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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
中学校3年(後) 壊れる僕と赤石さん(メンヘラ)
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アリス イン ザ ディストピア

 第二文芸部を結成させた後、赤石さんと別れて大事な事に気づく。

 そういえば今日は塾のある日だった。完璧に大遅刻だし、今更行っても遅いだろう。

 なるべく部活に顔を出したいけれど塾も蔑ろにするわけにはいかない。

 更に僕には……


「みたきちゃん、今までは塾のない日は一緒に帰れたけど、これからはもっと忙しくなるんだ」

「うん、だいじょうぶだよ。じゅけんべんきょうがあるもんね。わたしももうこどもじゃないから、あたるくんがこなくてもひとりでかえれるよ! それにわたしも、しごとのれんしゅうでおそくなるかもしれないから、きにしなくてもいいよ!」

「……うん、ごめんね」


 みたきちゃんだっている。

 みたきちゃんのセリフが僕の胸に突き刺さる。慣れてしまったのか、一人で帰るのが。

 赤石さんと二股をかけましたなんて勿論言えず、誤魔化すようにみたきちゃんの頭をわしわしと撫でる。

 どんなに頑張っても僕の体は1つしかない。

 塾とみたきちゃんと赤石さんを両立させようとすれば、どうしても各々に割く時間は減ってしまうし、僕の体もどんどん疲れてしまうだろう。


「今日はそのかわりいっぱいお医者さんごっこしようね」

「うん!」


 疲れはみたきちゃんの体で癒す。なんてダメな思考だろうか。

 というか身体は余計疲れるのでは。



 色々考えた末、塾のある日はギリギリまで部活に顔を出すことにした。

 塾のない日は下校時間まで部活に顔を出す。

 塾と部活が平日である以上、みたきちゃんと遊んだりするのは登校時か土日になる。



「おはよう赤石さん」

「おはよう」


 第二文芸部結成の翌日、僕が教室に行くと既に赤石さんが自分の机で本を読んでいたので声をかける。

 少し、昨日よりも明るくなったような気がする。勘違いでなければいいのだが。

 その後授業を受けてお昼休憩になる。僕は自分のお弁当を持って赤石さんの机まで向かうと、


「赤石さん、部室行こうよ。ご飯食べよう」

「……うん」


 自ら赤石さんを誘う。今の赤石さんに必要なのは、きっとこういう積極的なコミュニケーションだと思うのだ。


「え、高下君って今赤石さんと付き合ってるの?」

「うわ……趣味悪っ」


 ついこの間まで赤石さんと仲の良かったはずのクラスの女子にそんな事を言われるが聞こえないフリをする。逃げるように僕達は部室へ向かうとお弁当を開く。


「全くさっきの女子ったら酷いね、あんな奴と縁が切れて正解だよ」


 聞こえないフリをしたが、思い返すと凄くイライラしてきたので、

 お弁当を食べながらまるで女子にでもなった気分で先ほどの女子の陰口を叩く。


「いや、あれが普通の反応だよ。高下君がおかしいんだよ」

「そんなことないよ、あいつらがおかしい」

「私だって、同じ立場になったら平気でああいうことするよ」

「赤石さんが? するわけないじゃん」

「高下君は女の子に幻想抱きすぎじゃないかな。私は高下君が思っているほど綺麗な人間じゃないよ。六月六日さんだって、この間君が言ってた塾の子だってそう。高下君の彼女とは根本的に私達は違う存在だってことを理解した方がいいよ」


 うつむいてそう言う赤石さん。

 確かにみたきちゃんは普通の人間じゃない。

 あまりにも幼い、だからこそあまりにも純粋で、あまりにも綺麗。

 それに比べて僕や赤石さんは、なんだかんだ言って普通の人間だ。

 大人になるにつれ、汚くなっていくのは仕方がないことなのかもしれない。

 それでも、それでも僕は信じたいのだ。彼女達を。


「あ、そうだ。一応部活は毎日顔を出そうと思ってるから。塾もあるし途中で切り上げることも多いけど」


 流れを変えるように部活の話を切り出す。


「別に無理しなくたっていいのに、彼女はどうするのさ」

「無理なんかしてないよ、みたきちゃんとは土日があるし」

「ふうん。それじゃあお言葉に甘えちゃおうかな」


 今は思いきり甘えてもいいんだ、赤石さんは。


「……ところで赤石さん、家族とはうまくいってるの?」

「唐突にどうしたんだい」

「いや、家族は赤石さんを支えてあげてるのかって」


 この話題についても、触れておかなければならないのだろう。

 学校での赤石さんの味方は、僕くらいなものかもしれない。

 じゃあ学校以外での赤石さんの味方は?

