みたきちゃん係卒業
2月に入ってすぐ、僕の受験したくさなぎ中学の合格発表。
僕はみたきちゃんを連れて、中学の合格発表の掲示板の前に来ている。
「あたるくんは、なんばん?」
「392だよ」
「392、392、あ、あった!あったよ!」
みたきちゃんにフライングで見つけられてしまったようだ。
みたきちゃんの指差す方を見てみると、確かに僕の受験番号は合格者の欄に乗っている。
「ばんざーい!ばんざーい!」
「ちょ、ちょっとみたきちゃん」
みたきちゃんは僕を抱きかかえて高い高いをする。いやいや、これマジで恥ずかしいって。
「えへへ、ごうかくおめでとう!」
まるで自分の事のように喜ぶみたきちゃん。
とりあえずは、これで僕の進路も決まったわけで。
さあ、残り限られた時間、うんとみたきちゃんと遊ぼう。
2月13日、バレンタインデー前日。
「あたるくん、ばれんたいんのちょこはだんしきんせーなんだよ」
そう言ってみたきちゃんは僕を遠ざけます。
一体どんな物体を食べる羽目になるのか正直怖かったけれど、翌日みたきちゃんを疑った事を後悔します。
「はい、はっぴーばれんたいん」
みたきちゃんが作ってくれたチョコレートは普通の手作りチョコで、すごく美味しくて。
「あと、これもあげる!」
「ありがとみたきちゃん。って合格祈願は遅いよ」
初詣の時にこっそり買っていたようで、合格祈願のお守りももらっちゃいました。
きっとみたきちゃんがこのお守りを僕のために買っていたから、合格したんじゃないかと思ってます。
3月14日のホワイトデー。
高級チョコを買うのもアリだけど、折角みたきちゃんが僕のために手作りでチョコを作ってくれたのだから、僕も手作りチョコに挑戦。
無駄な完璧主義が災いしたのか功を奏したのかはわかりませんが、1週間前からチョコ作りの練習を始めて味も形も申し分のないチョコレートができました。
当日の放課後に、僕はみたきちゃんにチョコの包みを渡します。
「みたきちゃん、はい。バレンタインのお返しだよ」
「えへへ、あたるくんありがと。さっそくたべていい?」
「うん」
みたきちゃんがチョコの包を開けると、そこにはハート型のチョコレート。
自信作です。ただ、
「はい、はんぶんこ」
予想はできていました。みたきちゃんがハートを真っ二つにして半分を僕に寄越すのは。
それでもいいんだ、みたきちゃんが喜んでもらえるのなら。
そして、とうとうやってきました。
卒業式。僕達6年生は、小学校を卒業するのです。
当日の朝、僕は布団でガタガタと震えていました。
「いやだ、行きたくない、行きたくない」
まるで子供のように、熱を出したんだと親に嘘をついてまで、卒業式から逃げ出そうとしていました。
けれど、卒業式に出なければ卒業しないというわけでもないのです。
「あたるくーん、きょーはそつぎょーしきだよ」
迎えに来ないので心配して僕の家まで逆に迎えにきたみたきちゃん。
「おはようみたきちゃん。……そうだね、卒業式には、出ないとね」
心にもやもやを抱えながら、みたきちゃんと学校へ。
「ああーすばらしきーひかりにーみちたー」
校歌を歌いながら涙を流すクラスメイト。こいつらはきっと自分に酔っている。
卒業文集の寄せ書き、僕はクラスメイトに『おめでとう』しか書けませんでした。
結局僕とみたきちゃんは、クラスから孤立したままでした。
僕にもっと力があれば、みたきちゃんを受け入れられるようにすることもできたのだろうか。
済んだことは仕方がないし、みたきちゃんはそれなりに楽しそうな2年間を過ごせたと僕は思っている。
問題はそこではなく、もう僕はみたきちゃん係ではなくなるという事だ。
「以上を持ちまして、卒業式を閉会いたします」
