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第五話   コミカライズって何ですか?①


※2025年4/21付けで内容を一部リライトしています (/・ω・)/


「おはよぉ」


 ノベル・コミック編集部に、白髪の多い男性が眠そうな顔をぶら下げてやってきた。

 有希はノートパソコンでメールを打ちながら「おはようございます」と返す。


「昨日さあ娘に言われたんだよ。あ、一番下の子ね。白髪染めたらって」


 この男性は秋灯社の漫画ノベル編集部長、備前(びぜん)吉近(よしちか)。私の直属の上司だ。六十手前の昭和生まれ。礼儀は重んじるも職場内の役職などただの飾りだから畏まった挨拶しなくていいという現代に合わせた思考の持ち主で、私も大いに甘えている。だから今も仕事の手は止めない。


「染めたらいいじゃないですか」

「染めてもすぐに白髪になるんだよ。先週の僕の頭、黒かったでしょ。それが一週間でこれ」

「いや、そんなこと覚えてないですって」

「そっかぁ。僕の中では大事件なんだよなぁ」


 備前はスーツの上着をハンガーにかけると窓際のデスクに座る。長身でやせ型のため枯木のような印象を受ける備前と二人きりだが、もう三年目となるとこの環境にも慣れた。



「大事件と言えば右バランス先生の様子はどうだった?」


 先日の著作権侵害騒動のことは報告書にして報告済み。先生のことを気にしているのだろう。


「仕事に差し支えはないですよ。引き続き『なれる』にも新作アップしてますから」

「なら良かった」

「心配なら先生の担当に戻ります?」

「戻らないよ。僕がやってることは所詮おままごとだからね」



 備前は現在の仕事に対してよく謙遜をする。備前は元々、社内のファッション雑誌部門で編集長をやっていた。役員に昇格するのが嫌で五年前にノベル・コミック編集部を新設した。『なれる』やイベント等で作品をリクルートして、編集プロダクションに協力を仰いて小説と漫画を世に出版する。それが我々の業務内容。この手法による作品づくりは、少し前までは少数だったが、近年は漫画のプラットフォーム拡大の影響もあって、出版社のみならずベンチャー企業や異業種までもが同じ手法で漫画市場に参加している。


「一生懸命つくったら、それはおままごとじゃないと思いますよ」


 有希は反論したのは備前の謙遜が内心気に入らなかったからだ。自分の仕事を侮辱されている気がする。もちろん、当の本人にはそんな意思がないことは分かっているのだが。



「新しいIPの人はどうだった?」

「私より年下だと思うけど頼りになります。知識人でした」

「よき友三つあり。一つには物()るる友、二つには医師(くすし)、三つには智恵(ちえ)ある友」

「徒然草でしたっけ」

「そうそう。物をくれる人、医者、知恵者。この人たちは昔も今も貴重な存在だ。今後はうちの編集部と協力することになると思うから天宮さんも仲良くしてあげてね」


 『悪レベ』の一件以降すでに何度か法務部に赴いていることは伝えたほうがいいのだろうか。若干舐められていることは伏せておきたいが。



 ふいに携帯電話の着信音がなる。作家からの電話だった。


「門矢先生か……」

 有希の一瞬表情が曇り、席を立った。


「お疲れ様です。天宮です」


 有希は受話しつつフロアを突っ切り、階段前にある非常扉を開けて外に出た。人一人が通れる幅の非常階段の踊り場で有希は足を止める。


「お疲れ様です」

 電話の主――門矢(かどや)(ひかり)は少し早口で挨拶をした。



 門矢光――現在ノベル・コミック編集部が運営する電子コミックサイト「ノベコミ」で『転生したらディケイドでした』のコミカライズ作画を行っている漫画家で、有希が担当する作家の一人だ。



「先週、天宮さんに相談したこと覚えていますか?」

「門矢先生が連載されている『転ケイ』のイラスト集のことですよね?」

「そうです、そうです」


 有希は先週、門矢から「ファンの人たちから要望があって、自分のSNSで『転ケイ』のイラスト集を電子販売したい」をいう相談を受けていた。


「あの件って結局どうなったんですか?」と有希は疑問を投げかけた。

「天宮さん知らないんですか?」


 話が妙に噛み合わない……どういうことだ?


「秋灯社の詩海さんという方から販売の取り下げを命令されました」

「えっ、販売?」

 しかも取り下げ? 詩海くんが? 疑問符をぷよ〇よみたいに積むのは止めてほしい。


「ちょちょ……ちょっと待ってください。イラスト集を販売したんですか?」

「はい。自分のN〇TEで」

「この前、法務部に「配信を三日待ってください」って連絡を受けたじゃないですか。何で販売したんですか?」

「すでに告知もしてたし、ファンを待たせちゃ悪いかなと思って。それに同人誌みたいなものだから別にいいかなと」


 確かに門矢は秋灯社と正式な契約をかわして現在『転ケイ』の作画を描いているいわば公式作家で、言い分もわかる。でも法務部が三日待ってと言ったことは気になったし、それに門矢がイラスト集を販売していてたこと、詩海が門矢に対して取り下げを要求していることは有希にとって新事実だった。


「取り下げの要求ってメールで届きました?」

「はい」

「CCに私、入ってますか?」


 数秒経ってから「あれ、天宮さん入ってないや……」と門矢が独り言を述べる。



 それはつまり詩海が自分を意図的にCCから外したということだ。頭の中で情報が錯綜していて処理が追い付かない。


「天宮さん?」

「す……すいません。何ですか?」

「僕、どうしたらいいんですかね?」


 それはこっちが聞きたいくらいだ。



 どうやら色々なところで色々な思惑がはたらいているようだ。急に黒の組織に命を狙われていないか気になり周囲を確認するもいつもと変わらない都内の景色が広がっている。


「確認してきます」


 有希は挨拶を交わしてから通話を切る。

 非常扉を開けた。話を聞かなければならない被疑者が社内の二階にいる。

 有希は駆け足で階段を下りて行った。




アルルかわいいよアルル!(/・ω・)/



※本作品は実在の法律的根拠ならびに過去の判例を参考に作品を執筆しているエンターテイメント作品のため、

 法律または法律的助言の提供を目的としたものではありません。

 法解釈における正確性や妥当性に関しては努めて配慮しておりますが、

 作品外における作品内容の利用に関してはご自身の判断でご利用ください。


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