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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
中学校3年(後) 壊れる僕と赤石さん(メンヘラ)
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嫉妬されない白雪姫

 郡山さんには煉獄君がいた。

 じゃあ赤石さんには誰がいるのだろうか。

 美しい顔は半分包帯のミイラとなって、

 明るい性格は虚ろにしか笑えなくなって、

 友人にも恋人にも見放されていった、もしくは赤石さん自身が距離を置いていった。

 そんな赤石さんの味方なんて、家族くらいしかいないだろう。

 ひょっとしたら家族すら赤石さんの味方ではないのかもしれない。



 赤石さんを救ってくれる、都合のいい人間なんて見つかりっこない……僕はそう感じた。

 現実はおとぎ話とは違うし、おとぎ話の登場人物のように今の赤石さんは容姿麗しく、逆境にもめげない少女ではない。



「うっ、ううっ、うええええっ」


 だから僕は泣きながらすがりついてくる赤石さんを抱きしめることしかできなかった。

 僕が守らなければ、赤石さんは消えてしまうと思ったのだ。

 どれくらいそうしていただろうか、やがて泣き止んだ赤石さん。


「ありがとう、高下君。今日はもう帰るね。……それと、よろしく」


 精一杯の虚勢を張っているようで痛々しい笑みをこちらに送ると、校舎の中に消えていく。

 屋上に取り残された僕は柵にもたれかかり、みたきちゃんの通っている養護学校の辺りを見てため息をつく。

 郡山さんの時とは訳が違う、僕は今から二股をかけようとしている。

 けれどそうでもしなければ、赤石さんはきっと壊れてしまう。

 ごめんよみたきちゃん、けど不器用な僕にはこうすることしかできないんだと心の中で謝りながら、みたきちゃんを迎えに行くのだった。


「なんだかげんきないね? どうしたの? なやみならきくよ!」

「何でもないよみたきちゃん、みたきちゃんの勘違いだよ」


 みたきちゃんよりもずっと放っておけない人がいるので二股かけますと打ち明けられたらどんなに楽だろうか。打ち明けたって別段みたきちゃんはその意味を完全に理解することはないのだろうけど、それでも僕はみたきちゃんに何も伝えないまま、赤石さんのように虚にまみれた笑みを返す。



