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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
小学校 みたきちゃん係(知的障害)
3/107

みたきちゃんを男子トイレに連れこんだ

「おはよう、みたきちゃん」

「おー、はお!」


 有言実行。僕はその日の朝、彼女の家まで彼女を迎えに行く。

 彼女は家の前で草を食べていた。草を吐かせて学校へと一緒に向かう。

 草って美味しいんだろうか。今度こっそり僕も食べてみようと思った。



「お、高下! おーい!」


 学校へと向かっていると、後ろから男が走ってくる。


「おはよう、山本」


 僕はそいつに挨拶をする。1~4年まで一緒のクラスだった友人、山本だ。


「いやー高下と違うクラスになって残念だぜ。お、早速女と登校かよ」


 山本は僕を茶化す。それに反応したのかみたきちゃんが、


「お、はお!」


 と元気よく挨拶をする。しかし山本は顔をひきつらせ、


「げ、こいつ……あ、俺急いでるから先行くわ、じゃな」


 と走って学校に行ってしまう。日直でもあるのだろうか。





 やがて僕達も自分のクラスにつき、みたきちゃんを席へ座らせる。

 みたきちゃんはカバンから鉛筆を取り出すと食べ始めた。

 ……実は僕も鉛筆を噛む癖があった。

 僕と彼女は相性がいいのかもしれない。そんな事を思っているうちに彼女は机に鉛筆を吐きだす。僕は持っていたティッシュでそれを掃除してやった。

 教室に一人の男…3~4年で同じクラス、今回も同じクラスになった友人が入ってくる。


「おはよう」


 そいつに挨拶をするが、


「……」


 何も返してくれない。




 そして授業が始まる。授業中もみたきちゃんは落ち着かず、奇声を発したり突然寝たり、これでは学校に来る意味があるのだろうか。

 1時間目の授業が終わった後、我がクラスの委員長……御堂さんが僕の机までやってくる。


「高下君、ちゃんとみたきちゃんをしつけてください」

「しつけるって」


 ペットじゃあるまいし、御堂さんはみたきちゃんを何だと思っているのか。


「授業中に騒いだりしないようにするのが、みたきちゃん係のあなたの仕事なんです」


 なるほど、係の仕事か。しかし、


「聞いた話じゃ御堂さん、1年から4年まではみたきちゃん係だったそうじゃないか。君はその間何をしてたんだい? ちゃんと係の仕事をしていたのかい?」


 どうも御堂さんとみたきちゃんは1年から4年まで同じクラスで、今まで押し付けられる形で御堂さんが係をやっていたらしいが、4年も同じ仕事をしていて彼女をしつけることができなかったのに、僕に1年でどうしろと言うのか。


「……」


 御堂さんは目に涙を浮かべて、無言で教室を去っていく。


「ちょっと高下君酷いんじゃないの」

「サイテー……」


 そして僕はクラスの女子から悪者扱いされてしまったようだ、理不尽な話である。




 お昼ご飯の時間。僕の学校の給食は班ごとに机を寄せて食べる。

 僕のクラスは30人。多分6人班×5グループになるのだろうと思っていた。


 しかしそうではなかった。

 僕とみたきちゃんの机からなるべく離れるように、皆が机が寄せていく。

 気づけば4人班×7グループと、僕とみたきちゃんという形になっていた。

 勝手に班の数を増やしては駄目だと思ったが、教員机に座っている担任の先生は何も言わない。

 何故こんなことになるのか当時の僕には理解できなかった。

 何だか心がもやもやするが、なるべく考えないようにみたきちゃんが給食を食べるのを手伝うことで現実から目を背けようとしていた。




 お昼ご飯を食べおえて小学生には嬉しい大休憩。

 みたきちゃんの分も食器を片づけると、クラスのリーダー格の男子が外で鬼ごっこをしようと言い出す。

 僕もそれに混ざろうとするが、

「高下は駄目だ」

 と言われてしまう。理由が僕にはわからなかった。

 仕方がないので教室で席をくっつけたまま、みたきちゃんに絵本でも読んであげることにする。

 醜いアヒルの子は白鳥になりました、めでたしめでたし。

「……おい、こ」

 みたきちゃんがそんな事を言いだす。おいこって何だろうか。

 見るとみたきちゃんはちょっと下半身をくねくねさせている。ああ、これはおしっこだ。

 僕はみたきちゃんを女子トイレの前まで連れていく。この分だと彼女は一人でトイレもままならないのだろう。しかし男の僕が彼女と一緒に女子トイレに行くのはまずい。そこらへんを歩いていた同じ学年の生徒にお願いするも、


