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1話



王立学園の卒業パーティ会場。



シャンデリアの光が、人々の虚栄を照らし出している。俺、ヴィンセントは、主であるソフィア・フォン・クライネルト公爵令嬢の傍らに控えていた。



肌を刺す無数の視線が、ソフィアお嬢様に集まっている。



(……この空気。最悪の筋書き(ワーストケース)か。承知した。プランBに移行する)



思考を切り替える。焦りはない。ただ、次の一手を確定させる。



喧騒が止んだ。人垣が割れ、道が開ける。



道の先には、この国の第一王子アルフレッドと、その腕に寄り添う聖女ユナがいた。



アルフレッドは勝ち誇った顔で、ソフィアお嬢様の前に立つ。そして、声を張り上げた。



「ソフィア・フォン・クライネルト! 今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!!」

宣言と同時、お嬢様の肩が震える。



彼女が口を開くより早く、王子が叫んだ。

「衛兵!」



号令一下、武装した兵士たちが俺たちを無言で包囲する。完璧な封殺だった。



悲劇のヒロインを演じる聖女ユナが、王子に寄り添いながら口を開く。

「ソフィア様……どうして、あんな酷い噂を……」



涙を浮かべたその瞳が、一瞬だけ俺を捉え、すぐに伏せられた。


その動きに、冷たい計算が見え隠れする。


「まるで、誰かが情報を操っているかのようでした……。例えば、そう……『知略』に長けた、“とある有能な執事”のように」



会場が、ざわめく。



(……やられた。俺の『有能さ』そのものを、最大の『罪状』にすり替えるか。あの聖女、ただの小娘ではないな)


敵の策を冷静に評価する。次の戦いのために。



アルフレッド王子は、満足げに頷いた。



「ソフィア! 貴様は、その悪魔のような執事にそそのかされ、聖女ユナを虐げた! よって貴様らを、クライネルト公爵家が所有する最北の地……『忘れられた谷』へ追放する!」



それは「ゴミ領地」と揶揄される不毛の地。


事実上の、死刑宣告だ。


衛兵の壁の向こうから、侮蔑の囁きが聞こえてくる。



「見ろ、あの女……」


「自業自得だわ」


ソフィアお嬢様の顔から、血の気が引いていく。その唇が、絶望に震えた。



だが、その視線が俺を捉えた。


俺は、ただ静かに、背筋を伸ばしてそこにいた。


表情一つ変えず、王子の断罪も、周囲の侮蔑も受け流して。

その俺の姿が、お嬢様の中で最後の支えとなった。



(……私がここで崩れれば、クライネルトの誇りは、本当に地に落ちてしまう……!)



彼女の瞳に、再び光が宿る。


それは、大貴族の令嬢としての誇り。


ソフィアお嬢様は、震える脚で毅然と立ち、優雅に一礼した。



「……結構ですわ。その婚約破棄、謹んでお受けいたします」



その声は、静まり返った会場に、凛として響いた。



(……良い。それでこそ、俺が『投資』する価値がある)




その夜。


土砂降りの雨の中、王都を追われる馬車が不快な音を立てて揺れていた。



「ヴィンセント……私たちは、本当にあのゴミ領地へ……?」



お嬢様の不安げな声が、車内に響く。



俺は、雨に濡れる窓の外を眺めながら、静かに口元を歪めた。



「お嬢様。絶望するのはまだ早い」

俺は闇に沈む王都に背を向け、我が主に向き直る。



「あの『アホな王子』は、二つの致命的なミスを犯しました」



「一つは、この俺を『追放』したこと。そしてもう一つは……」



俺は断言した。

「――俺たちを、あの『ゴミ領地』へ送ったことです」

お読みいただきありがとうございます。

執事と令嬢の復讐劇は、ここからが本番です。

• もし少しでも「続きが読みたい」「こいつらの『ざまぁ』が見たい」と感じていただけましたら、

↓の☆☆☆☆☆から評価や、ブックマークを頂けると、作者の目ん玉が冴え渡ります。


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