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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
小学校 みたきちゃん係(知的障害)
10/107

メリークリスマスみたきちゃん

 明日から冬休み。帰りの会で担任が配ったプリントには、クリスマス会のお知らせと書いてあった。

 イブに学校を使って、大々的にクリスマスパーティーをするのだそうだ。参加は自由。

 プレゼント交換、ビンゴゲームなどなど、とても楽しそうだ。



「くりすますー♪くりすますー♪」


 帰り道、冬の寒さなど気にせず上機嫌そうにみたきちゃんは歌を歌う。


「みたきちゃん、今年はサンタさんに何をお願いしたの?」

「えほん!」

「そっか、きっとプレゼントは届くよ」

「うん!」


 僕はいつまでサンタクロースを信じていただろうか。思い出せない。


「ねえねえ、くりすますかい、いっしょにいこ!」


 みたきちゃんがそんな事を言いだす。クリスマス会か。

 きっととても楽しいものになるだろう。





「駄目だよ、みたきちゃんも僕も行っちゃいけないんだ」


 みたきちゃんも僕も参加しなければの話だが。


「やだ! くりすますかいいきたい!」

「駄目なんだよ」

「うう……」


 目に涙を浮かべるみたきちゃん。

 ごめんよ、でもこれでいいんだよ。

 僕には見えるんだ、クリスマス会に参加して嫌な思いをするみたきちゃんが。僕が。クラスの皆が。

 ごめんよ、ごめんよ、と心の中で復唱しつつ、みたきちゃんを家まで送り届けた。

 多分もうみたきちゃんは一人で学校に行けるし帰れるだろうけど、今更一緒に登下校しないなんてありえないよね。

 僕も自分の家に帰り、親にクリスマス会のお知らせのプリントを見せることなくゴミ箱へ。




 その日の夕飯。


「中、クリスマスイブの日、ママとパパはデートに行くから朝まで帰れないの。どうせクリスマス会に行くんでしょ? 大丈夫よね?」

「……うん」


 プリントを渡さずとも近所の付き合いでそれくらいの情報は親には伝わっていたか。

 僕はうんとしか答えることができなかった。両親のデートを邪魔できるはずがない。




 そしてその日がやってきた。

 デートへ行く両親を見送った後、僕は自分の部屋で何をすることもなく、まだ昼だというのに布団に入る。

 今頃クラスメイト達はクリスマス会を楽しんでいるだろう。

 あるいは家族団らんしているだろう。

 ああ、悔しいな。あんなやつらが楽しんで、僕やみたきちゃんは楽しめない。

 ……そういえば、みたきちゃんは今頃何をしているのだろうか。

 僕は家を出て、みたきちゃんの家へと向かう。





 みたきちゃんの家には、灯りがついていなかった。

 母親とお出かけしているのかな、とみたきちゃんの部屋を覗く。悪癖だな、最早。


「えっぐ……えっぐ……えっぐ……」


 そこには、英語の発音の練習をしているわけではなく、泣きじゃくるみたきちゃんがいた。

 僕は窓を叩く。すぐに気づいたのかみたきちゃんが寄ってくる。


「みたきちゃん、お母さんは?」

「……でーといくって。くりすますかいにいくのよね、だからだいじょうぶよねって」


 なんてこった、僕と同じというわけか。

 しかしみたきちゃんの母親は離婚していたはずだが、ひょっとして再婚の予定があるのだろうか。

 新しい父親がみたきちゃんの理解者であれば良いのだがと他人の家庭の事情に口を突っ込んでいる場合ではない、みたきちゃんに寂しい思いをさせない事の方が大事だ。


「みたきちゃん、遊びに行こう」

「……うん!」


 僕はみたきちゃんを窓から連れ出した。まるでお姫様を外の世界へ連れて行く騎士のようだ。





 父親のへそくりをこっそり持ち出して、みたきちゃんを連れて駅まで行って、電車に乗ってちょっと都会へ。随分と冒険したもんだと思う。


「ゆーえんちー♪ ゆーえんちー♪」


 県内では一番大きな遊園地は、クリスマス仕様で煌びやかだ。

 子供だけで遊園地に行けるのかどうかが不安だったか、先に親が入っていると嘘をついて何とか入園することができた。


「何乗る?」

「じぇっとこーすたー!」

「……」


 いきなりか。僕はジェットコースターが大の苦手だったりする。その上ここのジェットコースターは過激なことで有名だ。

 まあ、みたきちゃんが乗りたいって言ってるのに僕が駄々をこねるわけにもいかない。観念してジェットコースターの列に並ぶ。並んでいる間にジェットコースターに乗っている人たちの絶叫が聞こえる。ああ、怖い。