 家族が親身に赤石さんを支えているのなら、赤石さんがここまで悲壮感を漂わせてはいないんじゃないか、そう思ったのだ。


「まあ、普通の家族仲だった……けど、私の火傷の原因、両親なんだよね。両親と車で出かけてたら事故っちゃってさ。両親は骨折くらいで済んだんだけど、一番被害が酷かったのは私で、まあこんな状態でさ。それから、何か両親は私に申し訳なさばかり感じてるし、私もどうしても両親を憎んじゃってさ、どうにも、ね。まあ、心配はされてるのは確かだしさ、別に高下君がそこまで気にすることじゃないよ」

「そっか」


 口ではそう言ってへらへらと笑っているが、そこまで気にすることだ。



 放課後、掃除を終えて部室に行くと、机に座った赤石さんがノートパソコンを開いて唸っていた。


「何やってるの赤石さん、便秘?」

「殺すよ。……これに、応募してみようかなって」

「……恋愛小説大賞?」


 後ろから覗くと、どうやら女性向けの恋愛小説のコンクールがあるようだ。

 上位入賞者はデビューできるらしい。


「赤石さんなら入賞間違いなしだね」

「やめてよプレッシャーかけるの。まあ、なんていうか、怪我して良かった! ってのは勿論嘘だけどさ、きっかけになったっていうか。今までもさ、小説書くのは好きだったし、小説家になりたいなあとか思ってたけどさ、まあ私じゃあどうせ無理だよねって思ってさ、リアルも充実してたし、そっち優先っていうか。でも、今はこんなんじゃん。割と女でこれって、人生詰んでるじゃん。だったらもう、小説家目指しちゃおうかなって」

「赤石さん……」

「あ、あはは。おかしいよね、強がり言ってるようにしか聞こえないよね。はは、やっぱ強がりかも、涙出てきた。まあ、とにかく書き溜めてたのもあるし、応募してみようかなってさ」

「うん、赤石さんなら、絶対にトップとれるよ」


 涙を流しながら痛々しく笑う赤石さんに、どうしていいかわからずにそう言うしかなかった。


「折角だし、高下君も応募しなよ。一応第二文芸部の部員なんだしさ」

「……そうだね、女性向け恋愛小説は詳しくないけど、書いてみるかな」

「それがいいよ、切磋琢磨しよう」


 それから女性向け恋愛小説についての基本を赤石さんから学んでるうちに、塾の時間が近づいてくる。


「ごめん、そろそろ塾行かないと。また明日」

「うん、また明日。ちゃんと勉強しなよ、私なんかに構ったせいで受験落ちたとか言われても困るからさ」

「わかってるって」


 赤石さんに別れを告げると学校を出て塾へ急ぐ。



「おう高下、前回休んでたけど風邪か?」

「こんにちは、高下君」

「やあ、煉獄君、郡山さん。ちょっとね」


 現役カップルの二人に、赤石さんの事を相談しようか迷ったが、結局しないことにした。

 赤石さんの言葉が脳内に響く。

 煉獄君だって、郡山さんだって、汚い部分を持っている。

 僕が赤石さんの事について相談した時に、彼等のその部分を僕は見てしまうんじゃないかって、怖くなった。

 見てしまったら、今後彼等とどう交流すればいいのかわからなくなってしまいそうで。

 結局のところ、僕はとんでもないレイシストなのかもしれない。



「でさー、すんごい不細工な女がおったんよ、写メとっておけばよかった」

「やめなよそういうのー、趣味悪いってー」


 そう考える僕の耳に、同じ教室の女達が現在進行形で汚い部分を流し込んでくる。

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