第14話 ファイナンスって何ですか?①
※14話につきましては13話とは連続性なく、純粋な短編です。
よろしくお願いします…!
「こんにちはー」
藍色のバケットバッグを持った有希が秋灯社の法務部に入室する。開け放たれた窓から六月の穏やかな陽光が取り込まれた室内には、詩海が自分の席で書籍を読んでいた。
「山じいはまだ入院してるの?」
「連絡ならすぐにつくよ」
「大した用事じゃないから大丈夫。これ渡してもらえないかな」
有希はバケットバッグの中からパック詰めされたサクランボを取り出した。
「山形にいる友達からもらったからおすそ分け。これは山じいの分で、これは詩海くんの分」
「ありがとう」
詩海はサクランボの果実を指でつまむと興味深そうに眺めた。
「なに読んでるの?」
「これ?」
詩海は持っていた書籍を有希に見せる。
表紙には『正しい借金の仕方』という題号と今風のアニメイラストが描かれていた。
「最近はそういう萌え系を装った書籍多いよね」
「普段読まないようなオタク層にもリーチできるからね」
「逆に一般人の方は嫌煙すると思うけどなぁ」
有希は表紙に描かれている太ももを少しはだけさせて借金におびえるようなポージングを取っている美少女を見て苦笑した。
「詩海くんは電車内でそれ読める?」
「読めるよ」
「割とパワータイプなんだね……」
「美少女イラスト風実用書は最近多いから言うほどマイノリティじゃないでしょ」
「でも借金の実用書って何か怖くない?」
「借金をメインに扱っているけど債権や融資の説明もある普通の本だよ。読んでみる?」
有希は渡された書籍をぱらぱらと捲る。用語の説明や要点に対する現代的解釈が漫画調に描かれていて内容自体は一般書籍と大差ない。図解されている分むしろ読みやすいとさえ思えた。
「大学の資料よりも読みやすい……こういうのって売れるのかなぁ」
「販売部に聞いてみたらいいんじゃないかな」
「そうだね。今度聞いてみる」
有希は書籍を返す際、詩海のデスクの上に、奇抜なファッションに身を包んだ外国人を表紙にした雑誌を見つけた。
「詩海くんが生身の人間に興味を持つなんて珍しいね」
「否定はしないけどその言い方は気になるな……」
詩海は雑誌を手に取る。赤い髪とメタリックな宇宙服に身を包んだ外国人の上に『金融界に殴り込んだ伝説のボウイ債権』という文言がデザイン書体で描かれている。
「金融界の人なの? 見た目がとてもアーティスティックだけど」
「イギリス出身の歌手だよ。名前はデイヴィット・ボウイ。世界的に有名なロックスターで、彼が発表したレコードは全世界で一億枚以上売れているんだ」
「一億枚……じゃあ、詩海くんはその人のファンなの?」
「ファンじゃなくて大学で研究しているだけだよ。彼は有名ではあるもののいち音楽家でしかなかったんだけど、一九九七年にとある債権を発行して当時の金融界で話題になったんだ。それが通称『ボウイ債』」
「研究ってもしかして知的財産と関係があるのかな」
「そうだよ。それに天宮さんも職務的には接点がある」
六月はサクランボの全盛期です。
果物たべたい。
よろしくお願いします……!
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