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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
小学校 みたきちゃん係(知的障害)
12/107

バレンタインだねみたきちゃん

 明日はバレンタインデー。楽しみだ。

 バレンタインデーの次の日に、百貨店で半額で売られているチョコレートを自分へのご褒美に買ってみたりするのが好きだ。半額でも結構高いけどさ。

 僕のバレンタインデーとホワイトデーの翌日に半額チョコを買うという風習は小学2年生から続いている。




「ねえねえ」


 その日の帰り道いつものように僕とみたきちゃんが下校をしていると、みたきちゃんは何か聞きたそうだ。


「なんだいみたきちゃん」

「ばれんたいんでー、ってなあに?」


 そうか、みたきちゃんもバレンタインデーを気にする年頃か。


「好きな人にチョコレートをあげる日だよ」

「ちょこれーと! ちょこれーとほしい!」


 みたきちゃんはあげる側だけどね。ちょっと奮発して当日に百貨店でチョコレートを買ってみたきちゃんにあげようかな、なんて考えてみたり。





 翌日……バレンタインデー当日の3時間目、僕達は家庭科室に集まった。


「今日はバレンタインデーということで、チョコレートを作ってみましょう」


 家庭科の教師がそう言って班を分けだす。勿論僕とみたきちゃんは同じ班だ。

 僕とみたきちゃんと、名前も憶えてないクラスメイトの男子と女子。

 クラスから孤立していた僕は、みたきちゃん以外のクラスメイトの事なんて、完全に忘れてしまったようだ。

 チョコレートを作ると言っても、市販のチョコを溶かして型にはめて固めるだけ。

 手作りチョコを名乗っていいのだろうか、こんなんで。

 かと言ってカカオから作りましたとチョコレートをもらっても、それはそれでちょっと引く。


「わたしは、なにすればいいの?」


 エプロン姿のみたきちゃんが、僕の三角巾を触りながら聞いてくる。

 バレンタインのチョコ作りだし、女の子が主役だろう。男子は裏方に徹するべきだと思っていたが、


「みたきちゃんは何もしなくていいよ」


 班員の男子がそんなことを言い出す。おいおい、何のための家庭科の授業だよ。


「授業なんだし、みたきちゃんだって参加しないと駄目だろうが」


 ムッとしてちょっと口調を荒げて言い返すも、


「今日作ったチョコ、ウチ好きな人にあげるつもりやし、そんなんにみたきちゃんの涎とか入ったら台無しじゃん」


 もう一人の女子がそんなことを言い出す。それを聞いた瞬間僕の頭に血が上る。ああ、この女を思いきりぶん殴ってやりたい、そんな衝動に駆られたが何とか自分を落ち着かせる。


「……だったら僕とみたきちゃんは向こうで作るから。材料半分貰うね」





 僕とみたきちゃんは余っていた調理台に材料を置く。

 さて、どうしようかな。


「まずはちょこれーとをとかすんだよね」


 みたきちゃんは鍋に水を入れた後ガスコンロで火をつける。僕はそれをはらはらと見ていた。

 しかし水をコンロで温めるという一連の行動ができるというのはかなりの成長なのではないだろうか。

 ただ、


「チョコレートをお湯の中に入れちゃ駄目だよ。細かくして、ボウルに入れるんだよ」


 直接チョコレートをお湯の中にぶちこもうとしていたので、僕はそれを止めてやる。


「おい、お前何やってんだよ」

「間違えてお湯の中にチョコ入れてもうた! どないしよ」


 僕とみたきちゃんがさっきまでいた調理台からそんな声が聞こえる。ざまあ見ろ。




 溶かしたチョコレートを、ハートやら星やらの型に流し込んで、冷蔵庫で固める。

 授業が終わる頃には立派な手作りチョコレートができあがっていた。

 自分達のを袋に入れてラッピングし、みたきちゃんの分を手渡す。


「みたきちゃん、これはね、大事な人にあげるんだよ。お母さんとかね」


 しかしみたきちゃんは受け取ったその袋を、僕に突き返した。


「……はい、あげる!」


 今まで母親以外からチョコレートを貰ったことのない当時の僕は、みたきちゃんの行為を理解するのに暫く要した。

 意味を理解した時僕は顔を赤くして、


「それじゃあ、1ヶ月も早いけどお返し」


 自分の分のチョコの袋を、みたきちゃんに手渡すのだった。



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