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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
小学校 みたきちゃん係(知的障害)
20/107

みたきちゃんと1年生

 夏休みが終わって、2学期が始まった。

 みたきちゃんは今年も宿題をきちんとやってきたし、朝顔もきちんと育てた。

 ……僕は朝顔を枯らせてしまった。偉そうな事を言っておいて。



 さて、今日は僕達のクラスは1年生の教室へ行くことになっている。

 6年生が1年生に先生役として勉強を教える、というものだ。

 割と真面目な僕は事前に授業の台本などを作っておいたが、それが活かされることはなかった。




「あーせんせーがきた!」

「みんなすわれー!」


 僕やみたきちゃんを含めた班が1年生の教室に入るなり、やかましい音に思わず耳を塞いでしまう。

 何だこの騒々しさは。1年生って、こんなにうるさかったのか。

 僕は率先して教壇に立ち、挨拶をする。


「今日は僕達が先生の代わりに勉強を教えます。よろしくお願いします」

「「「よろしくお願いします!」」」


 前にいる、30人前後の子供達が一斉に挨拶。

 彼等は僕達上級生をキラキラとした目で見ている。

 どちらかというとあがり症な僕はもうこの時点でばくばくだ。

 教室のドア付近にいる他の班員に助けを求めようとするも、みたきちゃんはあまり戦力にならないだろうし、後の班員は実に面倒くさそうな顔をしている。

 孤軍奮闘するしかないのか……と諦めて、まずは算数の授業をする。



「では、ここの問題を誰か」

「はい! はい! はい」

「はーい!」

「オーレーオレオレオレ!」


 誰かに算数の問題を解いてもらおうとしたが、クラス中のほとんどが手を挙げて自分に当てろと主張してくる事態に、僕はびくっとなる。1年生って怖い。

 公平性のため、なるべく僕はたくさん問題を出して積極的に手を挙げる人間全員が解答できるように授業を行ったが、これじゃただ問題を出して解かせているだけで、良い授業とは言えないだろう。僕に教師の才能はないようだ。




 ようやく1時間目終了のチャイムが鳴り、休憩に入る。

 次は国語の授業だから準備をしようとしていたが、


「あそんであそんでー!」


 休憩時間が始まるや否や生徒に囲まれてしまう。これじゃ休憩できないじゃないか。


「たかい、たかーい!」


 みたきちゃんは1年生と波長があうのか、すぐに子供達の人気者になって一緒に遊んでいた。微笑ましいことだ。

 子供の相手はみたきちゃんに任せて、国語の授業の準備をする。


「おい高下、俺らちょっとトイレ行くから後よろしく」


 子供をウザそうに見ていた残りの班員が吐き捨てるようにそう言って教室から出て行った。多分帰ってこないだろう。

 仕方がない、担任は僕、副担任はみたきちゃんで頑張ろう。




「そんなおっさんはこのひ、こーしーしょっぷでぱへをたべながらひとをまっていた」

「ここのぱふぇはおいひい。このあいだいしゃにへんしょくもすぎるとたいへんなことになりますよといわれたが」

「なかなかまちびとがこないのでふたつめのぱふぇをつーもんした」


 2時間目、きっちりと国語の教材をクラス全員が均等に音読できるように分けて読ませる。

 ちょっとテンポが悪い。教育って難しい。




「かーえーるーのーうーたーがー」

「きーこーえーてーくーるーよー」「かーえーるーのーうーたーがー」


 3時間目の音楽の授業では輪唱をさせた。みたきちゃんもノリノリで歌っている。僕はもうあんなに大きな声で歌を歌えない。

 その後は縦笛でドレミの歌を演奏させる練習。みたきちゃんも自分の縦笛で楽しそうに演奏をする。

 ……そういえば、男の人は好きな子の縦笛を舐めるらしい。みたきちゃんの縦笛、唾液のいっぱいついた縦笛。

 ……待て、僕はそういえばみたきちゃんに出会って間もない頃、彼女の唾液を直接口に入れた事があるじゃないか。

 それを思い出して僕は急に恥ずかしくなる。授業中だと言うのに一体何をやっているんだ、僕は。





 そして4時間目の体育。


「まてまてー」

「にげろー」


 僕とみたきちゃんと、クラス全員で、校庭でケイドロ。

 ドロケイと呼ぶ地域もあるが、泥棒が警察より前にあるのは納得いかない。

 鬼ごっこの主役だって鬼なのだから、警察が前に来るべき。ドロケイは認めない。

 元気にはしゃぎまわる子供とみたきちゃんに比べて、僕は走ってすぐにばててしまう。

 若いって、いいね。




「「「いただきます!」」」


 最後は子供達と一緒に給食を食べる。

 1年生の給食って、こんなに小さかったのか。

 毎日のように食べていると、給食の量の変化というものはわからないな。


「はやくおおきくなりたい!」


 僕の隣の席にいる、小さな男の子が自分より大きな僕を羨ましそうに見てくる。僕もあまり背は高くないけどね。


「それじゃあ牛乳ちゃんと飲まないとね」

「うん! のみます!」


 男の子は牛乳をごくごくと飲む。

 子供達と会話しながらの給食。いつもみたきちゃんとだった僕にとって、すごく新鮮だ。





 1年生は基本的に4時間目で授業が終わる。

 給食を片づけた後、子供と一緒に掃除をして、


「今日はありがとうございました。みなさんさようなら」

「さよならー」


 教壇の上で僕とみたきちゃんがそう言うと、




「「「せんせいありがとうございました!さようなら!」」」


 大変だったけど、報われた感があるね。




「たのしかったね!」


 教師体験を終えていつものように僕とみたきちゃんは二人で帰る。


「僕は疲れたよ」


 教師なんて屑しかいない、と思っていた僕であったが、実際にやってみるとなかなか大変だ。

 とはいえど、僕はあの子達が数年もすれば、僕のクラスにいるような連中のようになるのかと思うと悲しくなる。

 今日教師体験をサボった班員だって、1年生の頃は無邪気で善意の塊だったはずなのに。

 どんな名教師がいたって、こればかりは仕方がないのだろう。

 年をとれば、そうなる。いつまでも無邪気なままではいられない。

 みたきちゃんのような子でもない限り。

 僕はみたきちゃんが羨ましいのかもしれない。自分が年をとるにつれて汚れていくからこそ、汚れないみたきちゃんが。


「ねーねー、わたししょうらいせんせいになりたいな」


 無邪気にそう言って笑うみたきちゃんに、


「なれるよ、きっと」


 僕も笑い返す。勉強は教えられないけれど、みたきちゃんから学ぶことは、いっぱいある。

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