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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
中学校3年(後) 壊れる僕と赤石さん(メンヘラ)
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魔法の解けたシンデレラ

「氷雨、模試塾内何位だった?」

「……3位」

「俺は2位だ。ついに氷雨に勝ったな」

「アンタに負けるなんて……喜ぶべきやら悲しむべきやらね」


 僕の前の席で煉獄君と郡山さんが互いの模試の結果を見せ合っていちゃいちゃしている。


「……僕は12位だよ」


 二人に聞こえないくらいの声でぼそっと呟く。

 早いものでもう中学3年の秋。

 塾内12位でも十分なのだろうけれど、煉獄君ができた10位以内を僕は一度も達成できていないのが悔しくてしかたがない。

 まあ、志望校には多分受かるだろうと楽観的に構える。



 最近平和ボケしている気がする。

 目の前の二人の仲人をした後は受験勉強もあるからと積極的な行動をせずに、

 学校行って塾行って勉強してみたきちゃんと遊んで、夏休みも勉強はそこそこに満喫して。




「おはよ、高下くん」

「おはよう、赤石さん」


 翌日学校へ行くと、いかにも今風の美少女が僕に声をかける。

 赤石京子。自分に自信のなかった灰かぶりのエラ。

 魔法の力なんて使わずに、白鳥になって幸せをつかみましたとさ。


「そういえば赤石さんは、高校どこ狙ってるの」

「私? まあどこでもいいけど、彼氏があんま頭良くないからそれに合わせる感じになるかな。文芸部のあるとこがいいけど、まあ無かったら自分で作るよ。高下君は本街だっけ、そういえば聞いたよ、塾の女の子と二股かけようとしたけど寝取られちゃったんだっけ」

「人聞きの悪いことを言わないでよ……キューピッドだよキューピッド」

「うわ、自分の事キューピッドとか言い出したよ……」

「音楽センスは否定するし赤石さん僕に対して酷くない? 誰が赤石さんを変えたと思ってるのさ」

「『いやいや、僕は何もしてないよ。全部赤石さんが元々持ってた魅力なんだから』ってカッコつけて言ってたの誰だっけ」

「……」


 それを言われると辛いものがあるが、赤石さんが生き生きとしているようで何よりだ。

 同じクラスになったこともあり、グループは全然違えどそれなりに僕と赤石さんは交流をしている。

 学校を終えた後、塾もないのでみたきちゃんを迎えに行って一緒に帰る。

 みたきちゃんは今職業訓練をしており、来年度にはパンを作って売ることになるらしい。


「平和な日常もいいけれど、たまに刺激が欲しくなるよ。何かこうさ、パンチの効いた」

「パンチ? わかった!」

「しまっ……」


 みたきちゃん○-●僕

(2秒、ストレート)