「たのしそー!」


 反対にみたきちゃんは目をキラキラさせている。うう、みたきちゃんの横で情けなく叫ぶ事になるのか、僕は。




「わーい! わーい!」

「あああああああああああああああああああ! いやだあああああああああああああああ!」


 そして結果はご覧のとおり、情けなく叫びました。






「はぁ……はぁ……た、楽しかったね」

「……だいじょうぶ?こわかったの?きゅうけいする?」


 みたきちゃんにガチで心配されてしまった、本当に情けない。


「大丈夫だよ。次はどこにする? パレードまでまだ時間があるよ」

「えーとね、じゃああの……じゃなくて、こーひーかっぷ」


 みたきちゃんはコーヒーカップを指差すが、その前に物欲しげな瞳でフリーフォールを見ていた。

 僕に気を遣ってくれたのだろうか、ああ、なんて優しい子なんだ。その優しさが逆に僕を傷つける。





 コーヒーカップに乗る僕達は、周りから見れば可愛らしい子供のカップルに見えただろうか。

 その後メリーゴーランドや観覧車(高所恐怖症の僕は観覧車でも情けなく叫んだ)等を楽しみ、いよいよパレードの時間だ。

 陽気な音楽と共に、煌びやかなダンサーやモニュメントが流れてくる。

 

「えへへ、きれいだね!」

「そうだね」


 確かに綺麗だったが、パレードで踊るピエロのようなダンサーが、僕達と被って見えて不愉快だった。

 周りから奇特な目で視られ嘲笑される僕達はピエロなのだろうか。





 遊園地を出て、電車に乗って、僕等の町へ。

 クリスマスで人が多いからか、夜遅くに子供二人で歩いていても、警察に呼び止められる事もない。

 いつものようにみたきちゃんを家に送り届ける。


「それじゃあみたきちゃん、またね」


 みたきちゃんの家の前で別れを告げて立ち去ろうとするが、体が動かない。

 みたきちゃんは僕の服を掴んで離してくれない。


「……やだ」


 部屋の灯りはまだついていない。みたきちゃんの親はまだ帰っていないようだ。


「……僕の家に来る? ついでにケーキとか買って食べようよ」

「うん!」



 商店街でクリスマスケーキや七面鳥などを買って、僕の家へ。

 みたきちゃんを僕の家に呼ぶのは初めてだ。ドキドキする。

 テーブルに料理を並べて、父親の部屋から持ち出したブドウジュースを開けて、


「「メリークリスマス!」」


 僕とみたきちゃんの、クリスマス会。学校のクリスマス会なんかより、ずっと楽しいに決まってる。

 料理を食べて、トランプをして、ゲームをして、テレビを見て……


「……すぅ……すぅ……」


 気が付いたらみたきちゃんは眠っていたようだ。

 このままここで寝かせるのは色々とまずいだろう、いつ彼女の親が帰ってくるかわからないし、僕の親にバレても色々と面倒だ。

 僕はみたきちゃんをおんぶして、家まで送り届ける。

 みたきちゃんの部屋に窓から侵入して、みたきちゃんをベッドに寝かせ、


「メリークリスマス」


 僕はこっそり買っていたクリスマスプレゼントの絵本を枕元に置く。

 最近のサンタは煙突じゃなくて窓から侵入するのだ。



 帰り道に僕の顔が真っ赤なのは、大人のブドウジュースを飲んだからか、みたきちゃんをおんぶした時にぬくもりが感じられたからか、どうなのだろうか。

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