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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
最終章 僕の大切な人
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幸せな恋人生活

「もうすぐ夏休みだね」

「そうだね、いっぱい遊びたいところだけど、一応僕は受験生だしなあ」

「あはは、わかってるよ。大和撫子たるもの、でしゃばる真似はしませんて」

「僕こそ日本男児たるもの、恋人を寂しがらせるわけにはいかないよ」

「……ふふっ、あははっ、自分で言ってなんだけど、すごいキモイ」

「僕も今になって恥ずかしさがこみ上げてきたよ、さっきすれ違ったサラリーマン、かなり怪訝そうな目で僕達を見てたよ」


 7月、今までは夏休み前のテストなんて面倒だと憂鬱になっていた僕だけど、今年は受験生という立場上真面目にやらない訳にもいかず、やはり憂鬱。と思いきや、三滝がいるのでテスト勉強なんてへっちゃらさ。今日も今日とて、通りすがりの人が引くレベルに朝からいちゃつきながら学校へ向かう。



「やあ諸君、今日もいい天気だね。素晴らしい一日が始まりそうだ」

「うっす。お前は毎日幸せそうだな」

「そりゃあ高校生活を可愛い彼女と満喫できるんだ、幸せに決まってるよ」

「そ、そうか。……俺はそんなにでもねえなあ、倦怠期ってやつか?」


 学校についても煉獄君のような恋人持ちと恋愛の素晴らしさについて語ったりと、健全な学生生活を送る僕。ちょっと恋人いない人にウザがられて、僕がぼっちになりかけている気もするけれど、あまり気にはならない。恋は盲目というやつだろうか、僕が接してきた子達も、そんな感じだったのだろうか。



「あー、こないだの模試の結果イマイチだ。ランク下げるかな」

「最近わし、大学行く意味を見出せんなってきて勉強に手がつかんのじゃ……」

「大学は入っとけよ姫。結婚して主婦になるから勉強しなくても大丈夫とか言って、旦那に逃げられて毎日スーパーでパートする羽目になった女はいくらでもいるんだからな」

「わしが旦那に逃げられるなんて有り得んし、名家のお嬢様をナメとるんか。お前こそ、どんな大学入ったってテニサーとか入って毎日よろしくやるんじゃろ、簡単に想像がつくわい」

「ひ、ひでえ……」


 今日も今日とて女子トークを繰り広げられる二人を眺めながら、僕も将来の事を考える。三滝は僕と同じ大学に通いたがっているようだけど、いくら人並みの知能になったからってブランクを簡単に埋められるとは思えない。三ヵ月勉強すれば有名私立に行けるなんて、幻想でしかないのだ。となると、僕が三滝の学力に合わせて大学のレベルを下げるべきなのだろうか。けれど、そんな理由で大学を決めてしまっていいのだろうか。そもそも何のために大学に行くんだ、就職するためか。就職して、三滝を養えるようになって、それから……


「ああ、わからない」

「だよなあ、見栄張って赤チャ買ったけど、さっぱりわかんねえよ」


 大人になった、変わってしまった三滝と対面して、僕も大人になるということを意識したけれど、思考を放棄したくなる。いつまでもネバーランドにはいられないというのに、三滝はネバーランドから脱出しようと必死で頑張ったのに、僕は何をやっているんだろうか。



「三滝、明日一緒に勉強しない? もうすぐ高認の試験だろう?」

「うん、するする。高認受かって、中君と一緒の大学に行くんだもん」

「そんな事言って貰えるなんて、彼氏冥利につきるよ」


 しっかりと将来を考えている三滝。僕はどこの大学に行こうかなんて全然考えてなくて、オープンキャンパスだって行ったことがない。


「ところで中君、どこの大学狙ってるの?」

「あー、まあ周道とか、広経とかかなぁ」

「え、中君の高校からそれはちょっと落ちぶれすぎじゃないの?」

「そう? ごめん、実はまだ地元の大学のレベルとか全然調べてなくてさ」


 だから日曜日に僕の部屋で一緒に勉強をしている時にそんな事を聞かれて、適当にそこらへんの私立大学を答えて呆れられてしまう。どうしようもない温度差に、僕は苦笑いするばかりだ。


「ひょっとして中君、私に遠慮してる? そりゃ中君に比べたらまだまだ頭は悪いけど、私努力家だからね、中君追い越すくらいの気持ちで頑張ってるんだからね」

「そういうわけじゃ……僕はまだ将来とか全然考えてないからさ。いや、三滝とは一緒にいたいって思ってるよ。けど、大学に入って、卒業して就職してってビジョンが全然ないんだよ。参考までに聞かせてよ、三滝はどうしたいの?」


