六月六日にセンスを否定される
夏休み前の催し物でバンドをやって、僕達をクラスメイトに認めさせるという壮大な野望を抱いた僕と六月六日さん。
しかしそんな簡単にできるものではない。
そもそも僕はドラムをやることになったが、太鼓を叩くゲームをそれなりにやりこんでいる程度で、実際のドラムには触ったこともない。
これから1ヶ月、勉強を疎かにすることなく猛練習をしなければならないのだ。
そして、ドラムとボーカル兼ギターでは、バンドと呼ぶには寂しいだろう。
そんなわけで、手始めに協力者を募ることにした。
「赤石さん」
「却下」
「まだ何も言ってないよ……」
お昼休みに彼氏とお弁当を食べるため屋上へ向かおうとする赤石さんを待ち伏せし、説得しようとしたのだがのっけから否定されてしまった。でもめげないぞ。
「……これ以上つきまとわないで欲しいんだけど。ただでさえ君達と馴れあってると思われたくないのに、彼氏に浮気疑惑持たれて困るんだよね」
「そう言わずにさ、バンドしようよバンド。何となくだけどピアノ弾けるでしょ」
「弾けないよ。何で私が君達と一緒にバンドしないといけないのさ。笑いものになって地位が落ちるのが目に見えるよ」
なんて冷たい女なんだ。しかしピアノが弾けなくても、赤石さんは十分戦力になるはずだ。
「酷いなあ……じゃあ、作詞作曲してよ」
「……嫌だよ」
「今迷ったでしょ」
「迷ってない。何で迷う必要があるの」
作曲はともかく作詞。変わっても文学少女の心は変わっていない赤石さんがそれに食いつかないはずがなかった。
「自分の書いた文章を、もっと他人に読ませたくないの? 評価して欲しくないの?」
「別に。自己満足だし」
「じゃあ何で文芸部作ったの? 同志に評価してもらいたいからでしょ? 自己満足なら部屋で一人で書いてればいいじゃないか」
「……あまり彼氏を待たせるわけにはいかないから」
屋上へ向かう赤石さん。ここまで押しても揺らがないなんて、もう僕の知っている赤石さんはどこにもいないのだろうか?
「赤石さん!」
「……失敗して私まで笑いものにしてみろ、君達のいじめに加担してやるからね」
やっぱり赤石さんは赤石さんじゃないか。
ともかくこれで作詞作曲は大丈夫そうだ。赤石さんなら素晴らしいものを作ってくれることだろう。
しかし当初の予定では赤石さんにキーボードをさせるつもりだったのだが、そっちはご破綻となってしまった。
僕の知り合いで、音楽ができそうな人……
「みたきちゃん、これなんだと思う?」
「ぴあの?」
「まあ実際にはキーボードっていうんだけどね、ピアノみたいなもんだよ」
偶然母親が昔使っていたキーボードが倉庫にあったので、自分の部屋に遊びにきたみたきちゃんにそれを見せてみる。
ま、みたきちゃんが弾けるとは思わないけど、ダメ元でやらせてみようかななんて思ったわけだ。
「ぴあのなら、わたしひけるよ!」
そう言うとみたきちゃんはキーボードの前に立って鍵盤を押し出す。
電子音ながら心地よいメロディ。これはビバルデイの春だったか。……ってええっ!?
「み、みたきちゃん? どこでそんな技術覚えたのさ」
僕が驚くのも無理はない。プロ並とまではいかないけれど、少なくとも僕が曲を特定できるレベルにはみたきちゃんは弾けているのだ。少なくとも現時点では僕よりずっと戦力にはなるだろう。
「えとね、がっこうのせんせいがぴあのひいてるのを、うしろでみてたの」
「それでマスターしたっていうの? すごい才能だよ」
……いける! 赤石さんの作曲が完成したら、それをみたきちゃんの養護学校の先生に弾いてもらって、みたきちゃんがそれを覚えれば、十分キーボードとして通用する!
