クールでもなんでもない彼女を寝取られる
ゲームセンターの目の前で行われる修羅場。
当事者は僕と煉獄君と郡山さん。
ゲームセンターの客層は学生が多いこともあって、ギャラリーが興味深そうに僕達を見ている。
最初から見ていた人の中では僕は二股かけて遊びで郡山さんと付き合っている鬼畜なのが辛い。
「俺はお前の事が好きなんだよ、だから付き合え!」
顔を真っ赤にしながら男らしく郡山さん肩を掴み心を揺さぶりにかけますが、
郡山さんがその手を思い切り払いのけて、僕の服を掴みしがみつきます。
「……今更なによ、好きな相手がいじめられているのを見て見ぬふりするどころか加害者になるような男と、どう付き合えって言うの!? 私はもう高下君の物なの。高下君はアンタとは違う、アンタのくっだらない嫌がらせから私を守ってくれたし、体張ってクラスの女からも守ってくれた」
いつから郡山さんは僕の物になったのだろうか。
もうクールでもなんでもなく、煉獄君への怒りを爆発させる郡山さん。
「俺だって、お前を守ってみせる! もうあの時の俺とは違うんだ、周りの人間に合わせてお前への恋心を諦めるような男じゃないんだ! 俺が悪かった、だから許してくれよ、また昔みたいな関係に戻ってくれよ」
一方煉獄君はボロボロと涙を流しながら郡山さんにすがりつくように謝るのみ。
「頼む! 許してくれ! 俺と付き合ってくれ! 何だってする!」
「うるさい! 誰が許すか!」
しばらく煉獄君の謝罪と郡山さんの罵倒を眺めていたが、流石に人目が恥ずかしいのでそろそろストップさせよう。
「まあまあ落ち着きなよ二人とも」
「関係ないやつは黙ってろ!」
「高下君には関係ない話でしょ!」
「……」
二人を宥めようとするが息ピッタリに怒られてしまう。
いつのまにか僕は関係のない人間になってしまったようだ。
もう僕帰っていいかなと呆れながらも、段々と語彙が少なくなっていく二人の喧嘩を見守る。
「「はぁ……はぁ……」」
二人とも喋る内容が無くなったのか息切れするばかり。これにて喧嘩は一旦お終いか。
よくもまあ15分も喧嘩できたものだ。
喧嘩する程仲がいいと聞く。僕もみたきちゃんと喧嘩するべきかな。
「落ち着いた? とりあえずまとめてみようか。煉獄君は郡山さんが好きだけど、郡山さんは煉獄君が信用できないんだよね」
「……うん」
「でも別に本当に嫌いってわけじゃないんでしょ? この高校目指す理由だって煉獄君と約束したからなんでしょ?」
「……まあ」
まずは未だに僕の服を掴んでいる郡山さんを引きはがしてなだめる。
僕の質問にこくこくとうなずく郡山さん。
「だったら!」
「ストップ煉獄君。あのね煉獄君、失った信用を取り戻すのは大変なんだよ。簡単に守るとか言ってるけど煉獄君に一体何ができるのさ、中学三年にもなって蜘蛛を放ったり筆箱隠すような男が」
「そ、それは」
「大体煉獄君、今の成績じゃ多分志望校受からないよ? 同じ学校に行けないよ?」
「うう……」
煉獄君もそれなりに頑張っているようだが、塾の授業だってほとんど理解できていないようだし、いくら受験が一発勝負だからって望みは薄いだろう。
「というわけで煉獄君、男を見せてやろうじゃないか。次の模試、2週間後だよね。郡山さんのために必死で勉強して、塾内10位くらいには入ってみなよ。で、見事入れたら煉獄君と郡山さんは付き合うと」
「ち、ちょっと何勝手に決めてるの」
勝手に煉獄君と付き合うかの賭けをされて顔を赤らめる郡山さん。
「いいじゃないか、煉獄君が信用できないんだろう? 君のために必死で努力して結果を出せたのなら、信用してもいいじゃない。それにね、郡山さんは僕の事信用してないよきっと。いつも僕と出かける時に変装してるじゃないか、信用している人と一緒にいるところを見られたくないって言うのかい? 僕に迷惑がかかる? 違うよ郡山さん、僕に迷惑をかけたら僕が君を見捨てると思ってるんだよ郡山さんは。つまり僕の事を全然信用してないんだ。煉獄君とだったらそんな事気にせずに自然体でいられるって僕は思ってるよ。とにかく煉獄君は勉強頑張ることだね、それじゃ」
