表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

その先にあるもの

作者: 西沢恩

高校最初の桜も散り果て、桃色と緑が不気味に交じり合う頃、気温はうなぎ上りになっていた。

高校の門をくぐった桜の頃はまだ薄ら寒く、1kmくらいでは汗はそんなにかかなかったのに、今じゃ1km走ったら、もうTシャツは汗で、走る前よりも色濃く染まっていた。市民陸上大会に参加すれば、単位にするという、たいした理由もなしにエントリーした。後先考えないのは、相変わらずだ、と、我ながら苦笑した。


どのぐらい走っただろうか…。野を越え、山を越え、街を越え…もと来た道をまた戻る。肺に熱を帯びた空気が槍のごとく、不規則に突き刺さる。目に映るはずの家も、コンビニも、すべてが陽炎のように溶け合い、私の目には映らない。リズミカルに切れた息の速度は確実に上がっていた。

街を越え、山を越え、市民陸上大会のためのトレーニングとして、全10kmのコースを私は走っている。コースは残すところ1kmを切った。ここまでくると、中盤の辛さもどこへやら。火がついたように足が速度を上げる。足はただがむしゃらに、アスファルトの道を、ひたすら前へ、前へと跳ねて行く。やがてアスファルトからグラウンドへと、フィールドは変化する。もう周りは全てがグレーに混じり、溶け、ゆらめく。


「は〜い!40分28秒!いい感じなんじゃない?」と、ストップウォッチ片手に言う友人に、

「そう?」

私は荒げた呼吸のまま答えた。「そ〜だよう。10kmで40分代なんて、さすが元陸上部中距離エキスパート!やるねぇ!」と、妙に弾む友人の声。その元って言うのを、なんでそう強調するかな…?と、言う突っ込みはすんでのところで呑み込んだ。


中学時代、私は陸上部のエースだった。高校で陸上をやらなかったのは、そこまで陸上への思い入れはなかったからだ。陽炎のようにゆらめくグラウンドには、野球部員の威勢のいい掛け声がこだまし、サッカー部員が縦横無尽に駆け回っていた。40分28秒という数字が脳裏に色濃く焼きついた。まだまだ…!という野心と、こんなもんかな…?

という諦めが波のように、交互に押し寄せていた。走ってから10分もすれば、吸う空気にも槍のような鋭さはなかった。


市民陸上大会まで、あと2週間…。ラストスパート。今はただ、今度の市民陸上大会で全力を出すのみ、と、ストレッチで、足のコンディショニングを行ったら、伸ばした筋肉が悲鳴を上げた。


決戦のときは近い。その先に、私は何を見るのだろうか…今はまだ、誰も知らない。

はじめまして。西沢恩にしざわめぐみです。


この小説は以前書いたものに加筆したものです。今後もみなさんが面白いと、思えるような作品を書いて行きますので、応援、ご指導、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 走っている時の感覚を、巧みに表現できていると思います。僕は評論家ではないので、上手く表現できないのですが、読んでいて自分も走っているような一体感を感じました。面白かったです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