 昔は三滝に頼られることの多かった僕だけど、やっぱり恋人なんだから、お互い支え合って生きていくべきだ。だから僕が三滝に頼ることは、何らおかしな事ではない。


「うーん、私は福祉とか教育に興味あるかなあ。まあ、私の境遇がこんなだしね。今も実質的にワークハウスで、指導者的な立場だし。ああ、でもそろそろ勉強に専念したいから引退させてもらおうかなぁ……」

「偉いね、三滝は……」

「何言ってんのさ、私が偉いなら中君は聖人君子だよ。救世主様だよ」

「あはは……どこかわからない問題があったら言ってね」


 三滝は僕を買いかぶりすぎだ。僕はただの聖人君子気取りの、救世主気取りでしかないというのに。照れながら、後ろめたさを感じながら、三滝と一緒にシャーペンの音を鳴らしていく。


「よし、今日はここまで。中君がいると、効率が4倍くらいになるよ」

「あはは……家まで送るよ」

「ねえねえそれより」


 大きく背伸びをした三滝につられて背伸びをしながら立ち上がろうとするが、三滝は僕の方へすすすっと寄ると、ぴたっと体をくっつけてくる。シャンプーの匂いなんて、よく髪を洗ってない証拠だと思っていたけれど、こうして実際に匂いをかぐと、ドキドキしてしまう。


「もう3ヶ月経つんだしさ、そろそろイイ事しようよ」

「……それは」

「私達もう高校三年生だよ? 小学生じゃないんだよ、なんらおかしくないじゃん」

「……ごめん、正直言うとさ、次のステップに進むのが怖いんだよ。三滝と違って、僕は大人になるのをどこか拒んでいるみたいなんだ」

「じゃあ一緒に寝ようよ、それくらいならいいでしょ? 私がついてるんだから、一緒に大人になろうよ」

「まあ、それくらいなら……」


 三滝も随分とアグレッシブになったものだ。結局根負けして、二人で一緒のベッドでお昼寝することにする。僕みたいなお子様にはそれでもドキドキが止まらないけど、三滝は僕の隣ですやすやと気持ちよさそうに寝ていた。その寝顔はあどけなくて昔を思い出すけれど、もうそんな微笑ましい関係のままでは、いられないのだろう。




「それじゃ、テスト頑張ってね中君」

「うん。僕は午前で終わるけど、三滝は?」

「私も今は午前までにしてもらってるから大丈夫だよ。終わったら遊びに行こうよ」

「そうだね、息抜きは大事だ」


 それから数日して、高校の定期考査が始まる。今回のテストは模試的な意味合いも含むそうで、志望校も書かされた。適当に近場の大学をいくつか書くだけだったけど。


「よし、今日のテスト終わり。さあ、デートだデート」

「なあ高下、少しいいか」

「どうしたのさ白金さん」


 その日のテストである英語と数学を終えて帰ろうとした僕を白金さんが引きとめる。どうせ白金さんの事だ、ロクでもない下ネタを言うに決まってるとげんなりしながら彼女の方を向くと、意外と真剣な目をしていた。


「なんかお前、わざとらしく見えるんだよなあ。ウチの思い違いならいいんだけど」

「わざとらしい? 僕が?」

「自分は恋人がいて幸せな男子高校生です、みたいなリア充アピールやたらとしてるけどよ、自分にそう言い聞かせてるだけじゃねえのって。なんか必死すぎんだよ」

「は? ははは、何言ってるのさ白金さん。白金さんに何がわかるのさ、僕は幸せだよ、可愛い彼女がいて。白金さんもいい加減真っ当な青春を謳歌しようよ」

「けっ……ま、別にウチはどうでもいいけどよお」


 一体白金さんは何を言っているのだろうか、意味がわからない。必死も何も、僕は幸せだし。不気味な何かを感じ取って、冷や汗をかきながらその場を去り、三滝との待ち合わせ場所に向かう。



「やあ三滝」

「ハロー、見て見てこの服、前衛的でしょ? 思い切って買ってみたけど、正直後悔してるよ……新しい服を買いにいこう、そしてすぐに着替えよう」

「いやいや、三滝は何を着ても似合うって」


 自称オシャレさんが着ていそうな、毒々しく色鮮やかな服に身を包む三滝を見て、どこか僕とは遠い世界の住民のように思えた。


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