい? 僕にはわからない。できるだけ先延ばしにすればいいのだろうか?



 週末に家にみたきちゃんを呼んで遊ぶ途中、みたきちゃんに将来について聞いてみることにした。


「みたきちゃん、みたきちゃんって将来考えてる?」

「しょうらい? よくわかんない」

「そっか。みたきちゃんはずっと僕と一緒にいたい?」

「うん! けっこんしたい!」

「結婚……か」


 みたきちゃんの将来はどうなるのだろう。

 一生施設で単純労働をしながら何十年も生きて、その辺のボケた老人のようになって死ぬのだろうか。

 知的障害者は寿命が短いと聞いたことがある。

 多分ダウン症のことを言っているのだろうけど、実際自分の身体の事を理解できないレベルまで知能に障害があるのなら病気になっても気づかないだろうし、医者の言う事も聞かないだろうし、寿命が短くてもおかしくは無い話かもしれない。

 人間は一人では生きられないが、特にみたきちゃんのような人間は誰かが介護していないと生きることができない。

 いつまでもみたきちゃんの両親が世話を焼くことはできない。

 僕がみたきちゃんと結ばれて、ずっと面倒を見るべきなのだろうか。

 赤石さんはどうなのだろうか。今の赤石さんは、みたきちゃんとは違った意味で誰かがいないと生きることができないように思える。

 僕以外に、赤石さんを幸せにしてくれる人間がいるのだろうか。

 いや、僕自身例え結ばれたとして、赤石さんを幸せにできるのか?


「駄目だ、わからない。みたきちゃん、お昼寝しよう」

「うん、あたるくんといっしょにねる!」


 みたきちゃんとベッドに入り、みたきちゃんを抱き寄せて現実逃避するかのように、幼児にでも戻ったかのように眠る。何の意味もないのに。



 悩みながら土日をまたいで平日になって学校に行って部活に行って塾に行って、

 ある日僕が家に帰ると、封筒が届いていた。

 それは先日出したコンテストの結果だった。

 ドキドキしながら自分の部屋でその封を切る。


「……うーん、残念」


 どうやら二次落ちのようだ。まあ、僕みたいな素人が一次を突破しただけでも十分か。

 評価シートに、僕の小説の評価等も書かれていたのでそれを読んでみる。

 書きなれていないのか文章力は低いが、ストーリーはよく練られている、まとめるとこんな感じか。

 まあ、僕は赤石さんに付き合う形で応募したのだ、大事なのは赤石さんの結果だろう。

 メールで結果を聞こうと思ったが、風情がない。明日直接聞いてみることにしよう。



「おはよう、赤石さん」

「おはよう高下君」


 翌日、僕が学校に行くと既に赤石さんが自分の椅子に座っていた。

 落ち込んでいるようには見えない、むしろ上機嫌そうだ。


「今日は自分でお弁当作ってみたんだよ、たまには女の子らしいことしようってね」

「へえ、そうなんだ」


 お昼休憩になり、部室で微笑みながらお弁当を開く赤石さん。

 これは結果が良かったに違いないと、


「ところで赤石さん、コンテストどうだった? 僕二次落ちだったんだけどさ」


 結果を赤石さんに問いただす。


「ああ、結果? ふふふ、あはははは!」


 赤石さんは立ち上がり、とても嬉しそうにその場でターンして、


「くそが!」


 机に置いていたお弁当を掴むと、それを思い切り本棚へと投げつける。

 ガシャンと本棚にぶつかり、自分で作ってきたらしいお弁当の具が部室にばらばらとちらばる。

 その顔は先程まで浮かべていた嬉しそうな顔とは真逆の、怒りと悲しみに支配された顔だった。


「あ、赤石さん?」

「ははは、はーはっはっは! はぁ……はぁ……う、ぼげええええ」


 そのまま笑いながらふらふらと部室を徘徊しだし、やがては床に嘔吐をし始めた。




「……一次落ちだったよ」

「そ、そうなんだ」


 部室を片づける頃には赤石さんも大分落ち着いてきたのか、椅子に座ってお茶をコクコクと飲む。

 もう既に次の授業が始まっていたが、授業に出る気にもならない。


「ありきたりすぎるってさ。つまらないってさ。評価シートにそう書いてあったよ」

「そんな……見る目がないよ、審査員は。王道がいかに大事か」

「いや、いいんだよ。私自身読み返して、つまらないって思ってたんだ。今まで私が書いてきた小説、全部ね。自称悲劇のヒロインの予定調和のサクセスストーリーなんて、つまらない、本当につまらない。どうして私はこんなものを面白いと思って書いていたんだろう、価値観も随分変わっちゃったみたい」


 つまらないを連呼しながら、赤石さんはカバンから原稿用紙を取りだすとそれをがむしゃらに破りだす。


「ちょっと赤石さん」

「いいんだよ。今の私にとってはもう何の価値もないから。それより……」


 破いたそれをパンパンになるほどゴミ箱に詰め込むと、


「もう終わりにしよう、こんな関係」


 僕を見て淡々とそう告げた。


「え……何言ってるのさ赤石さん」

「薄々わかってたよ、高下君無理してるって。どんどん私なんかに構ってるせいで、疲れてきてるでしょ?」

「そ、それは……」


 確かに二股をかけて受験勉強もして、僕が疲れを感じているのは事実。

 でも僕が少し疲れを感じるくらいで赤石さんの心の支えになるのなら、それくらいの犠牲は厭わない、そう思っていた。


「仮に同じ高校行って今の関係続けてもね、高下君はどんどん精神的に滅入るだろうし、私もね、そんなボランティアで構われたって、虚しいだけだよ。私は高校には行かない、社会からドロップアウトして、一からまた小説の勉強でもし直すよ」

「違うよ、僕は赤石さんが」

「黙って。……ねえ高下君、高下君はこんな心も身体も醜い私を受け入れてくれるの?」


 完全に笑っていない目で、僕を蔑むように見る赤石さんに恐怖を感じながらも、


「醜くないよ、赤石さんは。赤石さんは元気で明るくて性格もいい女の子だよ」


 ここで赤石さんを見捨てては駄目だと褒めちぎる。


「ははは、そうかいそうかい。何の心にも響かない賛辞だね。もう死んでるんだよ、君の中の元気で明るくて性格もいい赤石さんは、戻ってこないよ、懸命に構っていれば、性格も元に戻るし顔も元に戻るだなんて思っているのかな? ……だったら、見せてあげるよ、私の本当の姿をさ」


 笑っていない目のままケラケラと笑うと赤石さんは僕に近づき、

 顔半分を覆っていた包帯を外した。

フィオナ姫……シュレックのヒロイン

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