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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
小学校 みたきちゃん係(知的障害)
13/107

みたきちゃんはヴァルキリー

「はい、これお返し」


 ホワイトデーの日の朝。僕はこつこつと親の手伝いをして溜めたお小遣いで百貨店の高いチョコレートを買ってみたきちゃんにあげた。

 バレンタイン当日にもチョコはあげたが、それはそれとしてホワイトデーにお返しはする。当然だろう?


「??? ありがと! じゃあわたしもこんどなにかあげるね!」


 バレンタインデーとホワイトデーの関係がわかっていないようだ。なんだか延々とお返しのループが続きそうな気がする、それはそれで何だかほのぼのしてて面白そうだけど。





 もうすぐ終業式。そして春休みが終わったら僕達は6年生になる。

 小学校の最高学年。修学旅行や、教師役として一年生に授業をするイベントや、色んな事が、僕とみたきちゃんを待っている。

 来年度の事を考えながらうきうき気分で授業を受けて放課後。

 僕達はいつも通り二人揃って学校を出た。


「ちょこれーとすごくおいしかったよ!」

「喜んでもらえてよかったよ」

「だからはい、これ」


 みたきちゃんは僕のあげた高級チョコの包みを1つ僕に手渡してくる。僕は勧められるままにチョコレートを口にした。


「? なんでなくの?おいしくなかったの?」

「違うよ、味じゃないんだよ」


 ああ、なんて良い子なんだ。比喩でもなんでもない、みたきちゃんは本当に天使なんじゃないだろうか。





「やめてくだ…誰かたすけ…」


 ふと、女の子の声がした。それも助けを呼ぶ。


「……今、女の子の声しなかった?」

「うん! した! たぶんこっち!」


 みたきちゃんが指差す方を見ると、薄暗い路地裏への道が。

 噂では不良のたまり場になっているらしい、行きたくない。行きたくないが。


「みたきちゃん、行こう」

「うん!」


 男は見栄っ張りな生き物なのだ。





 恐怖の感情をみたきちゃんの手をつなぐことで和らげながら道を進むと、


「お姉ちゃん!誰か!」


 小学生3、4年くらいの怖がってる女の子が、


「いいじゃん、楽しいことしようよ、お小遣いもあげるって」


 中学生くらいの男子3人に、無理矢理デートをさせられようとしている場面であった。


「みたきちゃん、危ないから下がっててね。…何やってるんだ!」


 僕の体は本能的にみたきちゃんにいいところを見せようと、正義のヒーローのごとく、男達に立ちはだかるのだった!





 男の子なら誰だって、正義のヒーローに憧れるだろう。

 しかし、正義のヒーローになるには条件がある。

 正義の心? 違う違う、もっと大事なものがある。


「だっせー、彼女にいいとこ見せようとしたの? ボク」


 力だ。小学5年生の、どちらかというと運動の苦手な男が、丸腰で中学生3人にどう勝てというのか。

 勇気でもなんでもない、人はそれを無謀と呼ぶ。

 たった4秒で地面とキスした僕の背中を男達があざ笑いながら何度も踏みつける。本当に情けない。





 そして正義の心というのはインフルエンザのように伝染することもある。


「……」


 例えば、みたきちゃんに。みたきちゃんは男達の前に歩み出て凛とした目で睨みつける。


「何だい、お嬢ちゃん。お嬢ちゃんも俺達の相手してくれんの?」

「俺こっちの子の方が好みかもー」


 男達は下品に笑う。ああ、みたきちゃんが、僕のようにボロ雑巾になってしまう。

 ああ、僕があの時みたきちゃんを連れて真っ先に逃げ出していれば。

 そして警察にでも連絡すればよかったのに。

 勇気と無謀をはき違えたせいで、みたきちゃんにまで危害が及ぶのか。

 悔しくて情けなくて、いっそのこと舌を噛み切って死のうかと考えた矢先、




「うあああ!」


 みたきちゃんは男の1人の股間を思い切り蹴った。それも物凄い威力で。

 たまらず男はその場にうずくまって痙攣する。


「て、てめえ! なにしやがんだ!」


 仲間をやられて激昂した仲間の男がみたきちゃんを殴ろうと襲いかかるが、


「うー!」


 みたきちゃんはひょいとそれを避けて、男の顔に思いきり頭突きをかます。

 ゴン、と痛そうな音がしてその男も倒れこんだ。


「おい、このナイフが見えないのかよ、ってひぃぃ!」


 最後の男はポケットからナイフを取り出してちらつかせるが、みたきちゃんはその場にあった巨大な角材をひょいと持ち上げて、ぶるんぶるんと振り回しながら男へと向かって行く。

