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3話



館の広間に、重い沈黙が落ちていた。

「……毎年、村から一人、生贄を……。それが、獣と我ら『山の民』との契約でした」

リーダーの男が、絞り出すように告白する。



「……人身御供」

ソフィアお嬢様が、唇を震わせ、絶句した。




俺は、表情一つ変えず、男から聞き出した獣の情報を頭の中で反芻していた。



生贄を捧げる『祭壇』と呼ばれる岩場の構造、そして、特定の鉱石を打ち付けた時に発する高周波の音を、獣が極端に嫌うという弱点。




「戦闘」は不要。


最小のコストで、最大の利益を上げるための「仕組み」を構築する。



俺は、立ち尽くすお嬢様に向き直った。




「お嬢様。『救世主』を演じる準備を。――俺が、あの『獣』という名の『悪しき神』を、今夜、殺します」




翌朝、俺はすべての領民と山の民を、崩落した教会の前に集めさせた。


彼らの前に立ち、俺は演説などしない。


ただ、ーーー「取引」を提示した。




「獣は俺が殺す。だが、罠の準備には人手が要る」


俺は、山の民が持ってきた鉱石と、それを打ち付けるための鉄槌を指し示す。



「祭壇の周囲にこれを運び、設置する。これは『命令』ではない。俺の『計画』に『投資』する者にのみ、俺が王都から持ってきた『食料』を『対価』として支払う」



ざわめきが広がる。



やがて、飢えに耐えかねた若者たちが、一歩前に進み出た。


年端のいかない少女もいた。


そして、何人かの老人が、思案顔の末に、ゆっくりと列に加わった。


元鍛冶師や、元薬師。彼らは、この取引の持つ「影響力」という価値を理解したのだ。



「……やる」

乾いた声だった。



だが、大半の領民は動かない。恐怖に支配され、


「……無理だ」


「どうせ失敗する」


という囁きが、彼らの絶望を代弁していた。



俺は、その者たちに罰を与えることも、説得することもしなかった。



ただ、無価値なものとして、その存在を「無視」した。





その夜、計画は実行された。



「ワシの供物はどうした!!なぜ誰もおらん!!!」


山の民が、獣を祭壇へと誘導する。咆哮を上げ、岩場に現れた巨体を、俺は冷ややかに見下ろした。



「獣風情が……」

合図を送る。



物陰に潜んでいた「投資者」たちが、一斉に鉄槌を鉱石に打ち付けた。



キィィィン、という甲高い、耳を劈くような不協和音が鳴り響く。



「!?……ぐぬぅ……っ!!」

獣の動きが、明らかに乱れた。



巨体がふらつき、苦しげに頭を振る。自らの体を岩肌に打ち付け、狂乱し始めた。



俺の計算通り、獣は平衡感覚を失い、足を踏み外す。




「ヌォォォォ!!……」

断末魔の叫びと共に、巨大な影が祭壇の下、暗い谷底へと落ちていった。



獣の絶命を確認し、領民と山の民が、信じられない、という表情で立ち尽くす。



俺は、即座に「山の民」のリーダーの前に立ち、冷徹に告げた。




「契約は果たされた。お前たちの『恐怖』は消えた。――今この瞬間から、お前たちは『山の民』ではない。この領地を復興させる、お嬢様の『臣民』だ」




そして、俺は群衆の前で向き直り、ソフィアお嬢様の前に、静かに跪いた。



「お嬢様。この地の『悪神』は滅びました。――この『地獄』を『楽園』に変える、我々の『経営』の始まりです」



人々は、獣を殺した俺の「知略」と、その俺が跪くお嬢様の「権威」を目の当たりにする。



やがて、計画に「投資」した者たちが、約束の食料を受け取り、歓喜の声を上げた。



動かなかった者たちは、その輪に加わることを許されず、ただ飢えたまま、自分たちの「選択」が間違っていたことを悟るしかなかった。



恐怖ではない。救済と、明確な選別。



それによって、ーー「聖母ソフィア」ーーへの絶対的な忠誠の仕組みが、この地に産声を上げた。

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