そうでしょ赤石さん
「いまね、まんがかいてるんだよ」
「それはすごい。完成したら読ませてね」
「うん!」
みたきちゃんみたいな子は芸術の才能に特化しているケースもある。
お世辞でもなんでもなく、本心から早くみたきちゃんの描いた漫画が読みたい。
そして赤石さんの書いている小説も早く読みたい。
「ねえ赤石さん、まだ完成しないの?」
「……人に読ませるのは始めてだから。何か、意識しちゃって、完璧主義なの」
「なるほど」
平日の放課後、部室にある本を読破しても赤石さんの小説は書きあがらない。
暇だから、僕ももう1作新作を書いてみよう。今度は赤石さんを満足させられるような話にしよう。
どんな話にしようかな、好きな子をいじめちゃう話にしようかな、それとも美少女にストーカーされちゃう話にしようかな。
……いや、あんまり女の子に見せるべき題材じゃないな。
みたきちゃんでもすんなり読めるような、当たり障りのない話にしよう。
うーん、でも自分の考えも少しは小説で表現したい。
叩かれるのを覚悟で書きたいものを書くか、叩かれたくなくて大衆に迎合した作品を書くか、作家というのも色々大変なんだな。
みたきちゃんと僕がただひたすらいちゃいちゃするだけの小説を途中まで書いて虚しくなってしまった頃、赤石さんの小説は完成した。
「……できた。読んでみて」
原稿用紙の束を手渡される。僕の書いた文量の倍以上ありそうだ、大作だなあ。
早速僕は読んでみる。うわ、ほとんどが台詞だった僕の小説とは大違い、描写が多いや。
ふむふむ、主人公は内気な女の子か。
友達が作れずに寂しい毎日を送っていたが、ある日本屋さんで一人の男とぶつかる。
男は同じ学校でも有名なイケメンであった。主人公は男に恋をするが、自分よりもっと可愛い女の子が告白してフラれているのに、恋をするだけ無駄だとその恋心を無理矢理封じようとしてしまう。
しかしある日、男の方から告白される主人公。
自分みたいなのが告白されるわけがないと思った主人公は、「どうせ罰ゲームなんでしょ」と男の告白を認めない。
しかしあの手この手で主人公にアプローチする男にとうとう主人公は折れてしまう。
男と付き合いだす主人公であったが、自分は男とは不釣り合いだと常に劣等感を抱いてしまう。
追い打ちをかけるように、男を狙っていた学校の女の子達に嫌がらせを受ける日々。
そのことを男に打ち明けることもできず、ひたすら耐え忍びながらも主人公の精神はすり減っていった。
そんなある日、たまたま読んだ自己啓発書に書いてあった『自分を変えよう』というフレーズに感化されて、主人公は自分自身の魅力を高めるために努力をする。
性格も明るくなり、外見も美しくなり周りにお似合いのカップルと言われるまでになった彼女は、気づけば友人もできて楽しい毎日。
今の自分があるのは君のおかげだと男にキスしてハッピーエンド。めでたしめでたし。
割と王道的なストーリーながら赤石さんの文章力の賜か、男の僕でもすらすら読めて女性主人公に感情移入だってできてしまう、僕のような素人がどう褒めればいいのかわからないけれどとにかく良くできた作品だと感じた。
そして僕は彼女の小説を読んで、疑惑が確信に変わる。
「とても面白かったよ、それはそうとさ……」
赤石さんに原稿用紙の束を返した後、
「赤石さん、友達作りたいし恋もしたいんだよね」
彼女を真っ直ぐ見つめて、僕はそう言い放つ。
途端に彼女は受け取った原稿用紙をバラバラと床に落としてしまう。
「いきなり、何を言うかと思えば」
原稿用紙を集めながら赤石さんはこちらを怪訝そうに見る。
「この部室にある小説って、友達のいない、彼氏のいない女の子が友達や彼氏を手に入れるサクセスストーリーばかりじゃないか。赤石さんの書いた小説も似たような内容だったし。こういうのって、本人の願望が如実に表れるっていうしさ。そうでしょ、赤石さん?」
畳み掛けるように僕は推理を披露する。
赤石さんは原稿用紙を集め終わった後こちらを向き、
「そうだね、君の言うとおりだ」
僕の推理が当たっていた事を認める。
「……で? だからどうしたんだい?」
赤石さんは不機嫌そうにこちらを見て、忌々しく呟く。
「僕に友達もいない寂しい女だって認めさせて、優越感に浸りたいのかい? それとも同情心から友達にでも、あるいは彼氏にでもなってくれるのかい? おあいにく様だけど、そんな同情心いらないよ」
「違うよ、僕はただ」
赤石さんに友達や彼氏ができるようにお手伝いしたいと思っていたのに、
「違わないでしょ? 知的障害者と付き合ってる高下君。僕がまともに他人とコミュニケーションが取れないから優しくしようと思ってるんでしょ、知的障害者に同情で付き合うみたいにさ」
赤石さんにみたきちゃんの事を言われて、僕は一気に怒りに支配される。
「……取り消しなよ、赤石さん。僕は同情でみたきちゃんと付き合ってるわけじゃないんだよ」
気づけば僕は赤石さんの胸倉をつかんでいた。
「……悪かったよ、取り消すよ」
赤石さんがバツが悪そうな顔をする。もう少しで僕は赤石さんに手をあげるところだった。
「赤石さん、友達作ろうよ。僕も手伝うからさ」
落ち着いた僕は改めて赤石さんに告げる。
「高下君がいれば、他には何もいらないよ」
「えっ、いや、僕にはみたきちゃんが」
赤石さんが顔を赤らめてそんな事を言う。ドキッとして僕はあたふたとしてしまう。
「なんてね、冗談だよ。高下君正直タイプじゃないし」
「……意外とお茶目なんだね赤石さん。そういうのをもっと前面に押し出しなよ」
タイプじゃないって言われて正直ショックを隠せない。
「僕みたいな根暗で不細工、友達なんてできるはずないんだよ。高下君みたいな物好きでもなければね」
「またそうやって自分を卑下して」
「じゃあ僕可愛い?」
「えーと……」
言葉に詰まってしまう。スタイルも貧相だし、声はぼそぼそ声だし、お世辞にも可愛いとは言えない。
「そこは嘘でも可愛いって言うべきだと思うけどね。とりあえず今日は僕は帰るよ」
それじゃまたね、と赤石さんは部室を出て行く。
……赤石さん、今日はよく喋ったなあ。
ともかく、僕は赤石さんの友達作りに協力することにした。




