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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
中学校3年(後) 壊れる僕と赤石さん(メンヘラ)
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みにくい白鳥

 恋愛小説のコンクールに参加するため、僕と赤石さんは部活の時間に小説を書きはじめる。

 ある程度構想を持っている赤石さんはともかく、僕は1からストーリー等を練らないといけない。

 どのようなストーリーにしようかと、ノートパソコンと格闘している赤石さんを眺める。

 ……赤石さんのような女の子が、幸せを掴みとる、そんなストーリーにしよう。


「高下君、どんなストーリーにするか決めた?」

「秘密。結果が返ってからのお楽しみだよ」

「なにそれ、そんなに恥ずかしい作品書くつもりなの? まあいいけどさ」

「赤石さんはどんなストーリー?」

「私は、まあ昔君に見せたような作品だよ」


 昔見た作品と言うと、内気で自分に自信のない女の子が努力して幸せを勝ち取るストーリーか。

 僕の書こうとしているストーリーも、赤石さんのような女の子が努力して幸せを勝ち取るストーリーにしようとしているのだから、本質的には一緒かもしれない。女性向け恋愛小説の基本ということか。



 平日は部活と塾、休日はみたきちゃんと遊ぶという生活を送っているうちに、

 僕の誕生日である11月13日が近付いてくる。そしてその次の日は11月14日、みたきちゃんの誕生日だ。

 けれども11月13日は塾の無い平日。部室に行って赤石さんと小説を書いたりする日だ。

 誕生日くらいみたきちゃんと遊びたいけれど、予定を変更するのがどうにも僕は嫌いだ。


「あたるくん、おたんじょうびおめでとう!」

「ありがとうみたきちゃん。ごめんね、僕は今日も忙しいから、先に帰っててよ」

「うん……」


 誕生日当日、みたきちゃんと一緒に学校に行く途中に先に謝っておく。

 みたきちゃんと別れて学校へ行き、普通に授業を受けて放課後になると部室へ向かい、

 家から持ち出したノートパソコンで赤石さんと共にかたかたと文字を打つ。


「……そういえば、高下君今日誕生日じゃなかった?」

「え? うん、そうだけど」

「誕生日おめでとう……じゃなくて、いいの? 今日塾もないんでしょ? 誕生日くらい彼女さんと楽しむべきじゃないの?」

「別に誕生日だからってどうこうするわけでもないよ、僕は」

「無理してない?」

「してないよ」

「……まあいいけどさ、私は別に高下君に誕生日プレゼントなんて用意してないよ」


 呆れ顔の赤石さん。赤石さんが寂しい思いをしないようにと思って来ているのに酷いなあ。

 下校時刻まで部室でたまに話をしたりしながら小説を書き、部活動を終えて赤石さんと別れ帰路につく。

 その途中、


「あ、いたいた。あたるくん、はいこれ、たんじょうびぷれぜんと」

「みたきちゃん、まだ帰ってなかったの?」


 養護学校の前でこちらを見つけるや否や駆け寄ってくるみたきちゃん。

 もうかなり季節も寒くなってきたというのに、ひょっとして学校が終わってからずっと僕を待っていたのだろうか。


「うん、はやくたべさせたくて。わたしがつくったんだよ!」


 みたきちゃんは僕にパンの包を手渡す。美味しそうなクリームパンだ。


「ありがとうみたきちゃん。ごめんね」


 それを頬張りつつ、みたきちゃんを温めるために抱きしめてよしよしと頭を撫でる。



「みたきちゃん、誕生日おめでとう」

「うん! えーと、わたしなんさいになったんだっけ?」

「15歳だね。今日は塾があるから遅くなるけど、そのあと家に迎えに行くから一緒に遊びに行かない?」

「うーん、でもあんまりおそくなるとおかあさんとおとうさんがしんぱいするかも」

「それもそうだね、僕達まだ中学生だし。じゃあ塾は休むよ。5時くらいに迎えに行くから、そこからケーキでも食べに行こう」

「うん!」


 翌日。僕の誕生日は割とどうでもよかったが、みたきちゃんの誕生日は盛大に祝うべきである。

 なので今日はいつも通り部活に途中まで顔を出した後、みたきちゃんと一緒に遊びに行くことにした。

 放課後になり、部室に顔を出して、とりとめのない話をしながら執筆に励む、

 大分応募するための小説も形になってきた。

