第四話 リーチサイトって何ですか?①
「あー……楽してお金稼ぎたいなぁ」
「急になに言ってんの」
「お金振ってこーい……」
都内にあるショッピングモール内のカフェテラス席。
芽衣は机の上で突っ伏している有希の頭の上に飲みかけのグラスを置いた。
「冷たい」
「体を机に置かないで」
「うい」
有希は姿勢を戻す。スカートを履いてフェミニンなメイクを施している芽衣に対して、パンツ姿の有希は普段の仕事姿と変わりない。
「先日、館山昌平モデルのグラブが販売されてさ。それ欲しいんだけど値が張ってねぇ」
「グローブならすでにたくさん持ってなかった?」
「山田、石川、奥川モデルも持ってるよ。でも今回は館山昌平の限定モデルだから……」
「はいはい、わかりません」
そう言って芽衣はカシスジュースを飲む。
有希は顔を後方の映画館に向ける。休日もあって大勢の人で賑わっていた。
「芽衣、さっき見た映画『笹野宮と大久保』、どう思った?」
「BL系だけど青春メインで面白かったよ、けど、声優の『この声が欲しいんだろ』みたいなセリフがちょっとウザかった。最近のアニメって何でああいう描写入れるの?」
「声オタ向けでしょ。それを聞きたい人たちもいるんだよ」
「安直じゃん。アニメの外でやればいいのに」
「顧客誘引ってやつ。クソ真面目に制作すれば売れるかといったらそうじゃないし」
「でも準主人公ポジの桐原くんは最高だった」
「みんな長ズボンの制服履いてるのにどうして桐原くんだけ半ズボン履いてたんだろうね」
「それはショタだからでしょ」
「それが常識みたいに言っててこの人こわい……」
「何でわかんないのよ。漫画編集者のくせに」
「私は一般ピーポーなので」
有希は芽衣に買ってもらったマンダリンフラッペを飲む。本当はカフェラテが飲みたかったけど、所持金は全て足元の紙袋に入っている東京ヤクルトスワローズのグッズに費やしていた。
「いっそのことユーチューバーにでもなれば。それかSNSでスカートひらひらさせて踊るとか」
「エロ売りで収益ですか。マイハートが拒否してる」
「それなら顔売りでいいんじゃない。有希は見た目良いから」
「アラサーの顔売りひらひらダンス……」
「やめて言わないで。ダメージがこっちにも来る」
有希が噴き出すように笑うと、芽衣も同じタイミングで笑い出した。
「でもお金稼ぎするときは気を付けたほうがいいよ。この前、知り合いの同人作家さんがトラブってたから」
トラブルと聞いて有希は手で耳を塞いだ。
「何してんの?」
「いや別に……続けてどうぞ」
「違法サイトが知り合いの同人誌を勝手にアップロードして広告収入を得てたらしいの。でも同人誌ってある意味海賊版みたいなところがあるから泣き寝入りするしかないよね」
「そうかなぁ。うちの法務部は違う答えを出しそうだけど」
「最近、法務部によく行ってるって言ってたね」
「助けてくれる人がいるの。私はその人のことを法務えもんって呼びたい」
「呼んじゃダメでしょ。お世話になってるのに」
そこで芽衣が「あっ」と間の抜けた声を漏らす。
「だからさっき包装されたお菓子買ってたんだ。普段はグミと大容量の安いお菓子しか買わない有希が……」
「失敬な。和菓子も洋菓子も好きだよ!」
「あのさ、その人ってどんな感じの人?」
「氷属性で私のこと絶対ポンコツって思ってるけど頼りにはなるかな。顔はイケメンだった」
「それでそれで?」
「この前ランチを一緒に食べた」
「つまり恋の予感10ポイント稼いだと」
「あと串揚げ十本あげた」
「はいマイナス1000000ポイント。串揚げプレゼントするな。可愛さアピールしろ」
「理系の大学に通ってるって」
「えっ……大学生に手を出したの? 何それ、インサイダー取引とかじゃないの」
「何で勝手に株買ってんの。そもそも私、恋愛なんてしてないから!」
思わず立ち上がってしまう。生まれてから今まで異性との交際経験はないから恋愛がどういうものか分からず育った。でも、恋愛要素をいじられると恥ずかしさを覚えるこの気持ちは一体何なのだろう。
「ごめん」
有希の恋愛事情を知っている芽衣は突っ伏すように頭を下げた。
「カフェラテ追加。ホイップクリーム増しましで」
「御意」
「……許す!」
芽衣は「ははーっ」と恭しく頭を下げてから備え付けのタブレットで追加の注文を行う。
「さっきの違法サイトのことだけど、念のため聞いておいてあげるよ」
「株価上昇……っと」
「アラサーしつこい!」
「何ですってぇ!」
芽衣が机を叩くと到着したばかりのカフェラテがグラスごと揺れた。
それから二人は席を三時間占有して、閉店間際にショッピングモールを後にした。
気がついたらBLと食べ物のことばかり書いてました!
グミはP〇reとフィ〇トチーネが好きです!(/・ω・)/オススメー
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