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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
小学校 みたきちゃん係(知的障害)
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みたきちゃん係になりました

知的障碍者を差別する意図はありません。

また、作者の実体験を交えていますがこの話に出てくる「僕」と作者は別人です。ノンフィクション作品ではありません。

 何故か、僕は昔から孤独な女の子に惹かれていた。

 ぼっちな女の子、苛められている女の子、そんな子に、気付けば手を差し伸べていた。

 理由はよくわからない。孤独だからこそ自分に依存してくれることへの独占欲か。

 自分をメサイアか何かだと勘違いしているのか。

 周りに偽善者と呼ばれても、自分のやっていることは間違っていないと、自分に言い聞かせて生きてきた。

 これは、そんな僕の小学生時代の話である。




 僕の名前は高下中。ついさっき、小学校5年生になった男の子だ。

 小学校5年生になり、クラス替えが行われ、そこで皆に自己紹介をする。


「僕は高下中です。よろしくお願いします」 


 僕含めて皆が軽い自己紹介をする中、僕の後ろの女の子は、


「あー……たにぐし、みたきでしゅ……う……よろし……おねします!」


 と訳のわからない事を言い放つ。喋りが苦手なのだろうかとその子を見ると、目の焦点はあっておらず口は半開き、正直不気味だった。

 隣の席のクラスメイトがまたこいつと同じクラスかよ……と嫌味ったらしく言う。



 彼女は俗に言うところの知的障碍者であった。

 たまにいるのだ、養護学校ではなく普通の学校に入れたがる親が。



「それじゃあみたきちゃん係を決めましょう」


 自己紹介の後、クラスの委員を決めるホームルームで委員長が面倒そうに言う。

 みたきちゃん係、早い話がスケープゴート。

 あうあう言っている、一人で学校生活はおろか登下校すらままならない彼女の世話係だ。


「僕がやります」


 僕はそれに立候補。周りから拍手が巻き起こる。周りのポイント稼ぎをしたいわけではない。

 自分でも、理由はよくわからない。周りに比べて幼そうな、いや実際に幼いのだが、そんな彼女を可愛いなと思って、世話係なんて美味しい立場だと下心が入っていたのかもしれないし、単に母親に、人の嫌がることを進んでやりましょうと言われていたので素直にそれを守っていたのかもしれないし。

 とにかく、僕はみたきちゃん係となったのだ。





「みたきちゃん、というわけでこれからよろしくね」

「うー……あー……?」


 みたきちゃん係の仕事の内容を覚え、早速今日から彼女と下校。

 家も近かったので苦にはならない。女の子と一緒に帰るというのは周りにからかわれるものだが、この子の場合はそういうこともなかった。皆彼女を気持ち悪がっているのだ。

 僕が異常者なのか、皆が異常者なのか。当時の僕は皆はおかしいと思っていたが、今なら自分がいかに異常な人間なのかがわかる。僕は知的障碍者というものを過小評価していたのだろう。


「……はな!」

「そうだね、花だね」


 彼女が目を輝かせて、帰り道の土手に咲いている花を見つめる。男の僕は花には詳しくはないが、確かこれは蜜を吸えるタイプの花だったはずだ。花の蜜を吸う女の子っていいねえと思っていると彼女は、


「あむ……おえー」


 蜜を吸うどころか花を丸ごと1本引きちぎり、口に含む。そしてすぐに吐き出す。

 根っこの土のついた部分まで食べようとしたのだから当たり前だ。


「こらこら、汚いよ」

「みぎゃあああああ!」


 僕はたしなめるが、彼女は大声をあげて腕をぐるぐると回す。

 女の子のパンチなんて屁でもないよと思っていたけど予想以上に彼女の腕力は強い。

 後で知った話だが、知的障碍者というのは常時火事場の馬鹿力のような感じで、リミッターが外れているらしい。見た目は華奢な女の子だが、力はクラスで一番体格の良い男子よりも勝るだろう。

 更に彼女の恐ろしさは力だけではなく、何をするかわからないというところにもある。

 彼女は僕に体当たりをかまし、僕は情けなくその場に倒れこむ。彼女はそのまま僕に馬乗りになる。

 女の子に馬乗りされるというのは今思えばなかなか美味しいシチュエーションだったが、当時の僕はただただ恐怖を感じていた。


「うー!」


 そして彼女は僕の右腕に噛みつく。女の子に噛みつかれるというのは今思えばなかなか美味しいシチュエーションだったが、当時の僕はただただ恐怖を感じていた。


「痛い! 痛いってみたきちゃん! 僕は美味しくないよ!」


 彼女を引きはがそうとするが全然離れない。結局僕は数分間彼女に暴行を受けた。





「ばい、ばーい!」

「それじゃあみたきちゃん、また明日ね」


 生傷を負いながらも何とか彼女を家の前まで送り届ける。

 まあ、ばいばいと彼女からさよならの挨拶を受けただけでも報われたと考えよう。

 多分僕の名前は憶えられていないけど。

 彼女が家の扉を開けて元気よくたらいま!と言うと、女性が出てくる。母親だろう。


「おかえりみたきちゃん、学校は楽しかった? あら、あなたは?」


 彼女の母親は娘を抱きしめ、それから僕にも問いかける。


「はじめまして、高下中です。みたきちゃんのかか……いえ、友達です」


 本能的に、みたきちゃん係とは言わず友人だと言ったのは僕の危機管理能力だろうか。

 今思えばこの判断は間違っていなかっただろう。自分の子供は普通の子と変わらない、だからこそ普通学級に入れたのだ。そんな親にみたきちゃん係だなんて彼女を特別扱いするような単語を出すべきではない。


「あらあらまあまあ! みたきちゃんに早速友達ができたのね!よかったわねえみたきちゃん!」

「うー……れし!」


 親子の感動の抱擁をいつまでも眺めるべきではないだろう。

 僕はそれじゃあ明日の朝迎えにいきます、と彼女の家から去る。




 彼女の家から大体歩いて3分で僕の家につく。


「ただいま」

「あら、おかえり中。新しいクラスはどうだった?」


 僕が家に帰るとみたきちゃん同様に親が出迎えてくれる。

 僕は母親に今日の出来事を話した。僕の母親は毎日子供が学校でどんな事があったかを聞くのが好きなのだ。新しいクラスになって、その中にみたきちゃんという変な子がいたこと、その子の係になったこと。

 他人が嫌がる事を率先とやる僕を親は当然褒めてくれるものだろうと思っていたが、そうではなかった。

 母親の機嫌が悪くなるのがわかる。



「中、その子と関わるのはやめなさい」


 いつも優しかった母親が急に般若のような顔になる。


「でも、誰かがやらないといけないし、僕は家も近いし」

「だからってあなたがやる必要はないの、他の子に変わってもらいなさい」


 昔から人の嫌がる(勿論やりたくないという意味だ)事を進んでやりなさいと教えてきたはずの親がそんな事を言ってまで僕を彼女に関わらせたくない理由が子供の僕にはわからなかった。




 僕は丁度反抗期に入りかけていたのだろう。


「嫌だ。何で僕が彼女と仲良くしちゃいけないのさ」


 親を睨みつける。彼女を否定する母親が僕には醜悪な怪物に見えた。


「……いずれわかるわ」


 納得のいく理由を子どもに言う事ができなかったのか、言っても無駄だと諦めたのか、母親は機嫌が悪そうに夕飯の準備にとりかかった。

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