 みにくいあひるの子が白鳥になるように、心と身体に傷を負った少女が真の幸せを見つける。

 うんうん、我ながらいいじゃないか。


「それじゃ、また明日」

「うん」


 いつも塾のために学校を出る時間帯になったので赤石さんに別れを告げてみたきちゃんを迎えに行く。

 その後商店街に赴き、みたきちゃんと一緒にケーキショップでケーキを食べる。


「いらっしゃいま……ひっ」

「……」


 その途中、新しくお店に入ってきた客に何やら店員が怯えたような仕草を見せたので気になってその客の方を見る。


「赤石さん」

「あれ、高下君。今日塾だったんじゃ……」


 果たしてそれは赤石さんだった。



「へえ、彼女さんの誕生日でここに来たんだ。彼女さん、誕生日おめでとう」

「ありがとうございます!」


 同席した赤石さんはみたきちゃんの方を見つめて少し微笑むも、すぐに暗い雰囲気になってしまう。


「ここのケーキ、美味しいよね。私もよく通ってたよ」

「そうだったんだ」

「でまあ、久々に来てみたけど……もうここは、私のいちゃいけない場所なのかな」

「そんなわけないじゃないか」

「でも店員に気味悪がられたよ。オシャレなこのお店に私みたいな存在はもう合わないんだよ」

「店員が悪いよ。文句言ってくるよ」

「やめてよ高下君。……このケーキ、彼女さんにあげるよ。またね」

「? ありがとうございます!」


 赤石さんの注文したケーキが運ばれてきたが、それに口をつけることなく、みたきちゃんにそれを差し出して机にお金を置き、すぐにケーキショップを出て行ってしまう。


「まったく赤石さんったら、どれだけ自分を卑下するのさ」


 赤石さんの分のケーキを食べるみたきちゃんを見つつため息をつく。

 赤石さんの異常なまでの自虐癖が、彼女を更に陰気で気味の悪い人間にしている。

 しかし僕には赤石さんの気持ちはわからない。

 僕は赤石さんのように顔に火傷をしたこともないし、

 みたきちゃんのように知的障害者として見られたこともない。

 どれだけ辛いかが、結局わからないのだ。



「よし、完成した」

「遅いよ。私はとっくに完成して応募したよ」


 それからしばらくして、もういくつ寝ると冬休みになる辺りでようやく僕の小説が完成する。


「結果はいつ出るの?」

「冬休み終わってくらいだね。すぐに私達も卒業か」

「受験もあるしね。結局赤石さんはどこの高校狙うの?」

「どうだろうね。高校行かないかもしれない。どうせ行っても苛められるだけだろうし」

「そんなわけ……」


 そんなわけないじゃないかと無責任に言い切ることができずに口をつぐむと、赤石さんが苦笑いする。


「ああ、高下君心配してるかもしれないけど、女子にこっそり苛めにあってるとか、そういうのはないから安心してよ。まあ、クラスメイトも受験とかで忙しいんだろうね」


 今の彼女の状況は、下手ないじめよりもずっと辛いのではないだろうかと僕は感じた。

 直接赤石さんが靴を隠されたり、トイレで水をかけられたりしているわけではない。

 けれど周りの人間は彼女の陰口を叩く。『気持ち悪い』だの『目が死んでる』だの。

 僕はそれを嫌と言う程耳にしてきた。学校にいる以上、それを聞かずにはいられない。

 赤石さんだって、そんな自分の噂は耳に届いているはずだし、それで傷ついているはずだ。

 他人の陰口を言うことにまでとやかく言いたくはないが、これは立派ないじめなのではないだろうか。



 完成した小説をポストに投函する。赤石さんの小説も、結果が出てからのお楽しみらしく読ませてはくれなかった。

 冬休みになるまでの数日は、部室で赤石さんと本を読みながらお喋りに興じる。


「あのさ、高下君。冬休みなんだけどさ」

「うん」

「暇な時でいいからさ、私とデートしてくれない? 迷惑だってわかってるけど、やっぱり人恋しくてさ。正直、今の私、一人じゃ学校以外まともに外に出れなくなりつつあるんだよね。周りの目とか、そういうのが怖くて怖くてさ。高下君と一緒だったら、多分耐えられると思うし」

「うん、勿論いいよ」

「ありがとう。高下君は、本当に優しいね」


 冬休み直前に赤石さんとそんな約束をする。

 彼女が自分の弱いところを曝け出しているのは、多分僕を信用している証拠なのだろう。

 だったらそれに応える必要がある。

 冬休みはみたきちゃんとデートして、赤石さんとデートする、そんな二股ライフになりそうだ。


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