 男はナイフを捨てて一目散に逃げ出し、起き上がった男2人も後を追うように逃げていく。

 後には興奮冷めやらぬのかフー、フーと言っているみたきちゃんと、倒れながらそれを見ていた僕と、服をボロボロにされ、同じく怯えるようにそれを見ていた少女。





 勝ったのだ。みたきちゃんが、自分より大きな男3人に。

 みたきちゃんは、紛れもなく正義のヒーローだったのだ。


「だいじょうぶ!?」


 角材を放り投げて、倒れていた僕を起き上がらせて心配そうに見つめるみたきちゃん。ああ、天使だ。

 いや、天使じゃない。戦う乙女、そう、ヴァルキリーだ。


「僕は、大丈夫、それより、君は」


 何度も背中を踏まれたせいでもう立ち上がるのも限界だったが、それでも踏ん張って少女の安否を気遣おうとしたその時だった。






「おい! そこで何をやっているんだ!」


 さっきの喧嘩に気づいたのか、パトロールしていたであろう警察が2名やってくる。

 遅いんだよ、来るのが。まあ、警察が来たならこの少女の事は彼らに任せよう。

 安心して僕は疲れがどっときたのかその場に倒れこみ、眠ろうとしていた。




「……! うーっ!」


 ただ、不幸なことにみたきちゃんはやってきた警察を、さっきの男達の仲間だと認識して再び角材を手にして睨みつけたのだ。


「何だ君は! 君がやったのか!」

「ぜったいゆるさない!」


 駄目だ、駄目だよみたきちゃん。その人は敵じゃないんだ、その人に危害を加えたら大変な事になるんだ。

 僕はみたきちゃんを止めようとしたが、もう体は限界だったようで声をあげることもできず、そこで意識が途絶えた。



 目が覚めると、病院のベッドだった。


「中、良かった……!」


 ずっと側にいたであろう母親が安堵の声を漏らす。


「みたきちゃん!みたきちゃんは、ねえ、みたきちゃんはどうなったの!?」


 自分の怪我なんてどうでもいい、みたきちゃんはあの後どうなったんだと母親に聞くと、


「何でも警察に怪我をさせて、その後取り押さえられて多分署の方に連れて行かれているわ。みたきちゃんが中と女の子に暴力をふるったことになってるけど、違うのよね?」


 心配そうにそう答える。みたきちゃんが僕と女の子に暴力をふるった?そんなわけないだろう。


「署まで連れて行ってよ。説明しないと」





 僕と母親が警察署へ行きみたきちゃんがいると言う保護室へ行くと、


「ああああああ! ああああああ!」


 閉じ込められた保護室の中でずっと叫びながら暴れているみたきちゃんと、


「どうしたのみたきちゃん、お願い、落ち着いて」


 対応に困っている彼女の母親と警察が数名。


「みたきちゃん!」


 僕が彼女の名を呼ぶと、


「! よかった! ねえ、だいじょうぶ? けがしてない?」


 途端に暴れるのを辞めて僕の安否を聞いてくる。

 ひょっとして、僕が悪い奴に連れて行かれたと思って今まで暴れていたのだろうか。

 それから僕は警察に真実を話す。みたきちゃんはむしろ僕と少女を助けようとしたこと、警察という職業を理解できないこと。

 みたきちゃんはその日のうちに解放された。あの少女も無事らしい。良かった良かった……いや、良くはないだろう。




 警察を出て、僕とみたきちゃんと、二人の母親が話をしながら家へと歩いて行く。


「あのおんなのこ、だいじょうぶかな?」

「特に外傷もなく精神状態も落ち着いてきて大丈夫らしいよ、みたきちゃんのおかげだね」


 やがてみたきちゃんの家の前に辿り着く。


「おばさん、僕のせいでみたきちゃんを危険な目にあわせてしまい申し訳ありませんでした」


 僕は下が土だろうと構うものかとその場に土下座をする。

 僕の下らない見栄がみたきちゃんを危険な目にあわせたのだ。

 みたきちゃんにかっこいいところを見せたい、そんな下らない理由で。


「だめだよ、かおがすなでよごれるよ」


 みたきちゃんはそんな僕の顔を無理矢理上げて、顔についた砂をはらった。

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