「絶対嫌です」


 と断られてしまった。諦めて僕は彼女を男子トイレに連れ込む。




 個室で彼女のスカートとパンツを脱がせて洋式に座らせる。何とか間に合ったようだ。


「じょー」


 何とか漏らすなんてことにはならずほっと一息。しかし毎日のようにこれでは流石の僕も気が滅入る。今回は小だったからいいものの大だったら僕も嫌だ、先生に頼まざるをえない。

 御堂さんの言うとおりちゃんとしつけはした方がいいのかもしれない。僕は彼女が用を足している最中に催してきたらきちんと自分でトイレに行く事だと言い聞かせてみる。1回では効果はないだろうけど、何回かやっていればそのうち彼女も覚えるだろう、きっと。



 きちんと手も洗わせて男子トイレから出ようとする。


「……おい高下、お前何やってんだ」


 そこで山本と鉢合わせになった。


「何って、みたきちゃんがトイレだって言うから。女子トイレは流石に入れないしね」


 そう言うと、彼は何やら考えているようだ。やがて口を開いた彼は、


「高下。俺はこれでもかなり寛容な人間だと自負しているが、周りはそうではないと思っている。悪い事は言わない、これからこういう事をするんだったら、遠くのトイレ……移動教室用の4階のトイレに行くことだな」


 そう言ってトイレの中に入っていく。

 当時の僕はやはり幼かったので、ほとんどの生徒がみたきちゃんが使った後のトイレなんて使いたくないと思っていることが理解できなかった。山本は今思えばすごくいい奴だった。




 昼休憩も終わり、5時間目の国語の授業が始まる。

 右隣の席の女の子が消しゴムを落としたので、僕はそれを拾って彼女に手渡そうとするが、


「……もうそれいらない。高下君にあげる」


 と言われた。しかし僕にこんな女の子の使う、苺の匂いのする消しゴムは似合わない。

 後ろでお絵かきをしているみたきちゃんにあげることにしようと考えたが思いとどまる。

 苺の匂いのする消しゴムなんてあげたらまず食べるからだ。





 そして帰りの会がやってくる。

 何事もなく終わると思ったが一人の女子が、


「今日高下君が御堂さんに酷い事を言って泣かせました。謝ってください」


 と僕を吊し上げる。他の女子も謝れ謝れと僕を責めたてる。責めたてないのはみたきちゃんくらいなもんだ。

 こうなってしまったら勝ち目はもうない。僕は立ち上がって、


「御堂さん、酷い事言ってごめんなさい!」


 と誠意を見せる。御堂さんは、


「……いいの。本当は、私が悪いってわかってるから」


 と力無く言った。




 そして昨日と同じくみたきちゃんを家まで送り届けるために一緒に帰る。


「らんで、あらまったの?」


 みたきちゃんが不思議そうに僕を見つめる。何で謝ったの?と言っているのだろう。


「僕が御堂さんに酷い事を言って泣かせたからね」

「……わらしあのりとだいひらい!」


 私あの人大嫌い。そう言って彼女は突然暴れだす。偶然にも昨日もこの辺りで彼女に暴れられたな。

 そして昨日と同じく僕は馬乗りにされてしまった。つくづく僕も学習しない人間だ。


「あのりと、すぐにわらしおいてった!」


 あの人、すぐに私置いてった、だろうか。

 彼女はそう言って泣き出す。口からこぼれた涎が僕の口に入り込んでしまった。

 当時の僕はそれをばっちいとも何とも思わなかったのだから、余程の聖人か変態なのか。



 彼女を何とかなだめて家まで送り届け、僕も家に帰る。

 母親に、クラスメイトの態度が何だかおかしいと今日の出来事を話すと、


「……みたきちゃんと仲良くするならあなたは友達を無くすわ。それでもいいの?」


 と言われた。

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