表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/10

4話



獣が死んだ翌朝、領民たちが広場に集まってきた。



昨夜、ささやかな食料を手にした者たちの顔には、わずかに血の気が戻っている。


対照的に、動かなかった者たちの顔は、一晩分の飢えが加わり、虚ろな目をしていた。




やがて、動かなかった者たちの中から一人の老人が、震える足で一歩前に出た。


その視線が、懇願するように俺を捉える。


「……我々も、働かせてはもらえないだろうか」




俺は、その集団を冷徹に見据え、事実を突きつけた。


「お前たちは昨日、『投資』の機会を自ら放棄した。お前たちの『信用コスト』はゼロだ」




老人の顔がこわばる。


「だが、ゴミにも使い道はある」


俺は、谷底から引きずり上げられた獣の死骸を指差した。


「――あの『獣の死骸』の解体と運搬。この領地で最も汚く、最も過酷な『労働』だ。これをやるなら、『資産』の者たちの半分の『対価(食料)』で雇ってやる。」



ー選べ。と言葉にせず彼らを見つめる。、



彼らは、こわばった表情で互いに顔を見合わせた。


やがて、誰からともなく、一人、また一人と、ゆっくり頷いていった。





次に、俺は昨日働いた「資産」たちに向き直る。


彼らを、俺は「労働者」ではなく「技術者」として扱った。


明確な階級ヒエラルキーを作り出すために。



「お前たち(元鍛冶師)は、獣の『爪』と『牙』を武器に加工しろ。お前たち(元薬師)は『内臓』を薬の材料に選別しろ」


そして、若者たちを指名する。


「お前たちは、この作業場の『監督』と『警備』だ。――『負債』の者たちが、盗みやサボらないか、監視しろ」


「役割」と「地位」を与えられた彼らが「負債」たちに向ける視線は、昨日までの同情とは違う、冷たいものに変わっていた。






獣の解体作業が始まった。


領地には、死肉の悪臭と、骨を断つ音、肉を切り分ける音が満ちていく。


俺は、その全てを冷徹に管理する「現場監督」に徹した。


全ての作業が終わり、日当となる「食料」が山積みにされると、俺はその前に立ち、そして、静かに一歩下がった。



促されるように、ソフィアお嬢様が全員の前に進み出る。



彼女は、俺の意図を正確に汲み取り、すっと背筋を伸ばし、「領主」として、そこに立っていた。



お嬢様は、働いた者一人一人の目を見ながら、自らの手で、計算された対価を分配していく。


昨日動かなかった者にも、昨日働いた者にも、等しく、その労働に見合った分だけを。



お嬢様は手渡す際に相手の目を見て優しく微笑む。

その微笑みだけで彼らは救われる。


ふむ、さすがは俺のお嬢様だ。

統治者として心得ている。



全ての分配が終わり、人々は皆、ソフィアお嬢様から「労働の対価」を受け取った。


この領地の新しい「仕組み」を、その身をもって理解した瞬間だった。



お嬢様が、俺の隣でふっと息をつく。


「これで、数日は……」


俺は、解体された獣から得られた「資源リスト」を台帳に記しながら、冷ややかに答えた。



「ええ。獣の肉で、全領民が『3日』は食いつなげるでしょう。だが、お嬢様」


俺は、顔を上げずに続けた。

「この領地の『本当の敵』は、獣ではありません。――『飢え』です」



「3日後、この肉が尽きた時、我々は何を食う? この『仕組み』を、次は何で回す?」



獣という名の「災害イベント」は終わった。



「それが次のステップです。お嬢様」


だが、飢餓という名の「日常システム」が、今、始まったのだ。

…ほう。ここまでついて来るとは、貴方も相当『物好き』らしい。

ならば、せいぜい『ショー』の続きを楽しむがいい。そのための『チケット代』は、↓の『ブックマーク』と『★★★★★評価』だ。安いものだろう?

(※ポイントが多いほど、あのタヌキ(聖女)の断末魔が、より『鮮明』に聞こえるかもしれんな)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