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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
小学校 みたきちゃん係(知的障害)
19/107

夏のみたきちゃん

「起立、礼」

「「「さようなら」」」


 これにて一学期は終了。今日から楽しい夏休みだ。面倒くさいことに今年は朝顔の観察を6年生にもなってしなければならないので鉢植えを持って帰らなければならない。




「なつやすみ、なつやすみ、ふんふふーん」


 帰り道、みたきちゃんは鉢植えを抱えて上機嫌そうだ。

 みたきちゃん、ちゃんと朝顔育てるんだよ。枯れさせたら駄目だよ?


「ねえねえ、なつやすみ、あそびにいこ?」


 みたきちゃんは横を歩く僕をキラキラした目で見つめてくる。そんな目をされたら断れないし、断る理由も特にない。


「そうだね。今日は暑いし、この後プールに行かない? ちゃんとお母さんの了承を得れたらだけどね」

「ぷーるいきたい! おかあさんにはなしてくるね!」


 みたきちゃんの家につくと、ちょっとまってて! とみたきちゃんは家の中に入って母親にプールに行っていいか聞きにいく。しばらくして、


「いいって! おぼれないようにきをつけなさいってさ!」

「……みたきちゃん、ここで水着姿にならなくてもいいんだよ」


 スクール水着姿のみたきちゃんが家から出てきた。気が早いにも程がある。





 その後みたきちゃんを私服に着替えさせて水着を持たせ、僕も家に教科書やら鉢植えやらを置き、水着とタオルをカバンに入れていざ近くの父高プールへ。


「子供二人」


 二人分の入場料1000円を支払い中へ。父高プールは、みたきちゃんでも入れる。




「えへへ、みずぎー」


 更衣室で別れて水着に着替えてみたきちゃんを待っていると、再びスクール水着姿のみたきちゃんが姿を現した。

 プールで見る水着姿は、さっきよりもずっと綺麗でどきどきが止まらない。


「? なんですわるの? じゅんびたいそう?」


 違うんだよみたきちゃん、これは不可抗力なんだ。




 そのあとみたきちゃんとプールでたっぷりと泳ぐ。

 今までずっと低学年用プールにいたからわからなかったが、みたきちゃんは泳ぐのも上手い。

 泳ぎを教えてあげようと思っていた僕であったが、逆に教えられる羽目になるとは。



「えへへ、たのしかったね」


 プールで遊んだ帰り道、みたきちゃんは笑顔で僕を見つめてくる。

 程よく湿った髪の毛から、いい匂いがする。


「そうだね。……来月、夏祭りがあるんだけど」

「いく!」

「それじゃ、その日に迎えに行くよ。僕はしばらく親戚の家に行くからいないけど、それまで寂しいかもしれないけど我慢してね」

「うん! がまんする!」


 我慢できないのは、僕の方なのかもしれない。




 何とか我慢して、夏祭りの日。

 僕は夕方、みたきちゃんの家に彼女を迎えに行く。


「えへへ、にあう?」


 浴衣姿のみたきちゃんが出てきた、最高に似合うよ。




「おいしそーだね!」


 祭りの出店を見て、みたきちゃんは目を輝かせる。


「買ってあげるよ、どれがいい?」

「りんごあめ!」


 僕はりんごあめを1本買うと、みたきちゃんに手渡す。

 みたきちゃんはそれにかぶりつく。べっこうあめがほっぺについて赤くなっているのが、面白くて笑ってしまう。

 りんごあめに綿菓子に、たこ焼き。こういうお祭りで食べるそれは多少高くても別格だ。


「あ、くじだ!」

「はいはい。すいません、1回この子に」


 出店のくじなんて当たりが入っていないと僕は知っているが、みたきちゃんにそんな無粋な事を告げるつもりはない。




「えへへ、あたったよ」

「そうだね、おめでとう。そろそろ花火大会が始まるから、どこか見晴のいいとこに行きたいね」


 100均でも売っているような線香花火が当たりなのか僕はよくわからないけど、祭りだし、当たりなのかもしれない。


「じゃあ、こっち!」


 みたきちゃんは付近にある雑木林の中に走っていく。ちょっと、迷子になっちゃうよ!慌てて僕も彼女を追いかける。





「はぁ……はぁ……みたきちゃん駄目だよ、もう暗いんだから、勝手にこんな森の中へ行ったら」

「あ! ねえねえ、ここからなら、はなびがみえるよ!」


 みたきちゃんを追いかけてようやく捕まえる頃には、僕達はどこかの丘に来ていたようだ。

 丁度花火大会が始まったようで、僕達の目の前で大きな花火が打ち上げられる。


「きれーだね」

「うん、すごくきれいだ」


 正直、僕には花火の良さがわからない。こんなもの見て何が楽しいんだろうと思っていた。

 けれどこういうものは、好きな人と一緒に見るからこそ楽しいのだろう。





『ただいまを持ちまして、花火大会を終了します』


 僕達だけの特等席で、花火が終わるまで二人でずっとそれを眺めていた。


「すっごくきれいだったね! ……そうだ」


 みたきちゃんはポケットから先程くじで当てた線香花火を取り出す。


「これやろ?」

「子供だけで花火するのは危ないけど…まあ、いいか」


 丁度僕はマッチを持っていたので、そこで即席花火大会。





 線香花火に火をつけて、


「もうすぐ夏休みも終わりだね」

「うん、あ、しゅくだいやらないと」

「偉いね、みたきちゃんは」

 儚い火花を見つめて、



「みたきちゃん、好きだよ」


 僕は違う、僕は好きだってことが言える。


「? わたしも、すきだよ」


 きょとんと首をかしげて、みたきちゃんは笑う。

 きっと好きの意味が違うんだろうけど、それでいいんだ。




「あ、そうだ」


 線香花火も使い切ったので、そろそろ戻ろうかと思っているとみたきちゃんは、


「おたわむれを~がやりたい!」


 そんな事を言ってくるのだ。みたきちゃんのやりたいことはわかる、わかるけど……


「い、いや、それは、駄目だよ」

「してくれないの?」


 うなだれるみたきちゃん。仕方がない、ここは僕が身体を張ろう。


「じゃあ僕が回るから、みたきちゃんが引っ張って」

「うん! よいではないかー」

「あ~れ~」


 目を輝かせながら帯を剥ぎ取るポーズをする彼女と、浴衣なんて着てもいないのにそれにノってくるくると回りだす僕。夏だった。どうしようもなく夏だった。

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