……でもそもそもみたきちゃんは学校の生徒じゃない。そこが問題だ。
「そうだみたきちゃん、今から制服を買いに行こう」
「……れこんきすた?」
「その征服じゃないよ、どこでそんな言葉覚えてきたのさ、今からならまだお店も開いているから行こう」
みたきちゃんと一緒に家を出て、服屋へと向かう。
服屋とは言っても、学校の制服等を専門に売っている場所だ。
ここには僕の通っている中学校の制服だって売っている。
「わあみたきちゃん、すごく似合うよ、可愛いよ」
「えへへ、わたしちゅうがくせい?」
「うん、中学生」
試着室から出てきた、中学の制服に身を包んだみたきちゃんは新鮮で実に可愛らしい。
この姿は、みたきちゃんのもしもの姿。
みたきちゃんがもしも普通に産まれていたら、迫害されることも、石を投げられることも、なかったのだろう。
でも、僕と出会うことも無かったのだろう。複雑な気分だ。
とにかく制服さえ着てしまえば、うちの生徒だと言い張れる。
制服姿で学校に潜り込ませれば、万事解決だ、多分。
「というわけで、練習開始!」
「れんしゅーかいし!」
「何普通に外部の子を連れてきてるのさ……」
翌日の放課後、制服に着替えさせたみたきちゃんを校内の空き教室に連れ込んで、音楽室からドラムとキーボードを借りてきて、そこにエレキギターを持ってきた六月六日さんも呼んでバンドの練習開始。
とりあえず30分程、自由に練習させる。
六月六日さんは演奏技術を高めるために、自分の好きな洋楽の演奏にチャレンジしている。
みたきちゃんも養護学校で覚えたであろうクラシックを弾いている。この調子なら、一か月もあれば学生の演奏としては十分な技術が身に着くことだろう。
僕もドラムをテンポよく叩く。
「下手」
「へんなりずむ」
「!?」
ところが六月六日さんもみたきちゃんも、僕のドラムテクニックを貶すのだ。
「うるさいな、練習するなら文芸部部室から離れたところでやってよ、音が漏れる……ていうかドラムやってる人誰? リズム感なかったけど」
「あ、赤石さんまで……」
近くの文芸部室から文句を言いにやってきた赤石さんにまで言われてしまう。
「はっきりいってさ、ドラムって楽器の中でもかなり簡単な方だよ?」
呆れる六月六日さん。自分ではリズム良く叩けていたと思うのだけど……
「ま、まだ1ヶ月あるし、大丈夫だよ」
「センスの無さを努力でカバーできるのかしら」
「僕にセンスがないっていうの?」
「昔カラオケ行った時お世辞で褒めたけど、内心下手だなと思ってたよ」
「今それを言う必要ある!?」
赤石さんは昔の事まで持ち出して僕を攻撃する。酷い、酷過ぎる。
「みたきちゃーん」
追い詰められた僕はみたきちゃんに助けを求めるも、
「だいじょうぶ! あたるくんのぶんも、わたしがんばるからね!」
「僕を戦力として認識していない!?」
三人の女の子に僕の音楽センスを否定されて、僕の精神はボロボロだ。
しかし、ここで挫折してはいけない。
認めさせてやる、僕のセンスを彼女達に認めさせてやる。
クラスメイトに認めさせるためにも、彼女達に認めさせるためにも、僕は一層努力することを決意した。
「そういえば、バンドの名前を決めてなかったね」
「名前なんていらないでしょ、別に。夏休み前に演奏したらバンドは解散するんでしょ? それとも本格的に活動するつもり?」
「いやいや、名前って大事でしょ。名前が無かったら皆の印象に残らないよ」
「そんなもんかねえ」
本日の練習を終えた後、楽器を片づけながらバンドの名前を決めなければと六月六日さんに提案する。
「じゃあ僕が決めるよ」
「でも高下君ネーミングセンス無さそうだからなあ」
「何でさ……」
音楽のセンスが無いからと言ってネーミングセンスもないだなんて、酷い偏見だよまったく。
「わたしのなまえは、たにぐしみたきです!」
「よく言えましたみたきちゃん。そうだ、六月六日、高下、赤石、谷串……メンバーの頭文字を取って、えたあたなんてどうだろう」
みたきちゃんの頭を撫でながら、頭文字の発想に至る。現実のバンドにもそういうグループはいるし、何よりメンバー全員でやってます感があっていいよね。
「さりげなく私をメンバーに入れないで」
「作詞作曲してくれるんだから、立派なメンバーでしょ」
「……帰る」
なんだかんだ言って練習を最後まで見学していた赤石さんにそう言うと、帰られてしまった。照れてるのかな?
「発想は悪くないかもしれないけど、もう一捻り欲しいかなあ私は」
「名前なんてどうでもいいんじゃなかったの? でももう一捻りか……」
もう一捻り。えたあたというメンバーの頭文字をとっただけの言葉に、何か意味を持たせたい。
「『エターナル・アタック』なんてどうだろう」
エターナルアタック略してえたあた。直訳すると永遠の攻撃だ。
辛い境遇にも負けずに立ち向かって行く僕達にふさわしい名前じゃないか。
「高下君、君ってやつは……よくもまあ恥ずかしげもなくそんな名前考えるね。でも……いい名前じゃないか」
「えたーなるあたっく! えたーなるあたっく!」
六月六日さんは呆れながらも笑う。みたきちゃんも語感が良かったのか連呼している。
こうして、エターナルアタックは1か月後に向けて、猛特訓を開始するのだった。主に僕が。




