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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
中学校1年 こんにちは赤石さん(文学少女)
32/107

わらえよ赤石さん

「なので、ここの答えは23xとなります」


 数学の授業で、先生に当てられた赤石さんはハキハキと喋る。


「赤石さんってあんな声だったんだ」

「結構綺麗な声してるよねー」


 その後の休憩時間中、トイレに行く途中でクラスメイトのひそひそ話を聞く。カラオケの成果は着実に出ているようだ。


「でもやっぱり何か暗そうで近寄りがたいよねー」

「いつも本ばっかり読んでるしねー」


 しかしまだまだ課題は残っている。





「というわけで、赤石さんの評判をなるべく集めてきたよ」

「えっ気持ち悪い」


 この日は赤石さんの評価を知る事に一日を費やし、放課後に部室でその成果を赤石さんに見せつける。

 赤石さんは僕に引いているようだが、これも赤石さんのためなんだ、わかって欲しい。


「髪型が地味、本ばかり読んでる、不機嫌そう……こんな感じだったよ」

「予想はしていたけど、やっぱり傷つくね」


 周りの人間の自分へのイメージを聞いてうなだれる赤石さん。


「大丈夫、時間はたっぷりあるんだから。今日は……笑う練習をしよう」

「失礼な。僕は普通に笑えるよ、ほら」


 言うや否や口元をにやけさせる赤石さん。僕はそれを最近買ってもらった携帯電話のカメラで撮る。


「はい、これが赤石さんの笑い顔だよ」

「……ははは、微妙」


 今まで自分の笑った顔なんて見たことがなかったのか、携帯電話に映し出された自分の笑い顔を見て、今度は苦笑い。


「なんて言うか、作り笑いすぎて不気味なんだよね」

「今日の高下君は的確に僕の心を抉るね。で、僕はどうすればいいの?」


 赤石さんに聞かれ、待ってましたとばかりに僕は一束の原稿用紙をカバンから取り出す。


「これを読めば、赤石さんも笑うのが得意になるよ」

「何それ」

「僕の書いたコメディー小説だよ」

「……じゃあ、僕用事あるから帰るね」


 呆れて部室を出ようとする赤石さんを引きとめる。


「まあまあ待ってよ赤石さん。僕が思うに赤石さんは日常で面白くて笑うって経験があんまりないから笑うのが苦手なんだよ。そこで僕の書いたこのコメディー小説を読むことで、大爆笑して体が笑い方を自然に覚えてくれるってわけ」

「君は何気に自信家だね……いいよ、そこまで言うなら読んであげるよ」


 ため息をついた後、赤石さんは僕の自信作を読み始める。





 ひじをつきながら僕の小説を読む赤石さんを、僕は向かい側で目をキラキラさせながら様子を伺う。

 さあ、まずは序章だ。主人公がヒロインと出会うシーンは涙あり、笑いありのシーン。

 わらえよ、赤石さん!


「……」


 しかし何故か赤石さんはクスりとも笑わずに、それどころかこめかみをぴくつきながら読んでいる。

 おかしいな、そろそろ中盤にして抱腹絶倒間違いなしの魔王が復活するシーンなのに。

 赤石さんはプルプルと震えている。そうか、笑いを我慢しているんだな。

 でも大丈夫、ここには僕と赤石さんしかいないんだから、思う存分笑っていいんだよ。

 終盤のどんでん返しのシーンに差し掛かる。ここは予想しなかった展開も合わせて顎が外れるくらい笑ってくれるはず。作者の僕ですら読み返して顎が外れたのだから。

 だが赤石さんはとうとう笑うことなく、読み終えた原稿用紙を机に置いてこちらを向き、


「高下君、笑いのセンスないよ」


 真顔でそう言うのだった。


「あ、あはは、面白い冗談だね赤石さん。赤石さん笑いのセンスあるよ」

「いや本当につまらなかった」

「……」


 そんな馬鹿な、赤石さんの頭はどうなっているんだ、実は人間じゃなくて機械なんじゃないか。あの話で笑わないなんて。

 自信作を酷評され、気まずくなった僕は逃げるようにカバンを手に取り部室を出ていく。




 とぼとぼと僕が帰っていると、猫を撫でて遊んでいるみたきちゃんを発見。

 そうだ、みたきちゃんに僕の作品を読んでもらおう。きっと笑ってくれるはずだ。


「みたきちゃん、今から僕の部屋来ない?」

「うん! いく!」


 そのままみたきちゃんを僕の部屋に連れ込んで、みたきちゃんに原稿用紙を渡す。


「これ読んでみてよ」

「うん! よむ!」


 みたきちゃんもかなり文字を読めるようになったし、割とシンプルな構成にしたつもりなのでみたきちゃんでも理解ができるはずだ。みたきちゃんが笑ってくれれば、赤石さんが笑わなかったことを差し引いてもプラスマイナス0。僕に笑いのセンスがないという仮説は棄却されるはずなのだ。



「……どうして、ないてるの?」


 数十分後、クスリとも笑わずに僕の小説を読破したみたきちゃんの前で僕はわんわんと泣く。

 みたきちゃんも笑ってはくれなかった! 赤石さんの言うとおり僕に笑いのセンスなんてなかった!

 僕はみたきちゃんから原稿用紙を取り上げると、ぐしゃぐしゃにしてゴミ箱に捨てる。

 こんなもの、独りよがりな駄作でしかない!


「ごめんね、みたきちゃん。こんなつまんないお話読ませちゃって。お詫びと言っては何だけど、思いきり笑わせてあげるね」


 僕はみたきちゃんをベッドに押し倒すと、脇の辺りを思い切りくすぐる。少しだけパワーアップしたお医者さんごっこだ。


「あはは、くすぐったいよあたるくん、あはは」

「この、もっと笑えよ、笑えよ!」


 何がお詫びだ。僕はみたきちゃんに八つ当たりしてるだけじゃないか。

 けれど僕はその手を止めることができず、結局みたきちゃんを気絶するほど責めてしまうのだった。




 翌日。


「おはよう」

「……」


 教室へ行き、机に座っていると赤石さんが入ってきて僕に挨拶をする。

 けれど僕は挨拶を返すことができなかった。折角赤石さんが頑張って挨拶するようになったのに。

 でも気まずいじゃないか。昨日あれだけ僕のセンスを否定されて。

 そんな感じでアンニュイに授業を受けていると、数学の授業で女性の先生に当てられる。


「ここの問題を、じゃあ高下君に」

「はいお母さん」


 一瞬にして凍りつく教室。

 やってしまった。中学生にもなって先生を母親と間違えるなんて。

 少しして教室からくすくすと笑い声が聞こえる。

 小学校の頃だったら爆笑だが、中学校ともなれば少しは気を遣って笑わずにいる子もいるのだろう。




「ぷっ……あはは、あはははは!」


 そんな中、僕に気を遣うことなく大爆笑する女の声。

 酷いなそんなに笑うことないじゃないかと声の方を振りかえる。


「あはは、あはははは、ひー……ひー……」


 そこには赤石さんが普段のイメージからは全く想像もつかないくらい笑っていた。

 ひとしきり笑った後、今は授業中であることに気づいて赤石さんは顔を真っ赤にし、うつむく。




「赤石さんってあんな風に笑うんだ、意外だよね」

「ちょっととっつきにくいと思ってたけど、話すと結構面白い人なのかも」


 次の休憩中、クラスメイトの女子の会話を盗み聞きしながら、赤石さんのイメージはまた改善されたと心の中でガッツポーズ。

 僕はものすごく恥をかいたけどね!

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