 まあたまにこんなこともあるけれど、平和だ。

 その気になれば学校の下級生やら別のクラスやら行動範囲を伸ばして孤独な女の子を探すこともできるのだろうけど、

 やはり受験勉強をしなくてはいけないという思いがそれを遮らせている。

 だからまるで漫画の主人公のように、刺激的な事件が起こらないかななんて受け身なことを考えていた。




「あー、赤石が事故に遭ってな、2週間程学校を休むそうだ」


 次の週の月曜日、朝のホームルームでの教師のその一言に、

 確かに刺激的な事件が起こらないかなとは思ったけどこんな展開はノーサンキューだと悲しむ。

 ざわめく教室。そりゃそうだ、赤石さんはクラスの人気者なのだから。

 2週間か、寂しくなるなあ。事故で2週間って、骨折でもしたのだろうか。

 今思えば僕は相当に平和ボケしていたのだろう、

 2週間が経てば、いつもと変わらない赤石さんが戻ってくると信じて疑わなかったのだから。





 2週間が経つ。そういえば僕は小学校に入学してすぐ、扁桃腺の手術で2週間程入院したことがある。

 友達作りのスタートダッシュでこけてしまい不安な僕であったが、

 退院して学校に行くとクラスメイトが皆して出迎えて、退院おめでとうとか言ってくれた。

 当たり前のように僕と仲良くしてくれた。

 あの頃は誰だって皆純粋で良い子だったのだろう。

 あれからもう約10年が経っているけれど、赤石さんは人気者だし、同じようにクラスメイトが皆して赤石さんの退院を祝うだろう。

 朝の教室でそんなことを考えながらにやけていると、教室のドアが開いて女の子が入ってくる。


「……おはよ」


 誰? と思ったのは僕だけではなく、クラスにいた皆がそう思ったようで静まり返る。

 顔の左半分を包帯で覆い、うつむきながら挨拶をする、かなり暗い雰囲気のする女の子に覚えはないのだ。

 とぼとぼと歩いた彼女はやがて1つの席に座る。

 長らく人の座っていなかった、赤石さんの席に。



「あ、赤石さん!?」


 ざわめくクラス。けれどそれは僕が期待していた退院を祝うとか、そんなざわめきではなかった。

『あれ本当に赤石さん?』とか、『なんだよあの包帯』とか、口々に赤石さんの変化について喋りはじめるも、肝心の本人には誰も話しかけに行かない。いや、行けないのか。



 空気を読まないのは僕の短所であり長所。

 席に座って、黒板をぼーっと眺めている赤石さんの元へ向かい挨拶をする。


「退院おめでとう」

「……ありがとう」

「その包帯、どうしたの」

「火傷しちゃったんだ」


 僕の方を見ることなく、うつむいて机を見ながらぼそぼそと喋る赤石さん。

 痛々しく体に巻かれた包帯もあり、その暗さは最初に出会った赤石さんの比ではなかった。

 余程辛い目にあったのだろう、

 けれど赤石さんには仲間がいっぱいいる。友達だっているし、部活仲間だっているし、彼氏だっているはずだ。

 すぐに仲間と時が赤石さんをいつものように戻してくれると僕は本気で思っていた。

 いや、本当はこれから赤石さんがどうなるかわかっていたのかもしれない。

 わかっていて、それを認めようとしなかったのかもしれない。



 学校に戻った赤石さんは、一か月と経たないうちに孤立してしまったのだ。

 初めの頃は、赤石さんの友達が赤石さんを心配してくれていた。

 赤石さんも、『大丈夫』とか、『ありがとう』とか弱弱しくそれに応えていた。

 けれどだんだんと、赤石さんに話しかけたり、構ったりする人間は少なくなっていった。

 見た目も中身も変わってしまった赤石さんは、周りの人間にとってもう以前のような魅力的な人間ではなかったのだ。

 それまで積極的に自分からコミュニケーションをとるタイプの彼女であったが、その影もない。



「これ、赤石さんが休んでた時の授業のノートね」

「……ありがとう」


 それでも僕は、赤石さんにこれまでと変わらぬように接しようと試みた。

 見た目が変わっても赤石さんは赤石さんだ、中身だってまた昔の赤石さんのように戻れるさと考えていた。

 本当はそうしないと、周りの人間と一緒になるのが怖かったのかもしれない。

 誰にも構われなくなった赤石さんが、昔のみたきちゃんに見えたのだ。

 みたきちゃんを腫物扱いする周りの人間を、僕は軽蔑していた。

 辛い時にこそ優しくしないといけないのに、赤石さんを腫物扱いする周りの人間はなんて酷い人間なのだろうかと軽蔑する一方で、

 自分自身そんな人間になってしまうのが嫌だったのだ。



 そんなある日、僕が学校で行き下駄箱を開けると、一枚の手紙が入っていた。

『放課後屋上』とだけ書かれていたが、それは間違いなく赤石さんの字であった。


「おはよう赤石さん」

「……おはよう」


 手紙の差出人に気づいてないように振る舞い、いつも通り赤石さんに接しながら放課後を迎える。

 教室の掃除をして少し遅れて屋上へ。

 この学校の屋上は昼間は解放されているが、放課後は閉まっていたはずだがあっさりと扉は開く。



「やあ」


 そこにはやはり、赤石さんがぽつんと待っていた。

 顔の半分を包帯で覆いひきつった笑いを見せる彼女はどこか不気味に思えた。


「どうしたのさ、赤石さん」


 もうどんな展開になるか薄々理解はしていたが、僕はできるだけおどけてみせる。


「私ね、彼氏に振られたんだ。色々それっぽい理由言われたけどさ、結局はもう私に価値はないんだなって理解したよ」

「そんなこと」

「部活もやめちゃったよ。何か気まずくてさ、まあ本は一人でも読めるし一人でも書けるし、どの道引退だって控えてたし」

「赤石さん」

「あーあ、友達もみんないなくなっちゃった。やっぱり私みたいな不細工で根暗な女の子に誰も構ってなんてくれないか、ははは」

「赤石さん、しっかりしなよ」


 ただただ一人で空を見上げながら壊れたように笑う赤石さんに近づいて肩を揺さぶる。

 赤石さんは僕の方を向くと、ボロボロと涙を流しながら、


「助けてよ。二股でも遊びでもなんでもいいからさあ」


 僕にすがりつく。


「……」


 僕は彼女を抱きしめることしかできなかった。


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