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第12話   紙片に宿る想い③



 有希は修正を進行するうちに『アニマ!』にもついて理解を深めていく。

 扱っているタイトルの多くは大衆的な作品が多い。しかし掲載されているキャラクターの大半は男性キャラで、声優の記事も男性声優が中心に掲載されていた。


「『アニマ!』って女性向けなんですか?」

「ああ。一昔前の『アニマ!』はどちらかと言えば男性向けの内容だったが、あるとき女性向けの記事が当たり始めて、今では御覧のとおりどっぷり浸かっちまった」


 どっぷり、と言われるも有希に違和感があった。女性向け雑誌は他にも存在するが、それらは女性が好みそうな作品を広く深く集めるなど内容を特化させている。それに対して『アニマ!』は夕方五時頃に放送しているような大衆作品が多く中庸的な雑誌に収まっていた。


「どうした?」

「言うほどどっぷり漬かってるかなと思って……この『忍たま〇太郎』ってN〇Kの子供向けアニメで日本人なら誰でも知ってるじゃないですか。女性向けかと言われると違うような」

「それは我々の上の世代のおば……お姉さま方向け記事だ。オタク界隈で聞いたことないか。初恋の相手は土井先生だったって」

「あります。そういう読者へのアプローチなんですね」

「結構反響が良いんだよ。記事にしてくれてありがとうってよくファンレターも届くからな」


 立ち上がった茶谷はフロアの隅のロッカーを開ける。棚には段ボールが複数収められていて、その側面には『土井先生』と書かれた紙片が張り付けられていた。


「昔は携帯電話もインターネットも無くて得られる情報が少なかった。そういう環境において全国同時視聴できるコンテンツって影響力があるんだよ。誰かが好きになるということは他の誰かも好む可能性があって、その感覚が現代で共有されることで『土井先生』というキャラクターに対して共感的付加価値が生まれたんだろう」

「えっと……」

「ああ、すまん。大学で経済学を専攻してたからたまに経済用語が出るんだ」

 そう言って茶谷はデスクに戻った。


「ということは、次の記事のポ〇モンもそういう観点で掲載されているんですか?」

「コジロー人気、エグいの知らん?」

「知らないです……」

「私たちの世代はコジロー旦那推し多いよ」

 旦那推しって何だろうと思いつつ帰ってこれない亜空間に連れ込まれそうなのでここは黙る。

「コジローのあとはジャンプ世代が強くてテ〇プリや銀さんとかすごかったな。私は跡部すっごい好きでファン創作とか非公式のイベントにも参加してた口で……天宮ちゃんは『跡部王国』って知ってる?」

「自治体ですか?」

「技だよ!」


 技……?


「学生んときは友達と毎年跡部のバレンタインチョコつくってたんだよね。懐かしいわぁ」

「はぁ……そうなんですね」

「最近はテニ〇リよりも『滅入(めい)りました外間(そとま)くん』の方がBL的に熱いから『アニマ!』でも特集してるよ」


 『滅入りました外間くん』とは天使学校に無理やり入学させられたダウナーな少年外間くんが様々な困難を滅入りながら解決する人気漫画の原作で、現在N〇Kで放送中の大衆向け作品だ。個人的にはキャラデザが凡庸でなぜ人気なのだろうと思っていたけど、茶谷いわくお嬢様たちから熱い視線を注がれているらしい。個性豊かな男性キャラが多いため想像が捗るのだろうか……そういえば主人公の声優が上椙楼だったような。


「法務部の若いやつ……」

「詩海くんですね」

「彼と話したときお礼を言われたんだ。『外間くん』が好きで『アニマ!』での特集を毎月楽しみにしてるって」


 あの詩海が直々にお礼を述べるとは……有名アニメ作品だから視聴している可能性も十分にあるけど、特集目当てで雑誌を毎号購入するのは熱の入りが幾分強いようにも思える。お嫁さんにしたい女性キャラクターでもいるのだろうか。



 ふいに着信音がフロアに響いた。

 茶谷は携帯電話のディスプレイを見ると表情をしかめた。

「未登録の着信だわ……誰だよ。深夜の二時だぞ」


 茶谷は文句を言いながら電話に出る。

 有希は体の向きを戻して作業を進めた。


 茶谷は電話越しに何度か言葉を交わすと、急に背筋を伸ばして立ち上がった。


「あっ、そうなんですね。あはは!」

 作り笑いと過度な謙遜を繰り返したあと「失礼します」と敬語で通話を終えた。



「……通話相手さ、上椙本人だった」

「ええっ……本人多忙じゃないんですか?」

「だから驚いてるんだよ。でも偽物には感じなかったし……」

「内容は?」

「『アニマ!』の掲載の件、このまま進めていいってさ。軽く詫びも述べてた」

「翻意したのは何だったんですかね?」

「知らん!」


 椅子に腰を落とした茶谷は全身が脱力していた。しかし解決して何よりだ。


「ああ、もう権利元に振り回されたくねえ。楽な仕事だけしたいぃ!」

「あはは……」


 茶谷はしばらく暴れていたが徐々に静かになっていく。

 有希が隣を一瞥すると、茶谷はそのまま眠りについていた。

 立ち上がった有希は自身のジャケットを茶谷にかける。黒縁眼鏡の奥ではクマが目元に広がっていた。


 有希は再校作業に戻る。インタビュー記事の特集では両面開きのページに文字の羅列がびっしり並んでいる。聞いた内容を編集することも、ライディングすることも、そして修正することも、全ての工程において苦労がある。


「編集って大変なんだなぁ……」


 有希は引き続き作業を進行する。『アニマ!』の入稿期限は記憶の限りでは午前八時。それまでに入稿するなら前日分として作業を進める。たった一日が命取りになることも編集としてよく知っている。有希は眠る茶谷を隣に、可能な限り修正を進めていった。



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芽衣「あいつが分身する前まではちゃんとテニスしてたから」

有希「仕事中に電話かけてきて何なのコイツ……」


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※本作品は実在の法律的根拠ならびに過去の判例を参考に執筆しているエンターテイメント作品のため、

 法律または法律的助言の提供を目的としたものではありません。

 法解釈における正確性や妥当性に関しては努めて配慮しておりますが、

 作品外における作品内容の利用に関してはご自身の判断でご利用ください。

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