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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
小学校 みたきちゃん係(知的障害)
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みたきちゃんと捨て猫

 6月になり、基本的には晴れの多いこの町も梅雨の影響で雨が降る。

 僕は傘をさしてみたきちゃんを迎えに行き、長靴、レインコート、傘とフル装備なみたきちゃんと共に学校へ。


「あ、かえるさんだ! ぬれててかぜひかないのかな?」


 道中でゲコゲコと鳴いているカエルを見つけてみたきちゃんはカエルの歌を歌いだす。


「大丈夫だよ、カエルはむしろ濡れていないと駄目なんだよ」


 そういえば『井の中の蛙大海を知らず』というが、知らない方が良いのだろう。

 だってカエルは海では生きられないから。




 学校について今日もお勤めが始まる。

 雨の日は外で遊べないので、クラスの男子は不満そうだ。

 じめじめした空気とあわせてクラスの不快指数はかなり高いだろう。


「かーえーるーのーうーたーがーきーこーえーてーくーるーよー」


 お昼休憩、楽しそうに歌っているみたきちゃんにムカついたのか男子の一人がものさしをみたきちゃんの頭めがけて投げる。

 僕はそれをキャッチすると、にっこりと笑いながら男子に手渡しで返してやる。

 反撃なんて無粋な事はしなかったが、男子はニコニコ顔の僕に怯えているようだった。

 そんなに怖かったのだろうか、僕の顔。




 そして学校が終わり帰り道。

 みたきちゃんは再びカエルの歌を口ずさみながら雨の日を楽しんでいる。

 僕も雨は嫌いな方だったが、みたきちゃんを見ていると雨の日は雨の日なりに楽しい事があるなと気づかされる。

 雨音を音楽として楽しむこともできるし、雨があがった後の土の匂いもいい。



「あ、ねこさんだ! ぬれててかぜひかないのかな?」

「にー……」


 だが、この状況は楽しむことはできそうにない。

 みたきちゃんはダンボール箱の中に入っている、ズブ濡れで衰弱した子猫を見つけてそう呟く。

 僕はどうしたものかと悩んでいた。できることなら無視したかった。


「ねえ、ねこさんかぜひかないの?」


 だけどみたきちゃんのその純粋な瞳を見ると、無視はできなかった。


「……このままじゃ風邪をひく。お風呂に入れてあげよう」

「わたしもはいる!」

「にー……」



 僕はみたきちゃんと猫と一緒に自宅へ入り、皆でお風呂に入る。

 猫を洗ってやり、かわかしてやり、ミルクを与える。


「ねこー、ねこー」


 みたきちゃんは乾いた猫を抱いて嬉しそうだが、捨て猫に手を差し伸べてしまった僕はこれからどうするべきかと真剣に悩んでいた。



 まず、ウチでは猫が飼えないだろう。

 父親が重度の猫アレルギーなのだ。

 そしてみたきちゃんも猫を飼えないだろう。生き物を飼うという事は簡単な事ではない。



 とすると、里親を探すのが手っ取り早いが、それは無理だろうと思っていた。

 何故ならこの猫、片目と片耳がないのだ。

 どこの心無い人間に虐待を受けたのかはわからないが、こんな状態の猫を欲しがる人間がそうそういるとは思えない。

 僕をしてこの哀れな猫を見て気持ち悪いと思ってしまうのだから。




 となると、保健所に連れて行くことになるが保健所に連れていかれた猫がどうなるかを僕は知っている。

 これは最終手段でしかないだろう、やはり里親を探すしかない。


「みたきちゃん、明日この猫の親を探すから、手伝ってくれるかな?」

「うん!」




 ひとまず猫は僕の家に置いておき、翌日、僕とみたきちゃんは猫を連れて学校へ行き、そこで里親を探した。


「誰かー、誰か猫を飼ってくれる人はいませんかー」

「いませんかー」


 だが、僕の予想以上に世間の目は冷たかった。



「うわ、何あの猫…きしょっ」

「あんな猫飼えねーわ」


 そういう言葉を投げかけられるたびに、僕はどうしようもない気持ちになる。

 この猫も、みたきちゃんと同じなのだろう。

 中身が原因で気持ち悪がられているか、見た目が原因で気持ち悪がられているか、ただそれだけの違いなのだ。




「ねこのおや、みつからなかったね……」


 猫を抱いて、みたきちゃんが残念そうにつぶやく。

 結局猫の里親は見つからず、それどころか教師に学校で勝手な事をするなと怒られてしまった。


「そうだね」


 学校で里親を探せないなら、どこか別のところで探すしかない。

 警察やら保健所やら、色んな場所を頼って里親を探さないといけないだろう。しかし一度手を差し伸べた以上は責任を持ってこの猫を救ってやらなければ、と僕は思っていた。

 この猫を見捨てることは、みたきちゃんを見捨てることと同じなのだ。


「……あれ? ねこがなかなくなったよ?」


 みたきちゃんが抱いている猫を見て不思議そうにつぶやく。


「寝たんじゃないかな」

「そっか」


 しかし、その猫は二度と起きることはなかった。





「うっ、うっ、ああっ、あああああっ」


 僕は自分の家の庭に、猫のお墓を作った。そしてその前で泣きじゃくった。

 もう僕達が発見した時既に猫は限界だったのかもしれない。

 あるいは獣医にでも診て貰えば、何とか助かったのかもしれない。

 しかし大事なのは僕は猫を救えなかったという事実だ。

 猫を助けたい、そんな簡単な気持ちでロクに力もないのに手を差し伸べた結果どうなった?

 猫に希望を抱かせておいて、絶望の淵に叩き込んで、殺したんだ!


「あのね、ねこさんね、ありがとうって、いってたよ」


 みたきちゃんは泣きじゃくる僕をそう言ってよしよし、と頭をなでる。


「うっ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」


 僕はみたきちゃんにすがりつき、ただただ泣くしかなかった。

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