僕らしくもない、一方的に長々と喋ってしまった。
もうこれ以上言うことはないだろうとその場から立ち去る。
「お、俺頑張るから! 勉強頑張って、お前と一緒の高校受かるようになるから!」
煉獄君もそう言って、早速家に帰って勉強するのか駆け足で去って行く。
「う、うっさい馬鹿! アンタみたいな馬鹿に10位以内なんて無理に決まってるでしょ! ふんっ!」
郡山さんは去って行く煉獄君に大声で罵声(声援?) を贈る。いいねえ、青春だねえ。
それから模試までの間、本当に人が変わったように勤勉になる煉獄君。
塾の授業だって真面目に聞いているしわからないところは講師に質問だってするように。
塾が終わればすぐに参考書を持って自習室へ。
そんな彼を見ては顔を赤くしてもどかしそうな顔をする郡山さん。
塾が終わった後に僕にデートをせがむような事はしなくなった。
ずっと眺めていたいくらい不器用な二人だけど、僕もきちんと勉強しなくちゃね。
前回12位だったから、僕も10位以内に入りたいね。
……いやでも、僕が10位以内に入った結果煉獄君が11位とかになって、
何か物凄い気まずい感じになったらどうしよう。
まあでも僕の心配は杞憂だったようで。
「……嘘、嘘よ」
「お、俺が6位……」
結果返却の日、僕が塾の教室へ行くと二人が何か紙を見てわなわなと震えていた。
ひょいと後ろからそれを覗くと、それは煉獄君の模試の結果だ。
塾内6位! すごいじゃないか!
「おめでとう煉獄君。やればできるじゃないか」
「サンキュー高下、お前が俺を奮い立たせてくれたおかげだぜ」
「いやいや、君を奮い立たせたのは郡山さんの愛だよ」
心から煉獄君を祝福する。
ところで煉獄君からすれば僕は彼女と遊びで付き合う恋敵だったはずだが何だろうこの爽やかな受け答えは。
「というわけで郡山さん、煉獄君は君のために頑張ったんだ、信用してくれるよね?」
「わ、私はそもそもこいつが10位以内に入ったら付き合うなんて約束認めてないし」
しどろもどろになる郡山さん。
いい加減素直になったらどうなんだ、本音は自分のためにここまで結果を出した煉獄君を認めている癖に。カッコいいとか思っている癖に。
「俺、絶対お前を守るから! 頼む、俺と付き合ってくれ!」
とどめと言わんばかりに煉獄君が郡山さんの肩を激しく揺さぶって愛の告白。
「……ふん、絶対本番も受かりなさいよ、本番落ちたら絶対許さないんだからね」
とうとう落ちたようで、煉獄君を抱きしめてそれを了承する郡山さん。
塾の教室でするようなことじゃない、郡山さんをいじめている彼女のクラスメイトとか、模試の結果が悪くて落ち込んでいる人とかいるのにお構いなしの二人の世界。
ま、郡山さんの中学での苛めは解決できていないし本当に本番で二人とも合格する保証なんてないけど、
あの二人なら多分大丈夫だろうという根拠のない自信を浮かべて僕も模試の結果を受け取る。
……僕が11位でした。
数日後、塾のない日に僕がみたきちゃんと一緒に下校していると、
「おう、高下じゃねえか」
「……こんばんわ」
丁度今からデートなのか、二人で並んで歩く煉獄君と郡山さん。
勿論郡山さんは変装なんてしてません。
あれから二人は塾で隣同士の席に座るようなったため、僕がハブられてしまうという悲しい結末にはなりましたが、二人とも幸せそうで何よりだ。
二人を見送った後、そういえばあの時の喧嘩は何となく楽しそうだったなあと思い、
「みたきちゃん、僕と喧嘩しない?」
「けんか? うん、いいよ。それじゃあいくね!」
「痛い! ちが、口喧嘩、痛い痛い痛い痛い噛まないで!」
みたきちゃんに喧嘩しようよと言ってしまったのが運のつき、
みたきちゃんに全力ストレートを食らったり腕に噛みつかれたりとボコボコにされましたとさ。