「おはよう、高下君」

「おはよう赤石さん」


 翌日僕が学校の教室へ行くと、既に来ていた赤石さんがこちらに駆け寄って来て挨拶をしてくる。

 その後僕達はとりとめもない話をする。話の内容が大事なのではなく、話をすることが大事なのだ。

 休憩時間になる度に赤石さんと僕は話しをする。

 そうすることで、赤石さんが周りを気にしなくなるように。


「高下君、屋上でご飯食べよ?」

「うん、わかったよ」


 お昼休憩になる。赤石さんに誘われ、お弁当を持って屋上へ向かう。

 前まで赤石さんは屋上で彼氏とご飯を食べていたらしい。

 昼間は屋上は開放されている。

 僕と赤石さんが屋上への扉を開けると、


「でさー、すんごいウケたんよ」

「マジかよ」


 そこには僕達だけではなく、様々なカップルが三者三様にお昼の一時を楽しんでいた。

 懐かしいな、昔赤石さんを探す時にここにきて何だか居た堪れない気持ちになったっけ。


「……うわ、何アイツ」

「きっしょ」


 けれど、僕の感じた居た堪れなさなんて、赤石さんに比べればなんともないのだろう。


「……」


 僕達を見るなり、怪訝そうな顔になったり、不快そうな顔になったりするカップル達。

 周りの視線を一気に浴びながら、ひっそりと僕達は屋上の片隅に座る。


「もうここは、私のいていい場所じゃないんだね」

「何言ってるのさ赤石さん、屋上にいていいも何もないよ」


 お弁当を開き、既に泣き顔になっている赤石さんを宥めるも、


「ううん、わかってるの。ここの人達が私に向けたあの視線、場違いだから来るな、白ける、そんな視線だって」

「そんなわけ……お昼ご飯、食べよう。お弁当塩辛くなっちゃうよ」


 赤石さんはポロポロとお弁当に涙を零しながら弱弱しく呟く。

 僕はそれを否定しようとするが、どうしても否定しきることができず、代わりにハンカチを赤石さんに渡す。

 それからしばらく無言でお弁当を食べ続ける。


「ごちそうさま。あーあ、明日からどこでお弁当食べようかな。あ、そうだ」

「何か思いついたの?」

「放課後になったら話すよ、じゃ、私トイレ行ってくるね」


 僕より早くお弁当を食べ終わった赤石さんは、それだけ言うと逃げるように屋上から去って行く。

 取り残された僕は天を仰ぐ。

 果たして今の僕はきちんと赤石さんの彼氏として、彼女の心のよりどころになれているのだろうか。

 一般的な恋人はどういうことをするものなのか、残念ながら僕にはわからないのだ。



 教室に戻ると、クラスの男子に声をかけられる。


「なあなあ高下、お前ひょっとして赤石と付き合い始めたのか?」

「……まあね」


 隠すことでもないだろうし、隠していたっていつかはバレる。

 だからそいつに肯定で返したのだが、


「マジかよ、お前趣味悪いな」


 引いたような笑いを返される。

 こういう反応が返ってくるだろうことはなんとなく予想がついていたが、実際に言われてみるとイライラが止まらない。

 そういえば昔赤石さんにみたきちゃんの事を馬鹿にされた時は随分と怒ったものだ。

 まさか赤石さんが馬鹿にされる立場になるとは思いもしなかったが。


「……ははは」


 精一杯自分の感情を抑えて乾いた笑いを返し自分の席に戻る。


「……」


 しばらくすると赤石さんがトイレから帰ってきたようで教室に入る。

 その目元は酷く腫れていた。

 もしかしなくても、トイレで泣いていたらしい。さっきの事を気にしてだろうか。



「高下君、こっちこっち」


 放課後になると、赤石さんに呼ばれる。

 お昼休憩に彼女が思いついたこと関連だろうかと彼女に続くと、


「……部室? 赤石さん部活やめたんじゃ」


 辿り着いたのは部室棟。


「うん、私が育てた文芸部はやめちゃったよ。……だから」


 赤石さんは弱弱しく笑いながら、部室のうち1つを開ける。

 そこは誰も使っていないようで所々埃に塗れており、汚い。


「汚い部屋だね。今の私にピッタリだ、まあ掃除はするけど。……というわけで高下君、ここは俗に言う第二文芸部だよ」

「第二文芸部……」

「うん、ここなら周りの目なんて気にせず私は文芸を楽しめる。私と高下君だけの秘密の部活。どう? 悪くないでしょ」

「そうだね」


 そういえば赤石さんは文学少女だった。

 たった一人の文芸部でひそひそと殻に閉じこもっていた赤石さん。

 僕と関わる事で美しい自分を手に入れて、かけがえのない仲間も手に入れた。

 けれどその仲間も赤石さんの元から離れてしまった。

 赤石さんが負い目を感じて、自分から離れて行ったのかもしれない。

 とにかく文学というのは僕が思っているよりも多分赤石さんの大部分を占めているのだろう。

 また昔の寂しい文芸部に逆戻りかもしれないけれど、少しは赤石さんも元気になるはずだ。


「というわけで今日はこの汚い部室を掃除しよう」

「わかったよ」


 第二文芸部最初の活動は部室の掃除。

 掃除をしていると段々と気持ちが晴れやかになっていくというのは本当のようで、

 1時間半で綺麗になった部室を眺めて僕も赤石さんもかなり満足気だ。



「ふう、綺麗になった。というわけで明日から本格的に活動開始かな。私は大体毎日放課後はここにいるから、高下君も偶にでもいいから来てよ、面白い本とか紹介するからさ」

「偶にだなんて、毎日行くよ」

「無理しなくてもいいよ。本命の彼女だっているんだからさ、そっちを優先しないと。私だって高下君に完全に甘えようだなんて、束縛しようだなんて思ってないよ」

「……まあ、なるべく来るから」



 こうして僕と赤石さんだけの部室が、本当に完成した。

 この第二文芸部が、赤石さんを明るい彼女に戻してくれると僕は信じていた。

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