残酷にも時間は過ぎて、気が付けば僕とみたきちゃんはいつものように二人で帰り道を歩いていた。
「あたるくん、そつぎょーおめでと!」
「そうだね」
「あたるくん? なんだかかおいろわるいよ?どうしたの?」
みたきちゃんに心配される僕の顔は、絶望に歪んでいたことだろう。
もう僕とみたきちゃんの接点は無くなった。
僕はみたきちゃんを好きだ。けれど、みたきちゃんにとって僕はきっと世話役か、仲の良い友達でしかないのだろう。
中学にあがれば、養護学校の職員が代わりにみたきちゃんの世話をするだろう。
同じくみたきちゃんのような子と、仲良くなるだろう。
そして僕の事は忘れていくんだ。
「俺達、中学別々でも一生友達だからな!」
「ああ!」
同じく卒業した男子二人が、そんな事を言っている。
ははは、お前らの友情なんてすぐに崩れてしまえ。
とうとう辿り着きました。みたきちゃんの家です。
遠足は家に帰るまでが遠足。
みたきちゃん係は、卒業式の後、みたきちゃんを家に送り届けるまで。
「みたきちゃん」
「どうしたの、あたるくん」
みたきちゃんの家の前で、僕はみたきちゃんを真正面から見つめて、
「好きです」
告白したのだ。
「わたしもすきだよ?」
みたきちゃんは顔を赤くしてそう返すけれど、きっと意味が違う。
「それじゃあ、さよなら」
僕は自分の家の方向へと向き直り、逃げ出そうとしました。
「まって、こっちむいて」
それを引き留めるみたきちゃん。僕が彼女の方へ振り向くと、
「んっ……」
柔らかくて、優しい感触。
みたきちゃんと僕はキスをしていたのです。
突然の事に僕は固まってしまい、何もできずにみたきちゃんにキスをされるがまま。
唇を離したみたきちゃんは、
「またね」
僕にニッコリと笑うと、家の中に入って行きました。
家に帰った後、僕は自室の中で幼子のように泣きじゃくる。
もうこれで、みたきちゃんとはお別れなんだ。
一緒に学校へ行くこともできない。
学校でみたきちゃんと一緒にいられない。
一緒に学校へ帰る事もできない。
「うっ、うあああっ、ああああああっ!」
まるで自分がみたきちゃんにでもなったかのように、狂乱する。
春休み、僕は引きこもっていました。
外に出たら、みたきちゃんと出会うんじゃないかと思って、それが怖くて。
けれど、今日は中学校の入学式。折角頑張って合格したのに、学校へ行かないというのはよくないだろう。
例え新しく友達もできて楽しそうにしているみたきちゃんをどこかで見る羽目になっても、外へ出ないといけないのだ。
制服に着替え、親の作ってくれた朝食を食べながら、そろそろ家を出ないとなと暗い表情でいると、
ピンポン、と家のチャイムが鳴った。
玄関に一番近かった僕は応対するために扉を開ける。
そこには、
「おはようあたるくん。きょーからちゅーがっこうでしょ、とちゅうまでいっしょにいこ!」
養護学校の制服に身を包んだみたきちゃんがいて。
「うん……うん」
「どうしてなくの?」
僕は気づいたらポロポロと涙を流して、彼女を抱きしめていました。
「ねえねえ、このせーふくどう?」
「すごく可愛いよ」
「えへへ」
同じ学校じゃなくなったけど、いつものように僕達は通学路を歩く。
「あ、ここがわたしがかようがっこうなんだ」
「ちゃんと先生の言う事聞くんだよ」
「うん!またね!」
僕の家から中学へ至る道のりにある、みたきちゃんが通う養護学校の前で彼女を見送る。
学校は違うけれど。
もうみたきちゃん係じゃないけれど。
まだまだ僕とみたきちゃんの関係は続きそうです。
小学校編完。
正直6年生のあたりからその場のノリで書いていたので
どうなのだろうか。




