4話
獣が死んだ翌朝、領民たちが広場に集まってきた。
昨夜、ささやかな食料を手にした者たちの顔には、わずかに血の気が戻っている。
対照的に、動かなかった者たちの顔は、一晩分の飢えが加わり、虚ろな目をしていた。
やがて、動かなかった者たちの中から一人の老人が、震える足で一歩前に出た。
その視線が、懇願するように俺を捉える。
「……我々も、働かせてはもらえないだろうか」
俺は、その集団を冷徹に見据え、事実を突きつけた。
「お前たちは昨日、『投資』の機会を自ら放棄した。お前たちの『信用コスト』はゼロだ」
老人の顔がこわばる。
「だが、ゴミにも使い道はある」
俺は、谷底から引きずり上げられた獣の死骸を指差した。
「――あの『獣の死骸』の解体と運搬。この領地で最も汚く、最も過酷な『労働』だ。これをやるなら、『資産』の者たちの半分の『対価(食料)』で雇ってやる。」
ー選べ。と言葉にせず彼らを見つめる。、
彼らは、こわばった表情で互いに顔を見合わせた。
やがて、誰からともなく、一人、また一人と、ゆっくり頷いていった。
次に、俺は昨日働いた「資産」たちに向き直る。
彼らを、俺は「労働者」ではなく「技術者」として扱った。
明確な階級を作り出すために。
「お前たち(元鍛冶師)は、獣の『爪』と『牙』を武器に加工しろ。お前たち(元薬師)は『内臓』を薬の材料に選別しろ」
そして、若者たちを指名する。
「お前たちは、この作業場の『監督』と『警備』だ。――『負債』の者たちが、盗みやサボらないか、監視しろ」
「役割」と「地位」を与えられた彼らが「負債」たちに向ける視線は、昨日までの同情とは違う、冷たいものに変わっていた。
◇
獣の解体作業が始まった。
領地には、死肉の悪臭と、骨を断つ音、肉を切り分ける音が満ちていく。
俺は、その全てを冷徹に管理する「現場監督」に徹した。
全ての作業が終わり、日当となる「食料」が山積みにされると、俺はその前に立ち、そして、静かに一歩下がった。
促されるように、ソフィアお嬢様が全員の前に進み出る。
彼女は、俺の意図を正確に汲み取り、すっと背筋を伸ばし、「領主」として、そこに立っていた。
お嬢様は、働いた者一人一人の目を見ながら、自らの手で、計算された対価を分配していく。
昨日動かなかった者にも、昨日働いた者にも、等しく、その労働に見合った分だけを。
お嬢様は手渡す際に相手の目を見て優しく微笑む。
その微笑みだけで彼らは救われる。
ふむ、さすがは俺のお嬢様だ。
統治者として心得ている。
全ての分配が終わり、人々は皆、ソフィアお嬢様から「労働の対価」を受け取った。
この領地の新しい「仕組み」を、その身をもって理解した瞬間だった。
お嬢様が、俺の隣でふっと息をつく。
「これで、数日は……」
俺は、解体された獣から得られた「資源リスト」を台帳に記しながら、冷ややかに答えた。
「ええ。獣の肉で、全領民が『3日』は食いつなげるでしょう。だが、お嬢様」
俺は、顔を上げずに続けた。
「この領地の『本当の敵』は、獣ではありません。――『飢え』です」
「3日後、この肉が尽きた時、我々は何を食う? この『仕組み』を、次は何で回す?」
獣という名の「災害」は終わった。
「それが次のステップです。お嬢様」
だが、飢餓という名の「日常」が、今、始まったのだ。
…ほう。ここまでついて来るとは、貴方も相当『物好き』らしい。
ならば、せいぜい『ショー』の続きを楽しむがいい。そのための『チケット代』は、↓の『ブックマーク』と『★★★★★評価』だ。安いものだろう?
(※ポイントが多いほど、あのタヌキ(聖女)の断末魔が、より『鮮明』に聞こえるかもしれんな)




